April.23,2006 『容疑者Xの献身』を持って隅田川散歩
昨年の国内ミステリ、ぶっちぎりの話題作となったのは東野圭吾の『容疑者Xの献身』だったと言って過言ではないだろう。今年に入って『容疑者Xの献身』は直木賞も受賞した。私も実際に読んでみて、これは東野圭吾としてもベストと思える作品で、ラストで明らかにされるトリックは、読者をも欺いていたもので、これは快感を覚えると共に深い感動も巻き起こってきた。
もうほとんどのミステリ・ファンはお読みになったろうから、詳しくは書かない。私は別の面からこの作品の背景を書いてみたい。『幻夜』の中にも水天宮の交差点の本屋や、ロイヤルパークホテル(実名は出ていなかったが、明らかにロイヤルパークだ)が出てきて、私の住むあたりの描写が詳しい。ひょっとしてこの辺りの土地勘のある作者なのかなあと思っていたら、『容疑者Xの献身』ではまたもや、私の住む街の近くの様子が描かれている。
冒頭は、高校の数学教師石神が新大橋を渡って浜町の側に歩いてくるところから始まる。
「これが新大橋の江東区側の袂。ここを歩いていったわけです。
これは清洲橋側から新大橋を撮った画像。石神は右側からこの新大橋を渡ってくることになる。対岸の左側は画像では消えてしまっているが高速道路の架橋が上に見えるのがおわかりいただけると思う。
「橋を渡ると、彼は袂にある階段を下りていった」
これが階段。右へグルッと回りこむとある階段です。
「橋の下をくぐり、隅田川に沿って歩き始めた」
右手に見えるのが降りてきた階段。ちょっと逆方向に下がって写真を撮りましたが、前方に向って歩いていったわけです。
「隅田川の両側には遊歩道が作られている。(略)新大橋の近くには休日でもあまり人が近寄らない。その理由はこの場所に来て見ればすぐにわかる。青いビニールシートに覆われたホームレスたちの住まいが、ずらりと並んでいるからだ。すぐ上を高速道路が通っているので、雨風から逃れるためにもこの場所はちょうどいいのかもしれない」
というわけで、行ってみました。
左上に写っているのが高速道路の柱で、なるほどここは高速道路が屋根の働きをして雨風がしのげる。
「塒(ねぐら)のそばで大量の空き缶を潰している男がいた。(略)石神は密かに『缶男』という渾名をつけていた」
はいはい、実際にもありました。空き缶の山が置いてありました。
「清洲橋の手前で、石神は階段を上がった」
これが清洲橋。隅田川に架かる橋の中でも、もっとも綺麗な橋なのではないかと思う。定期的に青く塗り替えられていて、去年塗り替えられたばかり。美しいなあ。その先は高層マンションが立ち並ぶ風景。
「高校に行くには、ここで橋を渡らなければならない。しかし彼は反対方向に歩き出した。道路に面して、『べんてん亭』という看板が出ている。ちいさな弁当屋だった」
花岡靖子が働いている弁当屋[べんてん亭]で石神は弁当を買うのだが、実際にこの場所には弁当屋が存在する。しかも2軒並んで! 一軒はこれ。
看板のように、とっても安い。コンビニ顔負けの値段だ。でも、花岡靖子の働いている店としてはやや風情がないかな。むしろ小説のイメージに合っているのはその隣の店。
弁当屋というより食堂。右端が厨房になっていて、窓からお弁当も買える作りになっている。私はまだ買ったことがないけれど、今度、ここのお弁当を買ってみよう。
石神が去ったあと、[べんてん亭]に花岡靖子の元の亭主富樫慎二が訪ねてくる。二度と会いたくない相手なのだが、働いている場所をつきとめられてしまったのだ。靖子は富樫にこう言う。
「ここへは来ないで。前の通りを右に真っ直ぐ行ったら、大きな交差点がある。その手前にファミレスがあるから、そこへ六時半に来て」
それは浜町中ノ橋交差点。確かにファミレスはあります。
建物の2階にあるCASAね。私も日曜なんかによく利用していた。・・・・・つまりですねえ、「確かにファミレスはあります」って書いたけれど、正確には「あった」なんです。今はもう営業していないの。
物語のクライマックスで、湯川が靖子に事の真相を話して聞かせる場面がある。読者もこれには驚かされるところなのだが、その話をするところが[べんてん亭]近くの高速道路下を利用して作られた公園。これはおそらく[あやめ第一公園]のこと。
あやめ→人を殺めるに繋がるから、うってつけの場所といえるかもしれませんね。