October.22,1999 プロには書けない気迫の文章
本当は、女性が読んだ方が面白いのだろうが、清水ちなみ監修の『史上最低 元カレ コンテスト』(幻冬舎)は、男の私が読んでも面白かった。別れた男が、いかに嫌な奴だったかを、女性達が投稿している。いわく、けち、自己中心的、しつこい、嫉妬ぶかい、ストーカー、貧乏くさい、二股、暴力、マザコン、わがまま、などなど。
しかし、面白いなと思うのは、特に彼女達が嫌うのが、貧乏な男ではなく、貧乏くさい男であることだ。貧乏なのは、物理的に仕方ない。ただ、貧乏くさい性格が嫌いらしいのだ。これは勉強になった。
女性の側からの、一方的な話なので、「本当にそんな最低な奴だったの? あんたの方にも問題があったんじゃないの?」と言いたくなる文章もあったけれど、これらのナマの文章の迫力は、プロには到底書けないインパクトがある。おそらく編集で、所々、手を加えているのだろうが、なるべく原型のままで載せようという気構えが感じられてうれしい。
October.13,1999 魅力的なスナイパー小説
ミステリ好きの間でいかに評判になった作品があろうと、以前のように本を読む時間がほとんどとれないこともあって、読みたいという気だけあっても、読まずに過ぎていってしまう。しかし、今回は、それが怪我の功名。あれほど評判になったスティーヴン・ハンターの『ダーティ・ホワイト・ボーイズ』も『ブラックライト』も読まずにいた。そうしたら今年になって、新潮文庫から『極大射程』という作品が出た。驚いた事に前記二作は、同じ主人公狙撃手ボブ・リー・スワガーによる二作目と三作目で、『極大射程』こそが一作目だというのである。ラッキー。始めから読める。
さすが評判になっただけあって、これは面白い。何といっても、主人公が魅力的に描かれている。これならシリーズにしたいと思わせるキャラクターだ。
ボブ・スワガーは、この第一作目、上下卷800ページの中で、四回、絶体絶命の状況に置かれる。まず要人暗殺現場に騙されて誘い出され、犯人の濡れ衣を被せられた上、銃で撃たれてしまう場面。殺された犬を引き取りに、厳重な警戒体制の中、堂々と乗り込む場面。自分の住む山に、ヘリコプターを含む大部隊を投入される場面。そして最後の闘い。特に最後のは、人質を獲られて、それこそ絶体絶命。どうするのか、手に汗握ってしまった。
サービスよく、ダイイング・メッセージまで出てきて、読者を飽きさせないのはさすが。評判いいわけだ。
October.3,1999 テレビの古畑任三郎
このコーナーは、本の話題、特にミステリーのことに関して書こうとしているのだが、いかんせん本がさっぱり読めない。裏にセカンドルームとして買ったマンションが、いよいよ今月引渡しなので、その準備があるし、ホームページは立ち上げなければならないし、たまに読んでいるのもパソコン関係の本ばかり。
そんなわけで、今日はテレビのミステリー・ドラマの話。昨日から『警部補・古畑任三郎』の何回目かの再放送が始まった。一回目は中森明菜が犯人役になる。ポイントはダイイング・メッセージ。殺された者が、死の間際に犯人がだれであるかを誰かに知らせようとする行為。犯人に気づかれないように、犯人を暗示しなければならない。この辺、いい加減なドラマだと「おーい、それじゃ犯人に気づかれて消されちゃうぞお」と、突っ込みを入れたくなるが、さすが三谷幸喜、その点もしっかり押さえている。
中森明菜は少女コミックの作家。別荘の地下倉庫に編集者を閉じ込め、事故に見せかけて窒息死させる。被害者は明菜の描いた原稿を握って死んでいる。数日たって、さも、知らずに別荘に来て、死体を発見したように見せるのだが、任三郎はダイイング・メッセージだと見破る。死体は、もう片方の手でボールペンを持っている。それなのに、紙である原稿を握りながら、あえて何も書かなかった。なぜなら犯人の名前を書いても、おそらく第一発見者という格好をとるであろう犯人に捨てられてしまうだろうから。それで、被害者は書きたくても書けないというメッセージを伝えたかった。この論理の構成はうまい。
この回は、もう見たのが三回目。最後に重要なポイントとなるスリッパも、ちゃんと犬が咥えているシーンをさりげなく入れている。この辺も芸がこまかい。
初めて見たとき、終わりのクレジット・タイトルをながめていて驚いた。なんと池田成志の名前があるではないか。1991年の、つかこうへい『熱海殺人事件』で木村伝兵衛役を演った快優である。この回、登場人物が四人しかいない。とすると、最初に出てきただけで殺された被害者役か。ビデオが出て初めて確認できた。たしかに池田成志だ。セリフも少ないし、ほとんど後ろ向きのアングル。わからないよなあ。