July.27,2008 違う意味の息苦しさと開放感
ジョン・マノック『Uボート113 最後の潜航』。原題がIron Coffin。鉄の棺桶。うほーっ、潜水艦のことを言いえて妙なタイトルだが、私、どうも閉所恐怖症というわけでもないのだが、潜水艦ものの小説や映画を苦手にしているものだから、今年の初めに友人から貰い受けた本だったのだが、今まで読まないで部屋の隅の積読コーナーに置かれていた。だって潜水艦ものって大抵が息苦しいじゃないですか。
第二次世界大戦が舞台の小説なのに、いきなりプロローグが現代から始まる。メキシコ湾沖に潜水艦が沈んでいるのを見つけた男が、その夜バーで飲んでいると老人が声をかけてくる。老人に海に沈んでいたものの話をすると、老人はあれはUボートなのだと昔話を始める。
舞台は一転、大戦中。物資を輸送している貨物船を沈める作戦を展開中のUボート船団。U−113の船長クルト・シュトルマーは戦争用の物資を運ぶ船を沈めることにだけを目的とした攻撃を仕掛ける。船を攻撃したあとは相手に気遣いをみせるところなど紳士らしい一面をみせるし、彼は軍人ではあってもナチスには憎悪を感じている。ヘミングウェイを愛読しているなんてのが面白い。
補給を受けている最中にU−113は爆撃機の攻撃を受ける。かなりの損傷を受けるが、致命的だったのがスクリュー。これでは祖国に帰りつけない。どうしたらいいのか。シュトルマーは海に沈んでいる同型のUボートからスクリューを回収し、U−113に付け替えるというアイデアを思いつく。これがこの小説の上手いところで、プロローグで見つかった潜水艦はU−113のものか、それともこれから回収しようとしている潜水艦なのか最後まで読まないとわからないようになっているのだ。
そして修理の場所に選んだのがケイジャンたちの住むアメリカのスワンプというのが、「あっ!」と思わせるアイデア。ケイジャンの美しい娘ジョリーン、不思議な能力を持った老婆エステル、片腕の手首をドイツ人によって失ってドイツ人に恨みを持つサルベージ船の船長マイク、その部下で黒人のルシアス、無線からU−113の位置を嗅ぎつけて来るイギリス海軍少佐。これらが絡まりあって、濃密な人間ドラマが展開する。潜水艦の潜水シーンがここから無くなるので閉所恐怖症的息苦しさは感じなくなるのだが、人間ドラマとしての息苦しさが始まる。手に汗握るよ。
お腹いっぱいの感動を残して、いよいよエピローグ。話は現代に戻ると・・・いやあ、ラスト・シーンは正にジーンと来ましたなあ。
July.21,2008 布団に寝転がって旅行気分
足を骨折してしまい、外を出歩けない。ましてや旅行なんてもっての他。もっとももう随分と旅行に出てないのだが。それじゃあ旅行が嫌いなのかというとそうではない。いや、むしろ大好きな方で、知らない土地を目的もなくウロウロするのが無上の喜びであったりする。
東京するめクラブ(村上春樹、吉本由美、都築響一)の『地球のはぐれ方』という本は文庫になって初めてその存在を知った。6つの有名な土地へ行ったレポートだが、見方によればほんと不思議な空間だとしか思えないところばかりに行っている。
@名古屋
名古屋という土地は私も20年くらい前から「面白い」と思って何回も足を運んでいる。『蕎麦湯ぶれいく』を書き始めた初期にも名古屋に行って、その面白さを書いたくらいだから。この本に書かれていることはほとんど知っている。それでも知らなかったことはまだあるもので、名古屋ボストン美術館問題というのは初耳だった。ちょっとインターネットで調べてみると、この施設まだ存続してるんですね。多額の借金を抱えてまだ存続させる意味なんてあるのですかね。まあ、私があまり美術に興味がないということだけの話で、それでも名古屋市民は自分たちの税金を使われ続けていても、この施設は必要ということなのだろうか?
A熱海
熱海も私はけっこう詳しい方だと思っていた。かつて熱海といえば東京から新幹線1本で行けるということもあって宴会場代わりで賑わっていた。それがだんだんと廃れていってしまっている。私も何年か前に宿泊して、その荒廃ぶりに驚いた。しかしそれにしても熱海はディープだと思ったのは、風雲文庫の存在。これは知らなかった。足が治ったら是非一度出かけてみたい。どんなところなのか詳しくは書かないが、興味のある人は本書を読むか、[風雲文庫]で検索して欲しい。ぶっとぶこと請け合いだ。
Bハワイ
ハワイは一度だけ行った事がある。しかしここ、私には何も観るものがなかった。本書にも出ているシーライフパークへは行った。昼間は海岸に寝そべって、夜は何もやることがないので毎晩映画館に行ってアメリカ映画を観てばかりいた。惜しむらくは、ドン・ホー・ショー。知っていれば、絶対に観に行ったのになあ。
C江の島
江の島も何回か行っている。最初はおそらく中学一年生のときの遠足。それからある年の正月になぜか友人たちと行った。初詣代わりだったのだろうと記憶している。サザエ丼もこのときに食べた(笑)。そのあとがオートバイに夢中だった時代で、よく江の島までツーリングにでかけ江ノ島水族館などを見物していた。とにかく不思議な観光地だ。野良猫ウォッチングに行くだけでも楽しい。
Dサハリン
サハリンまで稚内からフェリーが出ているとは知らなかった。行ってみたいなあとも思うけれども、この本を読むと、とにかくな〜んにもないところなんだそうで、食事ひとつとるのもタイヘンそう。現地でガイドしてくれる人がいないとど〜しよーもないでしょ。この本を読んだだけで満足。よくわかりました。
E清里
私は清里が出来た初期のころを知っている。昭和30年代だ。山梨の田舎に遊びに行ったら、退屈だろうからとクルマで清里に連れて行ってくれた。そこはとてもきれいな風景で田舎の人の話によると、ここはいまに発展して土地の値段が上がるから買っておいたほうがいいと私の父に話していたのを憶えている。それがまさかああいう風に変貌していくとは思いも寄らなかった。父は結局その話には乗らなかった。正解だったかも。