映画と関係ないページ

自転車道 /
The way of the bike

乗り始めた時期: 子供の頃

井上さんの記事に便乗して同じテーマを扱わせてもらいます。

ドイツ人は何でもなんとか道、かんとか道と宗教にも近いような風にしてしまう癖があって、柔道、空手など格闘技にとどまらず、菜食主義、健康、瀬戸物作り、俳句など、何にでも拡大して行きます。同人が何人か集まるとすぐいろいろな規則を作り始め、最後はまるで儀式のモンスターのようになります。新しく入って来た人はその長い儀式をたどり、見習いながら徐々に経験を積み、最後はモンスター、いえ、マイスターのようになります。私の目にはまるで健康とか文学とかを楽しむより、その長い道をたどる方が重要に見える時もあります。何か日本と大きく関わりのある時は本当に「道」という一文字をくっつけるなんて事をする人もいます。

産業が口を出す余地があれば、ばっちり乗り込んで来ます。例えば自転車道。

自転車専用道路のことではありません。

私も日本で自転車に乗っていました。ドイツに来るまでに三輪車、子供自転車、少年用自転車、大人自転車の4つを買ってもらいました。確か最後の2つは宮田自転車で、大人自転車には3段ギアがついていたように覚えています。全く相談も無しに、ねだったこともないのに、いきなりうちに自転車が届き、兄弟の上だったので、早速乗ってもいいことになり、大いに驚いたのを今でも記憶しています。新品のピカピカが届いて、いくらでも乗っていいことになったので、とにかく驚きました。年齢、体の大きさから言って、私だけを念頭に置いて買ったらしく、当初は他の人と分け合う必要もありませんでした。「頼みもしないのに」と書くと、「要りもしないのに」と取られそうで、それでは誤解になるのですが、「自転車を欲しがる」という発想が自分に無かったので頼まなかったのです。親の方は近所の子供を見て、自分の子供にもいずれと思っていたのかも知れません。当時は私の家だけでなく、子供が親に物をねだる事が少ない時代でした。良く考えると自転車はそれほど高価な物ではなかったですが、誕生日でもないのに新品が届いたのには驚きました。今でも日本に帰ると、西友などに新品の自転車が1万いくらとかで置いてあり、気楽に買って帰る人もたくさんいるようです。

90年代、こちらで自転車が無く、日本の自転車がうらやましくて、もしできたら1台買って飛行機で持って帰ろうかと思ったほどです。というのはドイツの自転車がべらぼうに高いのです。大したこともない、私が日本で乗っていた程度の物でも3万円は越えます。だからと言って良い製品とは限りません。店で新品を売っていてもタイヤのつけ方が悪くて、車輪がちゃんと丸く回転しなかったりします。中古を買う時はよほど自転車に詳しくないとだめです。きれいに見えてもブレーキがちゃんとしていなかったり、何か問題がある場合があります。その上当時は盗品を転売したなどというケースもありました。番号などは入っていないので色を塗り替えたりすれば分からなくなり、中古を買った店の人も知らなかったなどということもあります。

実は警察がサービスをしていて、どこかの自転車屋さんで登録番号を彫り付けてもらうことができます。そうしておいて盗難に遭うと、みつかった時それが証拠になります。保険会社もそういう対策を奨励しています。私もその話を聞いてやってみました。大して手間もかかりませんが、隣近所を見てもそんな事をしている人あまりいないようです。話のついでですが、自転車専用保険もあります。普通の家財の保険に入ると自転車もついていて、盗まれたりすると無論保険金が返って来ます。しかし保険金支払いの上限がかなり低くて、定価で新品を買った人にはあまり頼りになりません。ドイツの価格の中で特に高い自転車を買わなくても、この種の保険の上限にすぐ達してしまいます。自転車保険では買った時点でその自転車の購入価格をレシートなどで示し、それに合った保険金を支払います。特に安い保険とは言えませんが、1年に1回調整をする時の値段を一部引き受けてくれたり、自転車独特の問題に合わせてできています。

後記: 先日無事故記録で表彰はされませんでしたが、保険会社からプレゼントを貰いました。その後無事故ボーナスがつくようになりました。

さて、ある日新品の自転車を買ったという人がいたので見たら、どこにも自転車なんかない、部屋に大きなダンボール箱があるだけでした。聞いてみると自転車はその中に入っていると言うではありませんか。改めて知ったのですが、ドイツ人には自分1人で自転車を組み立てたり修理できる人もけっこういるのです。今でこそタイヤがパンクした時にはどうやって修理するか知っていますが、その頃はただただ目をまん丸にして驚くばかりでした。

自転車の値段ですが、とにかく高い。10万円など軽く越えるものがあります。それどころか30万円でも払うという客がいくらでもいるようです。最近自転車泥棒は減ったような印象を受けますが、それは自分の自転車を持っている人が増えたから需要が減ってということなのかも知れません。自転車屋さんには相変わらず高い製品が並んでいます。

ところで町を歩いているとドイツ人の自転車は95%と言ってもいいぐらいカタカタ音をたてながら走っています。私が整備して音を立てずに走っていると「危ない」と言われました。何が危ないって?静かに走ると歩行者が私の自転車に気付かないから衝突するかもしれないのだそうです。変な国だなあと思いますが、確かにほとんどの自転車が音を立てながら走っています。

さてメインテーマの自転車道ですが、とにかく凄いです。雨でも傘をささずに走れるようにゴアテックスという新しい繊維でできたジャケットがあります。これが自転車1台買えるぐらいの値段。ついでにズボンもあり、これまた自転車1台買える値段。井上さんの記事を読んだ方、これで日本とドイツの傘の事情を比較して下さい。ドイツでは傘をさして走っているのはまだ見たことがありません。次に手袋、首の周りを暖かくするためのフリース製の首輪。自転車に水筒を取りつけるための金具、水筒、各種のランプ、特製の靴、衣装、眼鏡、鞄、スノータイヤ etc. 東急ハンズの自転車付属品売り場よりずっと大きい店もあります。真冬氷点下10度でも走れるように、足首から太腿の上までをカバーする防寒具なんてのもあります。真冬氷点下10度で自転車に乗るバカがいるのかって?・・・います。

