June.8,2001 沖縄で読んだ小説

        沖縄旅行に持って行った読んでいたのが、小野不由美の『黒祠の島』(祥伝社ノン・ノベル)。あの短すぎる大長編『屍鬼』の著者の2年ぶりの長編だ。

        女流作家が謎の失踪をとげる。知り合いの調査会社の男は彼女から失踪前に、「故郷に帰る。3日ほどで戻る。もし帰らなかったら部屋を始末して欲しい」という言葉を貰っていた。果たして彼女の故郷とは何処なのか? 調べていくうちに、彼女の故郷はどうやら九州のある小さな島だということが分ってくる。かくて男はその島に赴くが、そこは古い因習によって成り立っている世界だった。どうやらそこでは最近、女性全裸磔惨殺事件が起きたばかり。調べていくと、どうもその女性こそかの女流作家。犯人は誰なのか? 男は捜査を開始する。当日は嵐で船も出ていない。犯人は島民に違いないのだが、硬く口を閉ざしている島民からはなかなか協力が得られず調査は難航するが・・・。

        『屍鬼』から一転、今度は本格推理小説だ。こんな複雑な話とは思わなかったなあ。沖縄旅行中の暇つぶしでボンヤリと気軽に読もうと思って持って行ったのだが、けっこう人間関係がややこしくて、系図でも作らないとよく分らない。なにせ沖縄旅行中は、昼間から泡盛をかっ食らってドンヨリ頭だったから、人物関係が頭に入ってこない。

        横溝正史の小説を読んでいるような気分にさせられたが、『屍鬼』と較べてしまうと、村人(今回は島民だが)の人物描写が少なすぎて、なんだか物足りない。『屍鬼』の村人はひとりひとりキャラクターが立っていたものなあ。まあ、枚数が少ないから仕方ないんだろうが・・・。変わり身のトリックもなんとなく想像がついてしまうのだが、そこに到る論理がよく出来ていて、「上手いなあ」と思わせる出来だ。

        ひょっとして作者は、ラストシーンを最初に思いついたのではないだろうか? この感動的なラストは、映像としてありありと頭に鮮やかに浮かんでくる。きっと男は、失踪した女流作家を愛していたのではないかと思わせる見事なラストだった。

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