January.13,2008 シャバくない小説

        桜庭一樹の『赤朽葉家の伝説』は、昨年の日本推理作家協会賞を受賞した話題作だ。鳥取の旧家三代の女性の物語。三部に構成されていて、それぞれの代の女性の姿が描かれる。中でも第二部に登場する、赤朽葉毛毬の存在が印象的。中学高校とレディースで活躍し、スケ番にのし上がる。この毛毬のエピソードが抜群に面白い。その気性の激しい女の生き様は爽快ですらある。高校卒業と同時にレディースを卒業し、なんと漫画家になってしまうという設定に唖然としたが、一族の子孫を絶やさぬためにあっさりと親のいいなりに結婚。漫画家生活で忙しい中、そそくさと結婚式をあげる。花嫁衣裳に着替えて「シャバい格好だぜ」と吐くその姿に、いいなあと思ってしまった。どうやら、不良仲間では[シャバい]という言葉があるようで、これを今回初めて知った。『ビーバップハイスクール』などではよく使われていたらしいのだが、漫画版も映画版も観ていない私には新鮮に感じられた。『赤朽葉家の伝説』の中で[シャバい]という言葉の意味に説明はないが、読んでいるとなんとなく意味が伝わってくる言葉だ。おそらく不良の側からすると、いけてない、ださいってことでしょ。おかげで最近は私も[シャバい]という言葉を日常で使うようになってしまった(笑)。つまらない本を読んだり映画を観たりすると、「シャバいぜ」なんて言ったりする。

        第一部は1953年〜1975年。未来を予知する能力を持った赤朽葉万葉の物語だ。戦後の高度経済成長期、山陰の製鉄工場を経営する赤朽葉家に嫁いだ万葉の、若き日の姿が描かれる。これだけでも十分に面白いのだが、圧倒的に面白い第二部の毛毬の話を経て、物語は第三部赤朽葉瞳子の青春に入って急に大きく変化する。瞳子は、予知能力もなく、不良でもない。ごくごく平凡な少女。短大を卒業しても働こうという意欲が起きない。そんんな日常の中、万葉が亡くなる。この瞳子のおばあちゃんの死に際に残した一言から、瞳子は赤朽葉家の過去を全てもう一度洗い出す作業を始めることになる。

        さすがに推理小説作家協会賞受賞、さまざまな年間ベストテンにランクインしただけある。突然に推理小説になる第三部も上手いが、各時代を生きた女性の生き様が、実に巧みに描かれていて読んでいて引き込まれた。古風な女性の万葉、自由奔放な毛毬、無気力な瞳子。各時代を象徴しているような3人の個性に引きつけられた。これはシャバくない小説だぜ。


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