November.14,2002 笑って許して?

        しばらく某出版社に版権が移動していて、超訳なるものでしか読めなかったディーン・クーンツだが、久しぶりに普通の形で翻訳が出た。[超訳]って何なんだ? 超訳って跳躍なんじゃないかっていうほど原文を変えられたものなんて読む気がしなかったのだが、クーンツって、妙にロマンチックな作風のところがあるから、ああいう出版社にはうってつけの作家なのかもしれない。

        今回出たのは1999年の作品『汚辱のゲーム』(講談社文庫)。上下卷で合わせて1150ページの大長編だ。うれしくなって読み始めたのだが、これが途中まで実にかったるいシロモノなのだ。何かが起こっているのだが、それが何なのかわからない。読んでいてイライラしてくるくらい。それでもクーンツは引っ張る。ようやく、「ひょっとして、こういう話なの?」と思えてくるのが300ページほど行ったところ。でも、そうだったらバカだよなあと思っていると、ほんとうにそんな話だった。

        「そんなバカなあ」と思いながらも、クーンツという人は上手いから、ついつい読み進んでしまう。下手な作家のものだったら、途中で投げ出してしまうほど、あきれ返ったアイデアだけの小説なのである。それでも読みながらクスクスクスクス笑いが込み上げてくる。書いている本人は大真面目なんだろうけどね。

        登場人物のひとりが俳句が好きという設定なのだが、この人物が作る俳句なるものが日本人からすると爆笑もの。季語も何もなし。これじゃ川柳だろうが! いや、川柳以下か? 日本人以外の読者は感心して読んでいるんだろうか?

        また、この登場人物、ものすごく頭がいい上に大金持ちという設定なのだが、ジャンク・フード好き。自然食品レストランに行けば、「人間の食うものじゃない」と心の中で罵倒し、テイクアウトのチョコレート・クッキーしか買わない。小説の中で食べているものといえば、甘いもの好きらしくて、ケーキやらコーラやらばかり。とうてい大金持ちの美食家とは思えない。食事のシーンになるたびに、私は大笑いしていた。

        まったくクーンツという作家、どこまでがマジで、どこまでが冗談なのかわからなくなる。娯楽小説の大道を行く人だから、ラストも大団円。悪の側が周到のようで実はバカ。正義の側はまったく傷つかずハッピー・エンド―――って、そりゃあ無いだろうと思うのだが、時間潰し目的の読書にはこの方がいいのかな。キアヌ・リーブス恐怖症患者というのにも笑った笑った。バカ話を笑って許せる人向きなんだよね、クーンツって。


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