とにかくこれだけで商売が成り立っています。無論雑誌もあればクラブもあります。こうやって何から何まで完璧に揃えるのが本物の自転車通。「自転車は交通機関の1部、走ればそれでいいんだ」などととうしろうのような事を言うとじろ〜っと睨まれます。

さて話がわき道にそれますが、別な自転車道。自転車専用道路の話。これは日本よりずっと整備しています。西ベルリンは特に良くて、ベルリン自転車専用道路地図というのがあり、それをたどって行くとたいていの所へ比較的安全に行くことができます。22年もここにいていまだに慣れないというアホが私なのですが、ドイツは日本と左右逆の方向を走るので、90年代の中頃まで乗りたくても自転車に乗るのをためらっていました。つい日本と同じ方向を先に見てしまうのです。角を曲がる時に間違った車線に入りそうになったこともありました。ところがどんどん自転車専用道路ができ、ついに思い腰を上げて、自転車屋さんに行きました。そして運のいいことに4分の1値下げになっていたすばらしくいい自転車を見つけました。比較的小柄なので周囲から(親切で)「子供用自転車があるよ」などと自尊心を傷つけられるような事を言われていたのですが、みつけたのはれっきとした大人用。試運転させてもらい、気に入って決心。その日その自転車で家に帰るのは大変でした。恐々。

でもうちの近くからもうすぐ自転車専用道路。そしてその気になれば自転車を地下鉄や電車に持ち込んでも構いません。料金はちょっとかかりますが、自転車と地下鉄を組み合わせると短時間にかなりの距離出かけることができます。

井上さんがカッカと頭に来ながら出した疑問「自転車はどこを走るものか」 − ドイツの答は「自転車専用道路」これが凄い贅沢だということは重々承知しています。

「自転車専用道路が無かったらどこを走るのか」 − 井上さんはそんな事は全然聞いていませんが、ついでに答を。 − 「好きな所を走っている」

車道を走っている人もいれば、人道を走っている人もいます。おおむね速度で決まるようです。時速30キロ以上で長時間走るつもりの人の多くは車道を選ぶようです。自転車を使ったメッセンジャー・ボーイなどはたいていそうしています。人道を走るつもりの人は人を優先して、あまり無茶な走り方はしません。車道を走る人の全部が高速で飛ばしているわけでもありません。市バスの真前を悠々と低速で走るつわものもよく見かけます。大型の2階バスがゆっくり走る女性の後ろをその速度に合わせてのろのろ。これはなかなか見物です。

携帯を使いながらというのを見たのは後にも先にも1度。アホと思いました。最近ドイツでは自動車運転中でも携帯はだめになったようですから、もしかしたら法律ができたのかも知れません。ベルは原則的には鳴らしません。自動車のクラクションも禁止という国ですから(サッカーの決勝の日と結婚式の時だけお目こぼし)。それでも使うのは子供や外国人が自転車専用道路を占領している時。そこが自転車専用道路と知らない人たちですから仕方ありません。それでもできるだけ小さい音で、本人だけに分かるようにそっと。ヘルメットはオートバイでは強制。自転車には法律がありません。それでも被った方がいいです。事故で頭を打った時かなり差が出るのと、裁判になった時もそれなりに安全対策を取っているかいないかで結果に多少違いが出ます。

北欧やオランダではもっと前からよく使われていたようですが、ドイツは一時自動車王国で自転車はあまり目立ちませんでした。しかし環境についてあれこれ言われるようになってから自転車はドイツで急に再認識されました。体を動かすと健康に良いこともあって、それ以来廃れるということはないようです。田舎では都会と違い大昔から重要な交通機関だったようで、子供が自転車で学校に通うのは常識だったらしいです。ベルリンのような大都会ではバス、電車など公共の交通期間が発達していて、自転車が無くても済むことは済みます。ところが地下鉄が自ら自転車を持ち込んでもいいという風になり、どうやら自転車と敵対するつもりはないようです。

ベルリンには貸し自転車もできたので、旅行でいらした時には試すといいかも知れません。ただ日本と左右反対を走りますから、その点だけはくれぐれも注意して下さい。ドイツの自転車はハンドブレーキでなく、フット・ブレーキがかなり普及しています。日本人は最初かなり戸惑います。私も結局慣れることができず、ハンドブレーキの自転車を買いました。自転車道の極め付きがブレーキ。伝統的なのがフット・ブレーキで値段も1番安価です。その次が日本では普通のハンドブレーキ。ワイヤーです。次がマグラの油圧ブレーキ。そしてついにディスク・ブレーキまで出ました。ここまで行くとたかが自転車、アホかと思います。

ノーネームの製品もかなりありますが、外国製では古賀宮田自転車やKT(オーストリー)をよく見かけます。ギヤやブレーキは島野がほとんど市場を占領しています。この3つの名前は子供の頃から日本でもお馴染みなので私はあまり何も考えませんでしたが、品質はいいようです。以前はザックスというドイツの会社もギアを作っていました。これはブリジット・バルドー前亭ギュンター・ザックスの会社です。しかし最近 SRAM (アメリカ)に吸収されました。と、変な所で映画スターの名前が飛び出しました。ま、自転車の話はこのぐらいで。

後記: 2年経った今、携帯を使いながら自転車に乗っているアホが巷にあふれています。(元の場所へ戻る

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