『無理』奥田英朗 合併により新しく出来た東北の地方都市を舞台に、5人の登場人物を取り巻く物語が別々に動いていく。 東京生まれで東京育ちの私だが、若いころ地方都市で暮らしてみたいと憧れたことがある。きっと東京よりものんびりとして落ち着いた生活が送れるんじゃないかと思ったものだ。五木寛之が金沢に住んだりしていたころで、そんなことも憧れの原因だったのかもしれない。もっとも、現実的には地方にいって生活できるわけもなく、ズルズルと東京暮らしを続け、結構それを楽しんでいるのだが。 『無理』を読んでいると、そんな地方都市の生活の一端が垣間見れて、そんな甘いもんじゃないんだなと思うのだが、この小説に出てくる5人はみんな悪い方へ悪い方へと人生が転がって行ってしまう。それも自分たちはそれぞれの立場で一生懸命生きようとしているのに、なぜか地滑りが止まらなくなっていってしまうのだ。 読者なんて勝手なもので、そんな登場人物たちの人生は哀れでならないというのに、それでどうなるんだろう、どうなるんだろうという興味でページをめくり続けることになる。自分の身に降りかかったことではないのでどうってことない。 テレビのワイドショーなどで報じられる事件なども無責任に、なんてひどい事件だと思いながら、ついつい野次馬根性で見てしまうところがあるが、小説ともなればなおさら、これはフィクションなんだものという気楽さもある。 おそらく奥田英朗は、五つのエピソードを人物の設定だけ考えて、先のことまで考えずに書き出したのではないだろうか。物語は各人物たちが動き出すのを待ちながら書き継いでいったような、そんな印象を受けた。 ラストに五つのエピソードがまとまる。それもやや強引に。滑り落ちていった人生がまさに衝突する。えっ、これで終わり?この先これらの人々の人生はどうなるんだろうと思うのは、やはり野次馬根性なんだろうか。 そこには、他人の不幸は面白いと思えてしまう自分がいたりするのだが、そんな自分を嫌だなと思いながらも、やっぱりこんな小説がまた出たら読みたいとも思ってしまう。みんなそうなんだろうか。 2010年2月11日記 このコーナーの表紙に戻る |