November.6,2000 田口ランディにはなれない

        ランディ派さんのお薦めに乗り、田口ランディの本を読んでみようと思った。本屋へ行ったら、最新刊の『できればムカつかずに生きたい』(晶文社)が出ていた。この人のエッセイ集のタイトルは、どれをとってみても上手い。さもありなん、プロフィールを見ると広告代理店だの編集プロダクションだので働いていた人だ。今回のも、ふっと目を引き、読んでみようかなという気にさせる、上手いタイトルだ。しかも表紙が白人の少女が頬杖をついて、こちらをジッと見ているモノクロ写真。そこにピンクの文字で『できればムカつかずに生きたい』。こりゃあ、売れるよ。どこまで田口ランディが表紙やタイトルに関わっているか知らないが、ちょっとひねくれた私など、なんだか作為的だなあと感じてしまう。

        ランディ派さんの言うように、まずは自分と自分の家族との関係に触れたところは、すさまじいものがある。酒乱の父。夫の言うなりになって、ランディに愚痴ばかりこぼす母、そして、40ヅラさげてひきこもりの兄。すでに、母と兄は亡くなっているのだが、この家族との葛藤が凄い。とてもマトモな神経では押しつぶされてしまうだろう。こんな家庭環境を、田口ランディは冷静に分析してみせる。これは、露悪趣味以前に、とうてい出来るものではない。

        私はランディ派さんの書きこみから、ある程度、覚悟していたものの、田口ランディという人はかなりヘビーなエッセイストだった。私など物事を深く考えようとせず、ヘラヘラと生きてきたわけで、田口ランディのこの本のように、プチ家出の少女やら、いじめの問題など真剣に考えたこともない。彼女の言う[いじめのシーツ理論]というのは、何回読んでも解らない。やっぱり私はバカなのだろうか。

        田口ランディの書く文章の圧倒的な迫力にタジタジとなりながらも、私など、何でそんなに、全てのことに理屈をつけなければいけないのだろうかと、疑問を感じてしまう。

        あとがきによると、今回の本は、思春期に体験した事への回答なのだそうである。偉いよなあ。そんなことを、今になって落とし前つけようなんて。だめだ、私なんかにはとうてい出来ない。もちろん、やる気もないけど。

        田口ランディは、インターネット・ライターから、作家になったそうだ。私も恥ずかしながら小人数相手に書いている。さて、あらためて一年以上書きなぐったわがバカ文章を読み返しているうち、「だめだこりゃ、とうてい田口ランディにはなれない」という絶望感を味わった。

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