東野圭吾 祈りの幕が下りる時 講談社 2013年10月28日 『新参者』『麒麟の翼』に続く、加賀恭一郎シリーズ・日本橋編、第三弾。 もっとも、話の展開からすると日本橋編はこれで一応最後になるかもしれない。私の住んでいる地域だから、楽しみに読んでいたし、これで日本橋編が終ってしまうと地元の商店街はがっかりするだろうなぁ。 日本橋地区を、とてもしっかり取材してあって、地理など間違いがなく記述してあるのがうれしい。今回はあまり地理的なことは出てこないが、明治座が大きくクローズアップされている。劇場の中まで実際に足を運んだらしくて細かに描かれているが、どうやら明治座の舞台裏や、一般人が立ち入り出来ないところまでは取材していないような印象を受けた。私は、楽屋はもちろん、明治座の中は奥まで入った事があるからわかる。裏の構造になると描写が曖昧になったり、うまくスルーした文章になる。まぁ、それでも小説としてはかまわないのだけれど。 今回は加賀恭一郎の失踪した母親の話が、本筋の事件と共に明らかになってくる。父親の話というのは今までにも出てきたが、母親というのは無かった。シリーズに膨らみを持たせようというのだろう。ただ、今の事件と一緒に語られると、ちょっとゴチャゴチャした印象になってしまうのがどうも。 物語の真相は例によって東野圭吾だから暗い。日本橋編としても、ひとつ前の『麒麟の翼』も暗かった。むしろ連作短編と形をとっている『新参者』の方が大きな話の流れとしては暗いものの、ひとつひとつの短編で救われるようなエピソードがいくつかあったので読後感はよかった。 『麒麟の翼』では日本橋と江戸橋というふたつの橋がクローズ・アップされたが、今回は12の橋が物語の鍵になる。中でも左衛門橋が一番重要な意味を持ってくるのだが、「う〜ん、左衛門橋ねぇ」という気持ちにさせられた。神田川の浅草橋よりひとつ上流にかかっている橋。左衛門橋ってね、地味な橋なのだ。詳しくは書けないけれど、人通りが少なくてそれほど長くない橋にしたかったのだろうけれど、なんかねぇ、画にならない。 おそらくこれも映画化するのだろうけれど、ひょっとすると橋を変えてしまうかもしれないなぁ。画になる上に、話の構成上一番いいのは柳橋だろうなぁ。個人的には画としては、豊海橋にして欲しいけれど。 本の表紙も柳橋。そして裏を返すとようやく左衛門橋。やっぱり画にならないんだ。 このコーナーの表紙に戻る |