March.4,2004 話の意外な落しどころ

        あいかわらず上手いなあと思う。宮部みゆきである。



        久々の書き下ろしなんだそうだ。ミステリだから殺人事件が起こる。65歳の運転手が、自転車に撥ねられて倒れ、打ち所が悪くて死亡してしまう。撥ねたのはまだ少年らしいということはわかるのだが、逃げてしまったので誰だかわからない。

        すごく地味な事件に思えるが、実際自転車による死亡事故というのは多いそうで、一日のうちに自転車に乗っている時間の多い私も気をつけなければと思う。歩道を猛スピードで飛ばしている自転車を見ると嫌な気持ちになる。そんなスピード出すなら車道を走れよと言いたくなる。

        死亡した男は、巨大コンツェルンの会長の運転手。結婚適齢期になるふたりの娘さんがいる。その娘さんが犯人探しかたわら、おとうさんの生涯を書いた本を出版したいと言い出し、その旨を社長さんに相談する。お鉢が回ってきたのが、この小説の主人公、会社の出版部門の社員であり、会長の娘と結婚した逆玉男。

        どうも調べていくうちに、死亡した男性には過去に人に言えない暗い闇の部分があるらしいということがわかってくる。

        生活に何も不自由がない逆玉男の主人公、美人の姉妹、地味な事件。読んでいてなんだか拍子ぬけしてくる内容なのだが、最後まで読むと、話の落しどころにびっくりしてしまった。この小説の持って行きたかったところは、自転車による殺人事件でも、死亡した男性の過去でもなく、全然別のところにあったのだった。だから、少々びっくりしてしまった。宮部みゆきに、いいように引きずり回されていたというのを感じて、ちょっと腹立たしくもあり、やられたなという快感もあったというところだろうか。


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