July.16,2004 気になる犯人の意外性と動機

        読書量は減っているというのに、不思議と貴志祐介の長編だけは読み続けている。もっとも『硝子のハンマー』は4年半ぶりの長編なのだそうだが。



        しかも驚いたことに、今回は密室トリックの本格ミステリ!! 六本木のオフィス・ビルの最上階で介護用品会社の社長が密室で殺されている。社長室に通じる廊下には防犯カメラがあり、ビデオが回っているから犯人が近づけば記録に残ってしまうのだが、誰も近づいてた者がいない。

        この謎を解こうとするのが女弁護士と、防犯グッズコンサルタントの男。前半はこのコンビによる推理で読ませる。いろいろと間違いの推理を次々と並べてみせるところは圧巻。後半は一転して犯人側からの倒叙小説の形になる。本格推理小説が苦手な私には、後半の方が面白かった。

        密室トリックは、物理トリックになっていて、これを推理しろというのは少々無理。ある程度の専門知識もないと見破れない。タイトルの『硝子のハンマー』というのも、このトリックがわかって初めて「なるほど」と思えてくる。

        ただ、この犯人は「そりゃないだろう」という気がする。いや、かつてこういう立場の犯人は推理小説史上、存在した。しかし『硝子のハンマー』の中で、この人物はあまりに埋もれた存在。この人物が犯人だとは想像すらできなかった。だから後半になって犯人の側から書かれたものを読み出しても、この人物が何者なのか、しばらくわからず困惑してしまった。

        それとどうしても理解できないのが動機。なぜ殺人を犯さなければならなかったかという理由がイマイチ腑に落ちない。なにも殺さなければならなかったという理由が理解できない。

        防犯に関する取材などを徹底的にしているので、大いに参考になったし、探偵役のキャラクターの造形も面白く、飽きさせないのだが、上記のとおり、犯人の意外性と動機がちょっと気になった。


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