May.28,2007 悪夢ふたたび

        ジャック・ケッチャムですよ。それも、あのデビュー作『オフシーズン』の続編。あの避暑地で起きた食人族の恐怖ふたたび。うへー。『襲撃者の夜』Offspring(扶桑ミステリ)。

        ケッチャムって読みたくないのに読まずにいられないタイプの作家なんですね。だって、扶桑ミステリのケッチャムは絶版にならないで、いつも本屋さんの本棚に並んでいる。それだけ売れるんでしょう。その割には新作が出ないなあと思っていたら去年は『黒い夏』が翻訳されて、私は夢中で読みました。それでもやっばり読後の感想は、気持ち悪〜。世間的な評価もかんばしくなくて、ほとんど無視されてしまいましたが、結構気に入っています。

        で、『襲撃者の夜』ですが、1作目よりも気持ち悪い場面は少なかったような。でもあいかわらずウエーって感じですが。デビュー作は勢いにまかせて書いたようなところがあったように思うのだが、この続編は作家として成熟して書いている印象を受ける。DVの元夫が国道を車を走らせる途中でヒッチハイカーを乗せるあたりのいやらしさは、いかにもケッチャム調。

        食人族以外の人はそれほど死なないでラストを迎えるのも、それほど後味は悪くなくなっているものの、やっばり食人族の大半が子供ということを思い出すと、やっぱり後味はそれほどよくない。翻訳家のあとがきを読むと、『隣の家の少女』と『黒い夏』が映画化されたとのこと。でも『オフシーズン』と、この『襲撃者の夜』は映画化不可能でしょ。子供の食人鬼はさすがに映像としてはまずいものなあ。


May.17,2007 人は簡単に騙されるものなのだ

        ゆうきとも『人はなぜ簡単に騙されるのか』(新潮新書)。著者はクローズアップ・マジックのプロ。帯には「振り込め詐欺、架空請求、インチキ宗教、超能力・・・・・・ プロマジシャンが看破する騙しの心理トリック!」とある。私はつねづね、なんで世の中の人はこんなものに騙されるのか不思議でならなかった。私は、これらのことに一度も引っかかったことはないし、こういう怪しげなことには眉に唾をつけて見る事にしているから、まったく相手にしない。それでも、毎日のニュースを見ていると、こういうことに騙されている人があとを絶たないのはどういうことなのかと思っていた。

        著者はマジシャンであると同時に、かなりのミステリ小説好きであるらしくて、ミステリ小説の内容を例に出して論を進めてくれているから、とても読みやすい。それでも、読んでいて出てくるマジックのトリックはよく知っているものだったりするので、「そんなんじゃ、騙されないって」と思っていた。

        ところが、私は著者が仕掛けた154ページののトリックに、むざむざと引っかかってしまった。数字当てトリックなのだが、私が頭に浮かべた数字をピタリと当てられてしまったのでパニックになってしまったのだ。これが著者の狙いだとは思わなかった。この本の最初に出てくる数字を足したり引いたりするトリックではなく、そのものズバリを当てるというもの。いちばん人が頭に浮かべにくい数字だと思ったので、この数字を選んだのだが、それがズバリと当てられてしまった。これが騙す側の思うツボだったとは。なあるほど、インチキ宗教にのめり込んでしまうというのは、こういうことなのかとよくわかった。それだけでも読む価値があった。信じない人ほど暗示にかかりやすいといのは本当なんだね。


このコーナーの表紙に戻る

ふりだしに戻る