第 5回  毅然とした国と真逆のマスコミ
 
 蕨市のフィリピン人・カルデロン一家。こう書き出しただけで「彼らが何者なのか」知らない人は少ないと思う。
 夫・アラン氏と妻・サラさんは別々に偽造パスポートで入国。知り合い結婚。のり子さんを産むことになるのだが、二人の不法入国/不法滞在が発覚したのは2006年。もちろん強制退去となるべきところだが、生まれた子供の教育問題などをうまく利用して、法務大臣裁量の「在留特別許可」を引き出したい考えだった。
 しかし結果的に「子供はともかく、両親は国に帰りなさい」という当初の判決が覆ることはなかった。とはいえ、「即時退去・強制送還」が普通の不法入国者対応が多い中にあってなんと1ヶ月も猶予期間を設け、「一家で帰るもよし、子供を残すのだったらちょくちょく日本に来てもよし」という、この上ない計らいをしてもらった。そして4月13日、空港での「涙の別れ」が大きく報じられるところとなった。

 しかし、この問題を取り上げるマスコミ各社は、時として過剰に人権擁護団体よろしく「一家がかわいそう」という論陣を張っている。それは、おそらく、「子供に立った視点」からの報道だからだ。年端も行かないのり子さんに両親は必要。強制退去処分の対象に娘は関係ない。だったら一家そろって住まわせてもいいのではないか(娘さんは悪いことしていない/罪はないから)という考え方だ。
 この考え方の欠陥は、ずばり「両親の罪」を不問に付していることにある。もし、このような特例が認められれば、ずるがしこい他国からの不法入国者が子供を盾に次から次に「特例」を申請することになりかねない。そして特例が特例でなくなり、日本は不法滞在者であふれてしまう。ただでさえ外国人犯罪者が蔓延している日本にあって、入国管理に必要以上のお目こぼしは必要ないのだ。

 カルデロン夫妻がまじめに、社会生活を営んでいたことを情状酌量せよという声もあった。しかし、それは裏を返せば、「人知れずうまいことやっていた」だけのことであり、前提となる不法入国/不法滞在の罪が消えるわけではない。この問題を担当している弁護士は、あるコメントで「一部の人たちに外国人排除の発想があるのでは」と述べているが、この言い草こそ、「ちゃんと規則にのっとって日本にやってきて、まじめに生活している」他国の人々を蔑ろにする発言だといってもいい。何度も書くが、夫妻は、法を犯して日本に来ていた。それが具合が悪いといっているだけである。そして、そのことは、娘さんの教育上問題があり、国連の人権規約と照らし合わせても「法のほうが強い」という日本の意思表示であるとも言える。

 人権を大事にすれば、犯罪を犯した人間もある種守られる。あの光市の母子殺害事件と同等に論じることはできない(カルデロン夫妻は入国管理法違反だけ/もちろん他人さんには迷惑かけていない)が、だからといって国の根幹を揺るがす不法入国を許さなかった国の態度にはうなづくところが多い。翻って、この報道の仕方。お涙頂戴らしさばかりを演出しているようで、鼻についてしまって仕方ない。こんなだから「マスゴミ」呼ばわりされるのである。
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