September.17,2005 しょぼい男たち

        というわけで、『田舎の事件』をついに入手することができたのだった(何のことだかわからないという人は先月のこのコーナーを見てね)。本屋では見かけない、おそらく絶版であろう本が、アマゾン・ドット・コムでは新品で手に入れることができ、なぜか発送までに1ヵ月もかかるという、ふたつの謎は解けないまま、宅配便で文庫本一冊がとどけられたのだった。普段から本は本屋で買うという習慣があるのだが、よく考えてみると本というのは重い。そこへいくと家まで配達してくれるこのシステムというのは楽だ。そういえば、以前は近所の本屋さんに頼んでおくと、定期的に出る雑誌以外にも、新聞や雑誌で見かけた本を注文しておくと届けてくれていたっけ。最近は大型書店ばかりで宅配はしてくれなくなってしまったものなあ。

        ええっと、それで『田舎の事件』ですね。これは『不可解な事件』と一緒にしても不思議ではないくらい、同じタイプの短編小説が13話収録されている。これらの話に共通するのは、主人公たちが、みーんな、しょぼいということ。他の作家が書いた本を自分が別名で書いたと吹聴してしまったが、嘘をつき通すが困難になってしまう男の話(郷土作家)。冗談で東大に入学したと嘘をついたことから、贋東大生になってしまう男の話(銀杏散る)。でかいだけで運動神経もない男が、村人のおだてにのって相撲取りにさせられてしまう話(亀旗山無敵)。国営放送の『のど自慢』で鐘ひとつだった男が歌手への道を諦められず悲劇に向っていってしまう話(頭の中の鐘)。経営コンサルタントに騙されてコンビニに改装したものの、近所に出来た大手のコンビニに負けて倒産してしまった八百屋のオヤジが、コンビニ強盗を決意する話(源天狗退散)。私が特に面白いと思ったのが、古書マニアが古書店を開店したものの、ある罠に陥って転落していく様を描いた『文麗堂盛衰記』。いずれにしても、しょぼい主人公が右往左往する様を眺めているのをニタニタ笑いながら読んでいれば、あっという間に読み終わってしまう。嫌な趣向だね(笑)。

        さて、目的は中に収録されている『無上庵崩壊』だ。最高のそばを食べさせる店を作ろうとする男の話だから、しょぼい男では決してないのだが、世の中と完全にズレているのがしょぼさ。村の雑貨屋のおばあさん愛ちゃんの存在がこの短編のカギ。主人公の男も村のおばあさんたちもしょぼいというのが可笑しい。いつかまた、きたろうさんの講談『無上庵崩壊』を聴きたものだ。



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