美しい家 新野剛志 講談社 新作が書けないでいる作家。新作のアイデアも沸かないまま、夜中にエッセイを書いている。気分転換に散歩に出ると、コンビニの前に座り込んでビールを飲んでいる少女に出会う。終電を逃したらしいので、朝まで仕事場に泊めてあげることにする。翌朝、彼女は消えている。作家の大切にしているピンクの歯ブラシを持って。 ピンクの歯ブラシが無くなっていることから、作家は少女を捜す。なんでその歯ブラシが大切だったのかは、すぐわかるのだが、そんなに大切だったら何も洗面所の歯ブラシ立てに入れておかずに仕舞っておけばよさそうなものだが、それはまあ、いいとして・・・。そこから発生する作家の姉の物語に発展するのかと思ったら、そっちには行かない。なんで? 少女は小さいころ、スパイ養成学校に入れられていたという謎の話を残して消えてしまうのだが、作家はそのことにも興味を覚える。次の作品のヒントになるんじゃないかと。このスパイ学校の話が発展するとまた違うストーリーになっていくなと思っていると、今度は昔あったイエスの方舟事件を思わせる団体の姿が見えてくる。ははぁ、これは家族をテーマにした物語になるんだなと思っていると、本が半分ほど進んだところで唖然とする事が起きる。えっ! いったいこの小説はどこへ向かっていくんだ? 疑似家族をもう一度始めようとする人と、まったく乗り気でない人。そして、黄金の里なるものを探し求める人。話がどんどん抽象的になりかけていくと思っているとそうでもない。昔の殺人事件が出てくる。やっぱり推理小説か? 冒頭に出てきた少女と、疑似家族に関わっていた過去を持ち刑務所から出てきた少年。そして、それを取り巻く多くの人々。家族とは何なのか。それらがほとんど未消化のまま物語が終ってしまう。いったいこの小説は何をしたかったのか。過去の殺人事件の真相が暴かれるのは推理小説なのだが、妙に純文学っぽいところもあり、そちらにも未練を残しているような気がしてしまう。雑誌連載だそうだが、最初から何を書こうか決めていたのだろうか? なんだか、ちぐはぐな気がする。これだけいろんなものを散りばめておいて、なんだか勿体無い。もっと面白くなったと思うのに。 2013年4月3日記 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |