February.15,2001 これからが楽しみな社会派ミステリ作家
『このミステリがすごい』の第2位になった横山秀夫の短編集『動機』(文藝春秋)を読んでみた。表題作は日本推理作家協会賞短編部門賞の受賞作でもある。
一括保管してあった警察手帳30冊がそっくり盗まれる話。これに『動機』というタイトルをつけてしまっては、ちょっと推理小説を齧った読者ならすぐに真相が分かってしまわないか? 私は読み始めてすぐに分かった。ようするに、木を隠すにはどこがいいかって線だっていうことは見当がついてしまうんだもの。
この人の本を読むのは初めてなのだが、けっこう組織内の人間関係のわずらわしさを描くのがうまい。『動機』は警察内部、『ネタ元』は地方新聞社内部、『密室の人』は法曹界内部。組織の保身とか、組織を辞める辞めないといった生臭い話が読んでいて面白い。その中で揺れる人物描写は、たいへんにすぐれている。
私が一番気に入ったのは、書き下ろしで収録したという中篇の『逆転の夏』。女子校生殺しの罪で服役した主人公のもとへ、電話で殺人依頼が届く。断固断るものの、流れの中で事件の中に深く関わらざるを得なくなっていく主人公の心情を見事に描いている。しかもよくプロットが練られていて感心した。
正直、表題作にはちょっと期待が大きかっただけにガッカリしたが、あとの短編がいい。最近少なくなった社会派ミステリの新しい作家として、ちょっと楽しみな存在である。
February.2,2001 舞台とは違う爆笑問題の本
国立演芸場の『花形演芸会』で初めて爆笑問題の漫才を見ていて、私は今まであまり彼らの漫才を見ていなかったのに気がついた。何しろ彼らを見られるのはほとんどテレビ。爆笑問題の存在を気にしながらも、レギュラー番組を多数抱える彼らのテレビ番組を追いかける根気はさすがになかった。NHKテレビ日曜昼に放映している『笑いがいちばん』をたまに見るくらいだろうか。
ちょっと余談になるが『笑いがいちばん』を御覧になったことがなく、演芸にちょっとでも興味がある方は是非見て欲しい。こんな出演者で番組を組む進歩的な番組は民放では皆無だろう。なにしろ、トリにベテランの落語家や漫才師を置き、その前にこれまた進歩的なNHKの番組『爆笑オンエアバトル』で常連の若手コントをぶつけてくる。その合間を爆笑問題が司会として繋ぐという構成。力をつけてきた若手コントがトリのベテランを食ってしまう回も多く、その間を爆笑問題がとりもつのだが、けっこう火花が散っているいる様子がうかがえてスリルがある。
さて、爆笑問題である。そうだ、そういえば以前、小さな版形だったころの『宝島』で爆笑問題が時事をとりあげて漫才形式で書いていた連載があったっけ。あれ、けっこう面白くて毎月楽しみにしていたものだった(あれっ? あれは浅草キッドだったっけ?)。そうだ、彼らの本を読んでみよう。さっそく本屋へ出かけタレント本のコーナーへ向かう。あったあった! 爆笑問題の本はズラリと並んでいる。その中から、『爆笑問題の世紀末ジクソーパズル』(集英社)を買ってみることにした。これは現在も『週間プレイボーイ』で連載中のもの2年間分の中からセレクトして一冊にしたもの。私もコンビニでときどき立ち読みしているから、存在は知っていた。
あらためて爆笑問題のナマの漫才を見てから読んでみると、これは彼らの漫才とはちょっとスタイルが違うなということに気がつく。いちおう太田と田中の漫才の形になっているものの、太田が一方的に喋っている部分が大きい。実際の舞台では、田中が時事ネタを詳しく振り、太田が毒舌的なボケのコメントを挟むというスタイル。おかしいなあと思っていたら、[あとがき]を読んで初めて気がついた。この連載の作り方というのは、ふたりにテーマを与え、好き勝手にブレインストーミングしてもらい、それを構成作家がまとめるというやり方だったのだ。だから、彼らの漫才を聞くのとはちょっと意味合いが違う。
といっても、彼らの切り口は舞台でのネタそのもの。奥付を見たら1999年12月になっていて、実際に『週間プレイボーイ』に載ったのが、1997年から99年のものだから、いささかテーマとしては古くなってしまったものが多い。それにしても2年間分で55本しか入っていないから、半分くらいボツにしてしまったらしい。つまらなかったのか、はたまたテーマとして後に読んで何のことか忘れられてしまいそうな時事ネタだったのか。
気になるのが何回か映画について語っているのだが、どうやら、太田は映画を撮りたいようなのだ。そりゃあそうだろう。ふたりとも日本大学芸術学部(中退)だ。何年か先、太田は北野たけしのように映画を撮り出すのだろうか? 同じような毒舌漫才出の彼がはたしてどんな映画を撮るのか、ちょっと興味深々の私である。