杉作『猫なんかよんでもこない。』(実業之日本社) このタイトルと表紙を見ただけで衝動買いをしてしまった漫画。 杉作という人には『クロ號』という猫漫画があるのは知っていたが、読んでいない。 しかしこの、『猫なんてよんでもこない。』というタイトルは絶妙だ。「ん? なんだなんだ」となってしまったのはいうまでもない。それこそ、散歩しているときに猫に遭遇したときの感覚に似ている。 それにこの、まんまるい、こちらを振り向いている、ちっちゃな黒猫。 猫好きな人間は、まず無視することができないだろう。 読んでみると、これはのちに『クロ號』を描くことになる作者が、それに至るまでに、二匹の猫と過ごした日々を漫画で綴ったドキュメンタリー。 作者が、兄のところに居候をしながら、ボクシングのチャンピオンを目指している。そこへ兄が二匹の捨て猫を拾って来る。当初は猫なんて興味無かった作者が、やがて猫にからめとられていく様子は、猫を飼った経験のある人なら、ついニヤリとしてしまうはず。 そのうちに兄はいなくなり、作者は二匹の猫と共同生活を余儀なくされる。 二匹の猫はオスとメス。オスとメスどちらも飼った経験のある人なら、オスとメスとの性格の違いにもニヤリとすることばかり。 猫を飼うということは、実は人間は猫の世話役になり下がることなのだということを、この漫画も描いている。 私も、猫を飼っていた時は、我が物顔の猫を見るたびに「なんで、こんなやつがウチにいるんだ」と思っていた。しかし、いずれは別れがやってくる。そのときの寂しさといったらない。 そう、まさに、猫なんかよんでもこないと思っていた人間が、いつの間にか猫に支配され、猫がいなくなれば寂寥感に襲われてしまう。そんな心情を、味のある絵と共に表現している。 そういえば最近、『クロ號』を書店で見ない。古本を探してみるかな。ひょっこり見つけたら、「なんだ、そこにいたのか」と呟いてしまいそうだが。 2012年6月1日記 このコーナーの表紙に戻る |