January.30,2002 100円ミステリ
最近になって、100円ショップの大手[ダイソー]がオリジナルのミステリ・シリーズを出していることを知った。えっ!? と、ということは一冊100円で本が買えるってこと? これはぜひとも自分の目で確かめなくては―――と、他の用で中野に行ったおりに覗いてみることにした。JR中野駅から北口の商店街を抜け、中野ブロードウェイを突き抜けて早稲田通りへ。ここを左折してすぐのところの[ダイソー]に飛び込んだ。ここには何回か入ったことがあるのだが、食料品や日用雑貨のコーナーだけ見て、さっさと出てきてしまうので、まさか本まで売っているとは思いもしなかったのだ。店員さんにミステリを売っているコーナーを教えてもらい、売り場へ一直線。ありました、ありました、ダイソー・ミステリー・シリーズ。
文庫本サイズの本がズラリと並んでいる。そうですねえ、昔、『ボーイズ・ライフ』なんていう雑誌を買うと付録で付いてきた小説本みたいな感じ。また、一時セプンイレブンが文庫を出していた時期があったが、あれよりも厚手で読み応えがありそうだ。一冊200ページくらいなのだが、中編というよりは短めの長編くらいの長さがある。書いている作家は・・・私はほとんど見たことも聞いたこともない人ばっかり。こんな作家いるのかあ? 玉川散歩だって! すっごいペンネームつけちゃったのねー! 当然のごとく値段が書いてない―――ということは・・・やっぱり一冊100円!
裏表紙に書いてある紹介文を全て読んで、どれを買おうか迷うこと数十分。「果たして犯人消失のトリックは!? 著者が自信を持って密室マニアの読者に挑戦する傑作ミステリー!!」という文章に惹かれたのと、作者の名前をどこかで見かけた記憶があったので、若桜木虔『W殺人の謎』なる一冊を買おうと決心する。どっちにしろ100円なんだから迷うほどのこともないのだが・・・。105円握り締めてレジに向かおうとしたら、今度はCDが目に飛び込んできた。ええーっ! CDも100円!? なんと落語のCDまであるではないの! しかもかなりレアな演目と録音が並んでいる。落語は全5枚。これは全部買いだ!
家に帰ってインターネットで検索をかけてみたら、若桜木虔という人はけっこうなベテラン作家で作品数も多い。『W殺人の謎』も以前、他の出版社から出されていたものだった。普通の文庫本よりも軽い感じなので持ち運びに便利。外出するときにポケットに入れて持ち歩いて読むことにした。ところが、表紙をめくっていきなりのけぞってしまった。なにやら紙が一枚貼り付けてある。[お詫びとお願い] ん? 「本文中の82ページと83ページの文章が入れ替わっておりますので、81→83→82→84ページとお読みください」 でえー、乱丁ではないの! 取り替えてはくれないんだろうなあ。なにせ100円だもんなあ。
さて肝心の中身の小説であるが、二つの密室殺人が起こる。ひとつは、男がひとりで下からロープウェイに乗って上っていくが、頂上に着くと背中を刺されて死んでいるというもの。背中を刺されているから自殺ではない。犯人はどうやって男を殺したのであろうか。もうひとつは、ある大きな別荘でエリートばかりが集まったパーティが開かれている。全員がプールでひと泳ぎしたあとバーベキュー・パーティが行われようとしているのだが、直前にトイレにたった女性が絞殺されてプールに浮かんできた。みんなが見ている前でどうやって殺したのだろうかというもの。
ロープウェイのは、よくありがちなトリックだが、まあ及第点。ただプールのはどうだろう? 物理トリックなのだが、ちょっと無理が多いような気がする。それと二つの密室殺人事件の関連性が希薄なのが気になる。てっきりこっちは同一犯人が訳あって二つの殺人を犯したと思うじゃない。
でもまあ、100円でこれだけ暇つぶしができれば儲けもの・・・かな?
