エマミ・シュン・サラミ『イラン人は面白すぎる』(光文社新書) クイーンのベーシストだったジョン・ディーコンのファンの集まりディーコニスト集会で、川柳つくしさんに『ディーコン』をやってもらったときにゲストで来てくれたのが、ディスペラードという漫才のサラミくんというイラン人。メイクをするとフレディ・マーキュリーそっくりで、『こんなクイーンは嫌だ』という、鉄拳からヒントを貰ったようなフリップねたをやってくれた。 あれからもう3年。普段はイラン人をネタにした漫才をやっているとのことで、是非一度観に行きたいと思っていながら、未だに果たせていない。You Tubeで、その一端が観られるが、どうもそのイスラムねたは放送に乗りにくいらしくて、テレビではほとんど見られない。 そのサラミが書いた本が出ている。これが面白い。お笑い芸人が書いているイランおよびイスラム文化に関する本だから、読みやすい。笑いながら読んでいるうちに、それまであまり知らなかったイランという国とそこに暮らす人々のことが見えてくる。こういう本が光文社新書という、なんとなく硬いイメージのところから出されているのがまた不思議だが。 とにかく中東の文化の根幹をなしているのがイスラム教。これが馴染みがないから、この文化圏のことが奇異に思えてしまう。だいたいからしてどんな宗教にもあまり関心が無いのだが、イスラム教と聞いただけで拒絶反応が起こってしまう。アルコールは飲んじゃだめ、豚肉は食べちゃだめ、ラマダンといって昼間食事しちゃだめな時期がある、女性は顔や肌を見せてはいけないなど、およそ理解できないことが多すぎて、意味がわからない禁欲生活などまっぴらな私は近寄るのも嫌だと思ってしまう。 そのわりには日本にいるイスラム圏の人間がビールを飲んでいる姿を目撃してしまったりするから、ますますわけがわからない。そのへんもこの本のタイトルどおりイラン人は面白くて、ちゃーんと抜け道もあるらしい。ガチガチに戒律を守っているだけでなく、どこかいい意味でのいい加減さがあって面白い。この本を読んでいるとイラン人は人間は神のために生きているのではなく、神の力を借りて生きているんじゃないかと思えてくる。 世の中にある宗教がそんなに正しければ、この世から戦争などはなくなるはずだだが、どの宗教もみんな、それが元で戦争が起きている。イスラム圏なんていまだに紛争が絶えないではないか。そう思うとき、やはり無信仰の母が言っていた言葉を思い出す。「宗教は悪くないんだよ。宗教を作った人はみんな立派なことを言っているんだよ。ただそれを伝える人間がいけないんだよ」 あまりに狂信的になってしまうのも、あまりに宗教が大きくなってしまうのも、いいことはないのかもしれない。 どこまで宗教に真面目なのか、醒めているのかよくわからないイラン人が面白い国民だなと思えてくる。 イスラム教をネタにしてお笑いをやっているサラミくんを、きっとアラーの神は、笑って許しているに違いない。 2012年9月1日記 静かなお喋り 8月31日 このコーナーの表紙に戻る |