August.22,2001 バカキャラばかりで笑いをとるハイアセン

        カール・ハイアセンの新作を読んだ者同士の会話には独特なものがある。ストーリーが面白かったと、そのストーリーをなぞったりはしない。実際、ストーリーなんて、ハイアセンに限って言えば、どーでもいいと言っていいかもしれない。ストーリーこそがエンターテイメント小説の要といえるかもしれないが、まあ、そんなこといいではないですか。ハイアセンにキチンとしたストーリーなんて求めていないんだから、こっちは。

        こんなこと書くと誤解されそうだが、ちゃんとストーリーありますよ。でも、それよりも出てくるキャラクターたち全員の個性に圧倒されてしまう。今年、翻訳された『トード島の騒動(扶桑社ミステリー)は、一年も前にCAGE`S TAVERNに書評小僧さんが原書で読んで書き込んでくれたので、「いいなあ、英語に強い人は」と羨ましく思ったものだ。あれを読んで、今回も物凄いキャラクター(私は、[バカども]と言っていますが)が出ているようで、翻訳を楽しみにしていたというわけです。

        オープニングは、サファリのシーンから始まる。「四月二十四日の朝、夜明けから一時間後、パーマー・ストウトという男が、珍しいアフリカのクロサイを撃った」という冒頭の文章からもうひっかけだ。アフリカのクロサイという部分で読者は、広大なアフリカの草原地帯。獰猛なクロサイを仕留めたシーンを頭に描いてしまうはずだ。ところがこれが、ものの20行も行かないうちに本当のことが明らかになる。舞台はアフリカではなく、フロリダ。世界中から動物を集めてきては、そこで飼いならし、自称ハンター達に撃たせて金を儲けるという、とんでもない施設。しかもそのサイたるや、動物園からの払い下げ品で、白内障でほとんど目が見えず、ハンターが近づいてきても気がつかないというからひどい。

        このサイを撃った男が公共心のカケラも無い男で、自動車の中からポイポイとゴミや火のついたタバコの吸殻を放り捨てるという困った奴。それを後ろのクルマから目撃したのが、正義感の強すぎる金持ちのボンボン。なんとか公共心を分らせようとお節介をするのはいいのだが、やり方が異様。相手のオープンカーにゴミ収集車一杯のゴミを流し込む。そんなことしたって、やられたほうは何のことやら分らないやね。

        バービー人形フェチの男というのも可笑しい。不法滞在の女性を二人養っていて、整形手術を施して、双子の生きたバービーを作り上げようとしている。こっ、こんな発想を作品に盛り込むハイアセンという人は・・・・・・尊敬に値しますね。とにかく、読み手を笑わせようとするためには、作品の構成が少々イビツでも、なんでもかんでも盛りこんでしまおうというサービス精神。

        一番可笑しかったキャラクターは、殺し屋のミスター・ガッシュ。警察への緊急通報を録音した裏テープを聴くのが趣味という、かなりぶっ飛んだキャラクターで、後半、このテープの伏線が大爆笑に繋がっていく。

        ラスト、舞台はまたサイ狩りのシーンになる。これがもう電車の中で読んでいて、どうしても笑いがこみ上げてきて、抑えるのに苦しい思いをしたほど。このサイというのが・・・・・・書きたいのだけど、読んでない人のために伏せておこう。原書のタイトルである(Sick Puppy)ビョーキ犬、ラブラドルレトリーバーが大活躍するとだけ書いておこう。


August.2,2001 落語より面白い(?)小三治のマクラ

S.Yasubuchi様

        毎回Cage`s Tavernへ本の話題などを書き込んでいただきましてありがとうございます。いつもこれから読む本の参考にさせていただいています。

>柳家小三治の『ま・く・ら』という文庫本を読んだ。小三治はうまいんだけど、ちいと陰気なところがあって独演会へ行くほどのファンではない。寄席のとり出ているなら喜んで見に行くという微妙な距離である。

        そういえば以前、国立演芸場でバッタリ合ったことがありましたっけね。あのとき小三治出ていましたっけ? お互い東京ボーイズを楽しみにして来たというのに、あの日、東京ボーイズは休演。ガッカリでしたっけね。私はどうも東京ボーイズとの相性が悪いらしく、彼ら目当てに寄席に行くとたいてい休演。

>しかし、この『ま・く・ら』を失敗したと改めて思った。独演会で時間の制限を外すと、途端に小三治のまくらは止まらなくなり、それだけが独自の世界を築いてしまうではないか。活字で読んでいても「こんなにネタに入らなくてもいいのかな」と思ってしまうほどだ。

        ええっと、『ま・く・ら』でしたっけね。私も発売当時読みましたよ。この人のマクラの面白さというのは聴いてもらわなければ分ってもらえないのだけど、もう、ひとつの芸になっていますね。「ネタになんか入らなくていいから、このままマクラ演っててよ」という気にさせる数少ない噺家さんです。

>「借りている駐車場に突然住みついてしまったホームレスの話」とか「突然思いついてアメリカに語学留学に行く話」などは抱腹絶倒で、この後で落語をやったとしたら、却ってやりにくかったのではないかと心配してしまうほどだ。

        これらの話は、ソニーから『柳家小三治トークショー』というシリーズでCDが出ています。『駐車場物語』 『めりけん留学奮戦記』というのがそれです。私も『駐車場物語』が大好きで、周りの人間に「読んでみて!」と片っ端から薦めまくり、強制的に貸し出したので、最後には文庫本がポロボロになってしまいました。

>続編も同じ講談社文庫で出たようなので、読まなくては!

        『もひとつ ま・く・ら』ですね? はい、一足早く読みました。前回収めきれなかったもの、新たに見つけたテープからおこしたもの、そして最近のものまで入っています。ちょっと紹介しましょうか。この人の物事に対する興味の持ち方は並大抵のものじゃない。何かに興味を持つとトコトン行かないと気がすまない。オートバイしかり、オーディオしかり、カメラしかり、塩しかり。今回は[熊の胆(い)]なんていうものに興味を持ってしまう。これが可笑しいんだ!

        しんみりした気分になるのが『笑子(えみこ)の墓』。その昔、小三治がテレビによく出ていたころ、沼津のボーリング場でボーリングをやっていると、若い女の子がツカツカツカと寄ってくる。そして言うのだ。「落語をやってください」 「え?」 「落語をやってください。テレビであんなガチャガチャしたことをやってもらいたくないんです」 そして彼女は、自分は芸者をやっていると言って立ち去る。その一言が契機になって、小三治はテレビに出るのを止めてしまい、落語の道一本に絞り込むことになる。月日は十年以上たち、一度あのときの芸者さんに会ってお礼をしようと、沼津に立ち寄ったときにその芸者さんを捜すが・・・。もう、読み終わると、感動が押し寄せてきます。

        う〜んと思ってしまったのが『わたしの音楽教育』。大の劣等生だった自分の息子に「勉強しろ」と一度も言わずに通したという話。こういうのって、出来るものじゃないですよ。

        一番笑えるのは『パソコンはバカだ!!』でしょう。カメラ好きだったことからデジタルカメラに興味を持ち、購入したものの、撮った写真を保存しておくのにパソコンが必要なのが分る。デジカメとパソコンは金食い虫だという話なのだが、この人にこのことを語らせると、もう可笑しいのなんの!

        これだけ出しちゃうと、もうあまりマクラのネタは残ってないかも。となると、こりゃあ、新しいマクラを聴きに寄席に行くっきゃないでしょう。S.Yasubuchiくん、今度一緒に小三治聴きにいこうよ!!

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