January.14,2002 たくさんの要素を放り込んだ小説
『エンプティ・チェアー』を読んでいてもアメリカ南部って、いまだに閉鎖的で偏った考えの人が多いんだと思うのだが、ジョー・R・ランズデールの2001年MWA最優秀長編賞を受賞した『ボトムズ』あたりになると、時代設定が1930年代だから黒人差別の真っ只中。ランズデールはそんな設定を背景に実に多くの要素を一冊の中に放り込んでみせた。
物語は年老いた男の回想という形式で入っていく。テキサスの田舎、電気も水道もない。そんな環境の中でも、11歳のころの男は妹、そして理髪店の経営及び治安官をしている父と一緒に貧乏ながらも暮らしている。ある日、飼っていた犬が大怪我をしてしまう。犬のための病院などない時代でもあり、生かしていても却って犬が可哀想だと父に言われ、処分して土に埋めてやれと言われる。少年は妹と共にライフルを持ち森の中に入っていくが、どうしても犬を殺すことができない。やがて道に迷ってしまった兄妹は、人から聞かされていた怪物ゴートマンと遭遇。必死の思いで逃げ出した彼らは、今度は無残に殺された黒人女性の死体を見つけることになる。
一応ミステリであるから父親、少年、そして後に登場する祖母による犯人捜しが縦軸となっているのだが、正体不明の怪物が出てくるホラーにもなっており、そしてもっと重いことには、これは黒人差別を描いた小説でもあり、そして家族の物語でもあるのだ。学校にも行っていない少年は、祖母から本の読み方を教わり、町の婦人から本を貸してもらって、いろいろと学んで行く。そして父との絆の深さがすばらしい教育小説のようにもなっている。生き方を教える父と、とことん納得いくまで話し合っていく姿はうらやましくも思えてくる。やがて、ある事件がきっかけで酒浸りになっていく父。そしてそれを支えていこうとする少年の姿は感動的だ。
さらに物語は、血の繋がりという、よくありがちながらも重いテーマになっていくのだが読後は割とすっきりとした気分になれる。きっと、少年の成長物語として読者に残るからだろう。
黒人、南部、1930年代とくれば、音楽ファンはブルースを思い浮かべるだろう。ウイスキーに自分の小便を混ぜたものを持ってクロスロードに立っていると悪魔が契約書を持って立っていて、魂と入れ替えに楽器がうまくなれるようにしてくれるなんて伝説もきっちり折り込んでいてくれて、ブルースの弾き語りが聞こえてくるような、なんとも気持ちのよい空間に浸れるような小説でもあったことを付記しておこう。
January.10,2002 くらたま
おそらく西原理恵子が確立したであろう、女流漫画家によるエッセイ漫画、レポート漫画の分野だが、『おごってジャンケン隊』の現代洋子の登場に続いて、今は[くらたま]こと倉田真由美が出てきた。『SPA!』に連載している『だめんず・うぉ〜か〜』はまだ読んでいないのだが、年末に出た『くらたま24時〜東京デンジャラス探訪〜』を読んで、すっかりくらたまのファンになってしまった。
『ブブカ』という雑誌に載った突撃レポート漫画が中心なのだが、後半は麻雀雑誌に載った麻雀に関するエッセイ漫画。このあたりかなり西原理恵子との接点を感じるのだが、麻雀にあまり興味のない私にはやはり前半の怪しげな場所へ行く体験記の方が面白い。雑誌の編集者にそそのかされて行かされる場所とは、お見合いパブ、キャバクラ、韓国エステ、ニューハーフパブ、変態スナック、カジノ、コミケ、コスプレ、ねるとんパーティ、SMパーティ、ゲテモノ食いetc.
ページをめくるとまず飛び込んでくるのが、企画の中でくらたまがグラビア・モデル体験レポートで撮影したという写真。おおっ! くらたまちゃん、結構美人ではないの! これだけではない。この漫画、コマの中にくらたま始め体験レポート中に撮影した人物写真がたくさん挿入されている。西原理恵子も写真で見ると美人だが、あの漫画に出てくる自画像の漫画はギャップがある。くらたまも漫画の中では三頭身。
「西原理恵子は女を捨てているから凄い」とズバリと見抜いたのは安渕君だが、確かに現代洋子は女を捨てきれてなく、くらたまにいたっては、もろ女であることを武器にしているようなフシがある。それがこの本の帯にある西原理恵子の言葉「くらたま! ぬるい突撃ばっかやってんじゃねーよ!!」に現れているように、案外読んでみると拍子抜けするのだが、あんまりディープに体験しているわけではないのがわかってくる。でも、このちょっと離れた接し方の距離感が女性らしさを感じさせて好感が持てるのだ。
それにしても、西原理恵子という漫画家は偉大だとあらためて思った。あの分野の開拓というのも凄いが、後発の同じような漫画家が誰ひとりとして彼女を超えられない。とはいえ、私はくらたまちゃんの実に女らしい感性にもぞっこんなこのごろなのだ。