第10回 なぜそこまで焦るの?
尼崎で起こった、列車の脱線転覆事故は、列車そのものの撤去も大詰めを迎え、現状のさまざまな証拠集めと、事故発生のメカニズムの解明といった、事後処理の段階に入った。
ここでも改めて哀悼の意を表したい。曲がりなりにも、鉄道関連を趣味とし、旧国鉄をはじめJRにもいろんな場所で世話にもなった小生にとって、今回の事故は、ただの速度超過で起こった惨劇とは到底受け入れがたいのである。
背景にあるものすべてが原因として特定されるべきであろう。定時運行、「日勤教育」、「利益第一主義」「旅客の奪取」。よくよく考えると、山陽新幹線は、線路規格がいいからという理由で早々と次世代新幹線を世に送り出し、スピードアップを推し進めてきた。地震列島・日本で、「とき」が本当にたまたま死傷者ゼロで済んでいたことは、奇跡としか言いようが無い。九州でも地震が頻発している折、どこまで安全運行が保たれるのか、疑問に思わずにはいられない。
現場は、兵庫県警による現場検証がいまだに行われており、さらに、鉄道事故調査委員会による、強制力のある保全命令が継続中で、抜本的な復旧作業は行われていない。もちろん、事故現場をモニュメント化する構想などあるはずもなく、安全対策がそこそこ講じられてから、復旧・運転再開が常道と誰しもが思う。私も「工事は突貫で行われるにしても、つける予定だった新型のATSは、前倒ししてつけてからの再開が本筋だな」と考えていた。ところが、JR側は、「復旧の際にATS工事予定を前倒しすることは無い」と言い切ってしまったのである(現在確認できているのはTBSの動画ニュースのみ。新聞各紙からは、「復旧協議自体がまだ」と報じるところもある)。
まあ、JR側にしてみれば、「今回はいろいろ不運が重なったから起こった事故。普段どおりであれば何の心配もないはず」と高をくくっていると見られる。こういうところに、人命軽視の考え方があるのではないか、と邪推してしまうのである。
どうして前倒しができないのか、具体的な説明はなされていない。なのに運転再開ばかりに気をとられているような発言が、ここ最近増えてきている。社長の訓示は、まさに、「事故後」の体制作りを指示したものといえ、今後すぐにでも復旧できるように努力すべしと考えていることは間違いない。その中で、「事故により、今までの取り組みが十分でなかったことが示された。社員一丸となって安全対策に取り組むことで会社発足最大の危機を克服し、信頼回復につなげることができる」(訓示内容要旨/毎日新聞サイトより)といっている。何度も書くようだが、安全対策を講じるのは、事故原因がどこにあったかがはっきりしてからでも遅くは無く、こんな二枚舌では、到底信頼できるものではない。
焦りたくなる気持ちもわからないではない。確実にJRの利用客が減っているからだ。体感的にだが、行楽で遠方に向かうならまだしも、京阪神間の移動で、他に選択肢がある旅客は他の私鉄にスイッチしている人が多いと見られる。振り替え路線も大混雑が続いていると聞く。一日も早く復旧させたいと思うのがJRの考え方だろう。しかし、焦ってまで結果を出す必要がどこにあるというのか?「対策できましたので乗ってください」が本筋のはずだ。復旧したとしても、JRには残された課題は山のようにある。補償問題はかなりこじれることが予想されるし(日航機墜落事故もかなりの時間がかかった)、事故現場となったマンション住民にも災禍は及んでいる。「終わりが無い」事故処理に真摯に向かう姿勢が問われるGW期間中になりそうだ。
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