September.30,1999 占いなの?これ

        今話題の『動物占い』(小学館文庫)、ついに気になって買ってしまった。周りの人の生年月日を、片っ端から当てはめてみると、なるほどよく当たっているから不思議。

        ちなみに自分はゾウ。当たってない所もあるけれど、普段はおとなしく、何があっても我慢の性格だが、我慢に我慢を重ね、いつかある時にキレて止まらなくなるというところ。何年かに一回キレて周りの人がビックリというのがあるのだ、わたしには。

        ところで、この換算表、70歳以上には対応していない。両親のを見ようとして、困ってしまった。百歳以上で生きている人もいるんだから、もう少し上まで解る様にしてほしい。


September.23,1999 今夜も読む前に一杯

        ホームページのタイトルを、『プライベート・アイ』にした都合上、なにか私立探偵物でも読んでみるかと、本屋へ行った。角川文庫の平積みで、探偵パトリック・アンド・アンジー・シリーズ第一弾という文字が目についた。デニス・ヘレインの『スコッチに涙を託して』

        原題が『A Drink before The War』。闘いの前の一杯とでもいうのだろうか。なるほど、主人公の探偵は酒好きで、酒を飲んでいるシーンはよくでてくる。

        パトリックとアンジーの男女ペアの私立探偵は、男女関係が実に微妙に描かれている。アンジーは暴力をふるう夫と結婚していている。かといって、その夫のどこがいいのか、離婚するわけでもない。パトリックは、実はアンジーを愛していて、彼女の夫をゆるせない。この二人の関係が今後どのようになっていくのか、ちょっと興味がある。

        また、パトリックの死んだ父という人物が、火事の中から二人の子供を助け出した英雄として有名な人物で、何かと言うと、父と比べられてしまうというコンプレックスを持っているというのが面白い。

        どうも、ロバート・B・パーカーの影響が強いようで、話が乱暴なのが気になりますが。


September.14,1999 柳昇の落語が好き

        春風亭柳昇の新しいエッセイ集『寄席は毎日休みなし』を読んでいて、ハッとした。それは、柳昇が、色紙を頼まれたときに、絵の一枚でも描けるようにと、日本画の先生に絵を習ったことがあるというエピソードのところだ。

        私、この色紙持っていることに、突然気が付いたのだ。二十年位前、店のすぐ裏に住んでいた銀座のバーのママが、うちのお得意様だった。当時、私の店には、有名人の色紙が何枚か飾ってあって、それを見たママが、自分の店に柳昇がよく来るので、色紙を貰ってあげると言って、持ってきてくれたものだ。

        実を言うと以前私は柳昇が嫌いだった。なにせ、中学生のときからの、年期の入った落語ファンである。しかも、毎月、新宿の紀伊国屋ホールの『古典落語を聞く会』に通っていたガチガチの古典派。当時の出演者は、円生、小さん、正蔵、馬生、文楽が必ず高座に登り、他は月代わりでいろいろな噺家が出演していた。ホール内を見まわしてみても、中学生の姿など皆無。おそらく、最年少の観客だったはずだ。上記の5人を、まるで神のように敬っていた私は、柳昇の新作落語などさらさら聞く気がなく、内心バカにしていた。やがて小さん以外は、みんな故人となってしまい、私の落語への興味は自然と薄らいでいってしまった。

        再び落語を聞くようになったのは5〜6年前から。そのころには、もうすっかり肩の力が抜けていた。志ん朝の独演会に行ったら、まくらで、こんなことを言っていた。「なにか古典芸能を観賞してやろうなんて、間違った考えでいらっしゃる方が時々おられますが、どうか力を抜いて楽しんで行ってください。」 そのとおりだなあと思いましたね。すると、落語っていろいろな楽しみ方があるんです。今まで嫌いだった噺家が妙に面白くなってきたりする。

