第14回 「有事」に目を背けない組織
台風シーズンであり、そもそも海は比較的荒れている時期に、盲目のセーラーを連れて太平洋横断を画策した辛坊治郎氏。しかし、志半ばどころか日本出発からわずか5日で乗っていたヨットに浸水し、SOS。救助に向かった海上保安庁では時間がかかることもあって、急遽海上自衛隊の出番となり、ここで水陸両用艇の国産機「US−2」が登場、見事任務を遂行して帰還した。
ネット上では、このUS−2の存在自体がそれほど多く知られているわけでもなかったため(ミリタリー厨ぐらいしか知らんでしょうw)、その独特のシルエットと、戦時中の「二式大艇」の直属の後継機でもあること、何よりカタログスペックを上回る気象条件にもかかわらず果敢に着水に挑戦し、エンジン一基が故障する中でもやり終えることが出来る錬度の高さを中心に話題となり、遭難者無事確保より「そのかっこよさ」にスポットが当たっている。
実際のところ、救難信号を受けて最初に動いたのは海上保安庁。ところが船だと現場海域に到着するのに時間がかかるとなって急遽海自にお鉢が回ってきた。しかし、ここで「あたふた」しないところがさすがである。事実、一機は現場海域を捜索することに腐心したために燃料切れとなり、彼らを収容したのは2機目であるということからも、準備が周到に行われ、かつかなり大勢の隊員が動いたことも想像に難くない。
これこそが自衛隊の本領であり、また、無謀な出航をしたとはいえ、海の藻屑にならんとする人間を叱ることもなくただ救助するという「難題」を華麗なまでに遂行できてしまう。思想信条にとらわれず、そこにある生命の危機に真摯に立ち向かう姿を見て、左巻きといわれる辛坊氏の心の中が大きく動いていることだろう(実際、しばらくテレビ出演等は差し控えたいとする意向を出している)。
「自衛隊は悪だ」とか「日本に軍隊は不用だ」とか言っている左派は未だに多い。日本が裸同然になれば他国は侵略してこない、だから9条改正反対、なんていう脳内お花畑論者も残念ながらいる。しかし、もしあの局面で、自衛隊の水陸両用艇がなく、船の到着を待っていたとしたら、あの二人が五体満足に帰還できたかどうか。骸になって祖国の地を踏むという最悪の結末もあっただけに、すばやい動きと、確実な「仕事」は国内のみならず世界にもいいアピールになったと思われる。
今回は遭難という事案だったが、東日本大震災のときでも真っ先に動いたのは自衛隊である。彼らの存在にもっともっとスポットが当たってもいいように思うのだが。
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