第11回  お題目だった「安全第一」
 工事現場では、服装にうるさい。ヘルメット、安全帯、安全靴を要求する現場すらある。これらを総称して、「保護具」というのだが、これらがどうして必要なのか、ご存知だろうか?
 「そりゃ、自分の身を守るために着けてるんだろう」という人が大半である。この答えも実は正しい。しかし、別の答えをある人から聞いて、うなったのを記憶している。
        「他人の不注意/不慮の事故から身を守り、仲間どおしの連帯感を強めるため」
 なるほどな意見である。確かに自分自身の体なのだから、保護具なんか必要ないと考える作業員がいても不思議は無い。しかし、運悪く、その保護具なしの作業員が他人のせいで怪我をしたとしたら、彼の所属している会社全体の問題となる。下手をすれば以降仕事をもらえなくなってしまうかもしれない重大な違反事例なのである。規則に縛られるのがいやな私も、作業員当時はこの規則は絶対と考え、規律を最大限守って作業したのを覚えている。

 工事現場には、必ずといっていいほど「安全はすべてに優先する」というスローガンが掲げられている。これはとりもなおさず、事故・怪我の無い職場で働こうという意思表示であると同時に危険箇所の発見/是正・不安全作業の禁止を謳った文句である。安全に作業を進めるほうが、不具合もおきず、かえって工期がはかどり、みんなにいい効果が生まれる、という意味合いもあるらしい。

 安全に旅客を運送できた結果として、売り上げがあり、利益も出るはずの鉄道会社。利益は、結果として出るだけで、多くの零細私鉄の場合、安全面に配慮するあまり、利益が無い、もしくは赤字というところも少なくない。しかし、この論理が逆になったとしたらどうだろうか?利益が先にあり、安全に対する投資や教育を必要最小限しかせず、余裕が無く結果的に旅客に急かさせたり、あるいは時間通りに乗り継げ無いような無理なダイヤ組みをしてもかまわない、と思われる風土が、JR西日本にはあったとしか考えられない。もちろん、末端の社員一人一人にまでこの論理がいきわたっているとは考えにくいのだが、会社の経営方針が利益重視であることはさまざまな資料からも明白である。
 実は、5月14日は、14年前のこの日、信楽高原鉄道とJR西日本の列車が正面衝突し、多数の死傷者が出た日でもある。お互いの連絡不行き届きが事故を招いたとする判決が出て、当初非が無いといっていたJR側もそれを受けて遺族たちに謝罪した。このときの社長が現在のJR西日本の社長氏その人である。5/13の国土交通委員会の参考人招致の際にもこのことは鋭く議員から突っ込まれていた。「安全」をどこかに置き去りにしたまま、ひた走るJR西日本。第2・第3、いや、第3・第4の悲劇が起こらないことを、そしてそんなバットタイミングにJRの電車に乗り合わせていないことをただただ祈るばかりである。
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