        柳昇もそのひとり。この人が嫌いだった理由はたくさんあって、まず話がくだらない。高座に登って、まず最初に発する「今や春風亭柳昇といいますと、わが国では、わたくし一人でありまして」というギャグらしきものが聞くに耐えない。与太郎戦記ものが時代錯誤。時々吹いてみせるトロンボーンがへたくそ。そしてなによりも、発音が不明瞭という最大の欠陥がある。

        上の色紙を貰ったときも、その文句「遊んでいるよな小鳥でさえも、生きる為には苦労する」が引っかかった。これって要するに、「バカなこと言って気楽な商売のように見えるでしょうが、たいへんなんですよ」という意味が隠されているわけでしょ。そんなの粋じゃないねって思いましたもの。それがある時、くだらないくだらないと思いながら、結構楽しんで柳昇を聴いている自分を発見していた。ラジオなどで柳昇が出ていると必ず聞いている。『結婚式風景』など何回聞いてもおかしい。

        前置きばかり長くなってしまったが、そんなわけで、この本を買ってしまった。いろいろ人生経験積んできた人だけあって、所々頷いてしまう文章がある。「50過ぎた人に説教しても無駄」なんて、とても説得力があるなあと思っていると、他のページでは「40過ぎた人に説教しても無駄」になっていたりする。それもそうかもなあ。


September.10,1999 日光で買った文庫本

        ここ数年、夏になると、避暑を兼ねて東武線で日光方面へ短い旅行をしている。なぜ日光なのかというと、このところ日光は空いている上、JRよりも私鉄は乗車賃が安くあがるからだ。旅行と言っても、あまり出歩かず、日がな一日温泉に浸かり、湯上りにビールを一杯。眠くなると寝てしまうという、グータラ旅行である。たまに目を覚ましているときは、読書。

        行きがけに東京で買った貴志祐介の『クリムゾンの迷宮』(角川ホラー文庫)は正直いってあまり期待していなかった。『黒い家』こそ面白かったものの、次の『天使の囀り』がつまらなかった。そこへきて、こんどは文庫オリジナルだ。嫌な予感がしたのだが、実際読んで見ると、とても読みやすく、かつ面白い。あっという間に読み終わってしまいそうになった。

        かくなる上は、帰りの電車用にと、日光の街で本屋捜し。街中捜しまわって発見できた本屋は唯一軒。小さな本屋で、しかも店の半分は文房具売場。残り半分の、そのまた半分は雑誌。さて、残り四分の一ですが、学習参考書と実用書が幅を利かせていて、単行本はほんのわずか。しかも、これ、いつ入荷したのだろうという、古くて黄ばんだ本ばかり。文庫の棚は、新潮文庫が少しあるくらい。その中から、どれにしようかと迷った末、清水義範の『戦時下動物活用法』を選んだ。清水義範の短編集なら、まずハズレがない。

        表題作は戦時下でペットを活用する方法を書いた文書という、パスティーシュ。犬、猫、馬、牛、トカゲ・ワニ類、鳩、金魚、山羊ときて、一番笑ったのが猿。猿の活用法の最後の文章。「猿も、軍服を着て、銃を持ち、勇敢敵に突撃をかけるのです。これにより我が国の兵力は格段に増強されます。欧米人には、日本人の兵士と、猿の兵士との見分けはつきませぬ。」 これ読んだとき、声に出して笑ってしまった。

        10篇入っている短編はみんなハズレがないけれど、一番気に入ったのが、『こだわりの旅』

        「そこは、そば通の間では有名な店だからね。普通の人は知らないかもしれんが、本当の旅好きにはよく知られているんだ」「うまいのか」「うまいとか、まずいとかいう次元の話じゃないんだ。そこのそばこそが正しい」(中略)「それだけ待たされて、やっと食べられるそばはうまいだろうなあ」「だから、うまいまずいではなく、正しいんだよ。そばは透き通るような乳白色で、ぼそぼそだ」「ぼそぼそ?」「うん。どうしても長くつながらなくて、一番長いのでも十センチぐらい」「それ、うまいのか」「正しいんだ」 

        なんか、こんな店ありそうな気がしませんか?

このコーナーの表紙に戻る 

ふりだしに戻る