January.12,2005 腰帯どおり2回読んじゃいました

        去年買った本も随分と読み残しちゃったなあと、部屋の隅に積んである本を眺めながら、『このミステリがすごい!』なんかをパラパラと見ているうちに、気になる本が出てきた。「あれ? これ確か何かの書評で褒めているのを見て、買ったはずだ」と思い出したのである。乾くるみの『イニシエーション・ラブ』。『このミステリがすごい!』の解説を読んでみても、何だかよくわからない。ただ、最後までくるとびっくりするらしいのである。本の山を調べてみると、私はやっぱり購入していた。これミステリなの? なにしろ表紙からしてミステリっぽくない。



        こんなタイトル、こんな表紙、どうやら作者は女性らしい。なんの情報も無かったら、私は絶対に買わなかったはずだ。腰帯にはこうある。「今年最大の“問題作”かもしれません。ぜひ、2度読まれることをお勧めします。(編集部) 目次から仕掛けられた大胆な罠、全編にわたる絶妙な伏線 そして80’sのほろ苦くてくすぐったい恋愛ドラマは そこですべてがくつがえり、2度目にはまったく違った物語が見えてくる」

        その仕掛けがあるという目次を見てみる。A面とB面に大きく分けられ、それぞれに70年代から80年代に日本でヒットしたJポップの曲名が6曲ずつ書かれていて、それが章立てらしい。つまりちょっとしたレコードアルバムのような構成になっているのだ。

        読み出してみると、これがごくごく普通の恋愛小説。就職が内定し、卒業を待っている大学生の青年が、合コンに誘われ、そこで知り合った女性と付き合い始める。恋愛小説など普段は読まないのだが、こうして読み出すと、ついつい夢中になっている自分がいた。読みながら、いい歳をしたおっさんである私が、自分の青春時代を思い出してしまうのである。そういえば、あんなことがあったなあ、そんなこともあったなあと、年甲斐もなく胸がキュンとしてしまう。恋愛小説もたまには悪くないなあと柄にもなく思ったりする。いやいや、この本はただの恋愛小説ではないのだと思い直したりしながら、読み進めていった。

        章立てのB面に入ると、青年は東京の会社に就職して、静岡に住む女性との長距離恋愛の話になる。B面の1曲目に相当するタイトルが『木綿のハンカチーフ』なのだから、自然とこの先のストーリー展開は予想される。ここからは一気に最後まで読んだ。

        最後まで読み終えて、はて、この小説は何だったのだろうかと思い直す。この小説のどこがそんなに仕掛けのある物語なのだろう。『このミステリがすごい!』によると、「最後の二行で、ぼんやりと読み進めた読者は宙に放り出される」とある。最後の二行。読み直してみても何も浮かばない。何なんだろう。そういえば終盤に向かって、ヘンな箇所がいくつかあったなあと思い出される。特に最後の見開き2ページは、おかしな文章がいくつもあった・・・・・と思った瞬間に「あーっ!」と気がついたのである。もう一度最後の二行を見る。「そうかあ!」 いやあ、やられました。それと同時に私は笑い出してしまった。ははは、そういえば、あそこにも、ここにも伏線があると、あれこれ思い出して、腰帯にあるように、もう一度最初から読み直してしまったのであった。一冊の本を続けて二回読んだなんて初めての経験だった。そしてまたもや私の心は青春時代に戻って行った。

        騙し絵ってあるじゃないですか。見方によって貴婦人とも老婆とも見えるってやつ。2回読むとそんな感じになるのが面白い。それにしても、面白い事を考えつく作者がいたものだ。そして、こんな仕掛けになかなか気がつかないなんて、私の頭も鈍くなったものだが・・・・・。青春は去ったのかなあ。

        章立てになっている曲名に、元の歌を歌っている歌手名を列挙しておこう。

A面
『揺れるまなざし』 (小椋佳)
『君は1000%』 (オメガトライブ)
『YES−NO』 (オフコース)
『Lucky Chanceをもう一度』 (CCB)
『愛のメモリー』 (松崎しげる)
『君だけに』 (少年隊)

B面
『木綿のハンカチーフ』 (太田裕美)
『DANCE』 (浜田省吾)
『夏をあきらめて』 (サザンオールスターズ)
『心の色』 (中村雅俊)
『ルビーの指輪』 (寺尾聰)
『SHOW ME』 (森川由加里)


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