第2回 インターネットの底力
不特定多数の人々が出入りし、その匿名性から、さまざまな書き込みが秒単位でなされ、今や世界的に見てもその規模は最大級といわれる、巨大掲示板「2ちゃんねる」。ここから派生したさまざまな造語や新語は、今後の「流行語」になりうる可能性を秘めている。なんとなれば、今後、個人がパソコンを持つことはほぼ当たり前となり、コンピュータアレルギー世代といえる、昭和30年代以前生まれの比率が年々低下していくにつれて、コンピュータ・インターネットは、あって当たり前、なくて不便という時代がやってくるからである。そして、ネットを介した会話の中で出没する「2ch語」は、広く伝播する可能性があるからである。
これだけでも、インターネットの底知れぬ可能性を見出すことも可能なのだが、2004年、大盛り上がりとなり、よもやの書籍化、しかも50万部を超える大ヒットとなった「電車男」も、元はといえば、この2ちゃんねるの中での出来事なのである。「電車男」誕生のきっかけは、典型的なアキバ系オタクの男性(彼が主人公)が、京浜東北線に乗り合わせて、酔っ払いに絡まれている女性グループを助けたことからである。(まとめスレを発見!これを読めば、正直、電車男本、買わなくてもいい?まあ、とりあえず、こちらからどうぞ。)
ネットで盛り上がったときは、「同類相憐れむ」を地でいく展開で、どちらかというと、そんなにうまくことが運ぶわけない、と誰もが思っていたはずである。ところが、とんとん拍子で話が進み、それに釣られるように、住人が増えていく。そして、ついに電車男は彼女をゲットし、それを住人たちは感激を持って受け入れ、笑顔で送り出していったのだった。一応、物語の主人公は二人のはずなのだが、彼らの恋愛ストーリーが完結したのは、彼らだけの力ではない。数百人の「毒男」と呼ばれる、独身男性(独+男→どくお→毒男となったとみられる。これも立派な2ch語)のエールがあればこそである。
では、なぜこの本が売れたのか?を問うときに、われわれはひとつの事象を忘れてはいないだろうか?そう、テレビ放映時はさほどの視聴率も残せなかったにもかかわらず、急速にブーム化、女性週刊誌までが取り上げたカリスマ的アニメーション「新世紀エヴァンゲリオン」の存在である。このアニメーションが一挙に衆目の的となったのには、完全にインターネットの影響がなくてはならないからである。実際、あのアニメーションのエンディングについては賛否両論あり、そこに一般人が巻き込まれる形で参加し、話が盛り上がっていった。さらに芸能人の「はまっている」発言などが頻出、ブームの肥大化に拍車がかかり、最終的には、劇場用作品を2タイトル出すまでに膨張した(その後の尻すぼみ状態についてはここでは割愛する...)。今回の一件もこれに近いものだと推定できる。しかし、ことは「恋愛」。そこで追加されるもうひとつのファクターが「純愛もの」という要素である。
「世界の中心で、愛をさけぶ」「いま、会いにゆきます」など、泣かせる原作が目白押しの小説界。今この業界が、涙に飢えている女性たちのハートをしっかりつかむためには、純愛という二文字がなくてはならない。突然の出会いが愛に発展していく「電車男」のストーリーは、最終最後の瞬間まで、恋愛感情がお互いわからないまま推移した。正確には、男性側の片思いで終わるかに思われた。そして、最終章で涙まみれの告白タイムを経過し、一気に昇華した。ここにこの作品のつぼがあるように思われる。
そして、ここで別のネットねたを使った出版の話が持ち上がりつつある。現在は進行形の話で、確定的な話は何一つないのだが、あの、新潟地震で被災し、それでも一人のけが人も出さなかった「とき325号」を題材にした『絵本』である。すでに一部ストーリーなどはこれまた2ちゃんねるスレなどにも紹介されており、幼い子供さんが読んでも難しくない風に書かれている。ここでは、車両の「とき」と、整備士の「おじさん」との会話がメインになっているのだが、大の大人が読んでも感動する秀逸な作品である。災害ものは、阪神大震災を題材にしたものもいくつか発表されているし、本になる可能性はかなり高い。
もし書籍化されれば、ネットねたが絵本になった、ということでこれまた話題を掻っ攫うことは間違いない。いずれにしても、書籍界が、ネットに注目し始めた今年、更なるビッグヒットがネットの中から発掘されるかもしれない。
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