映画と関係ないページ
考えた時期:2003年1月
マーサの幸せレシピをごらんになった方はお分かりかと思いますが、西洋料理でも包丁は大切な商売道具です。最近は普通の家庭用にも何種類もの包丁が売られていて、重量のある木製の包丁立てまで売っています。(あれ、かっこいいけれど、どうやって掃除するんだろう。)それにドイツはゾリンゲンという町が刃物で有名です。
かく言う日本も負けていません。専門店があり、中には 江戸時代から何百年も続いた店もあります。そういう店は元は刀を作っていたなどというケースも多いです。 私の知っている京都の専門店も和包丁、西洋式の包丁など、鉄製、ステンレス製、セラミックなど新旧取り揃えていました。1度買うと、砥ぎは永年サービスなどという途方もない事をやってくれる店でした。我が家は関西関東に散らばっている親戚一同がみなこの店をひいきにしていました。
私は子供の時単純に専業主婦の母親から包丁の使い方を習いました。これと言って教育を受けたわけではありません。「物を切る時左手の指は右に突き出さず丸めておけ」程度の事です。あとは肉切り包丁、菜切り包丁、出刃包丁などの使い道。実際にはそんなに色々揃えずペテナイフで間に合わせてしまったりもします。
我が家では子供が独立すると包丁の種類も増える傾向があり、私の所も5種類ぐらいになっています。ドイツでも最近では普通のねぎが買えるようになっているので、トントントンというねぎのみじん切りをする音が台所から・・・ということもあります。
さてドイツ人の料理を見ていて「ああ、違うなあ」と思うのは包丁の使い方。私の方法が正しいかどうかは分かりませんが、野菜をみじん切りにする時は上からあまり手に大きな力を入れず、トントントン。私の包丁は重さのバランスが取れていて、上からぎゅうぎゅう押さなくても包丁自身の重みと上からの僅かな力で切れます。ですからねぎをみじん切りにする時はあまり小さな軽い包丁は使いません。
りんごの皮などを剥く時は、酸味があるからセラミックを使うか、ペテナイフ。私はペテナイフの方が好きです。セラミックは今一シャープさに欠けるような気がします。でもセラミックには錆びないという利点もあるので、時々は使います。グレープフルーツやレモンを切る時は絶対にセラミックにしています。セラミックも京セラなどに頼むと砥いでくれます。
にんじんやジャガイモの皮を剥く時は日本の包丁は使わなくなりました。ドイツには専用の皮剥き器があり、私が買った当時は150円程度でした。安かろう悪かろうという物もありますが、中には出来の良い物もあり、10年以上前に市場で買った物が今でもシャープなまま。洗うだけで手入れも必要ありません。
ドイツ人はどうやっているか。まず、ドイツのどの家庭にも必ず1つ2つ見られる安いナイフがあります。包丁という名前もふさわしくありません。プラスティックの柄のついた20センチに満たないもの。りんごを剥いたりするのにちょうど良いです。最初のうちはいいですが、暫くすると鈍くなります。するとドイツ人はどうするか。当時150円程度の物でしたから、使い捨てにしてもいいような物ですが、それはちょっともったいない。
ドイツにも日本の砥石と似たような物を売っているので、それを使うのかと思いきや、そんな物を家に置いている家庭はあまり見かけませんでした。代わりに金属の棒のような物を使います。ざっと見ると大工さんの使う鑿みたいなのですが、柄でなく先の部分が結構が長くて、そこは鑢のようにざらざらになっています。そこにナイフの刃を滑らせ右左と刃の面をこすります。「こんなのでいいの?」と思いますがとりあえず前よりはシャープになります。それでよく男性でも料理の前に引出しからその砥ぎ器を出して来て砥いでいるのを見かけました。ちょっと金持ちになると電気式の包丁砥ぎ器があります。これは研ぐ部分を機械のスリットに入れ、スイッチを入れると中で鑢のような物が回転するらしいです。便利そうだけれど自分の包丁をこれで研ぐ器にはなりません。包丁がかわいそう。というのはドイツの包丁の金属部分は日本より硬そうで、この程度機械で砥いでもびくともしない様子。日本の包丁をこれに突っ込んだら刃が欠けそうです。
独身の男性だけでなく、かなりの人がこの小さいナイフで肉でも野菜でも間に合わせています。見ていると何となく不便そう。いろいろな種類のナイフを買うのは中流階級以上、設備のそろった台所を持っている奥様方という印象を長く持っていました。しかし最近ではかなり頻繁にデパートやスーパーで数種類ナイフをセットにして売るようになっており、どうやら一般にもこういうセットを揃える事が浸透して来ているのでは、と最近は考え方を変え始めているところです。
このセットを見ているとドイツにも肉切り包丁、菜切り包丁などと色々あるらしい事が分かって来ます。10年以上前に専門店でトマト切り包丁というのを買いました。「なに、これで切っていいのはトマトだけ?」と驚いたのですが、いざトマトを切ってみるとあまり調子が良くありません。先っちょがとんがっていて、三角形の刃。短くて全長15センチちょっと、刃は6センチほどです。しかしこれはりんごの芯を取り除くなど、ちょっとした物を切るのにとても重宝します。
さて、本命の肉や野菜。肉を切る時にウォレス&グルミットの危機一髪に出て来るような肉切り包丁を使うのは普通はプロの肉屋さん。ああいうのは各家庭にある物ではありません。普通はペテナイフを2回りほど大きくしたようなのを使います。先っちょが真っ直ぐでなく、上に向けてゆるいカーブを描いています。使い方で決定的に違うのは、ドイツ人は包丁を引きながら切るという点。肉を置いて手で押さえ、包丁を前の向こう側に据え、そこから手前に引きながら切ります。包丁はまな板の上を向こう側からこちら側にスライドし、包丁とまな板の間にある肉が切れます。
何かちょっと違うなあと思いながら見ていたのですが、私が切る時は、肉をまな板の上に置き、上から軽く力を入れ下に向けて進める、肉があるうち、まだまな板に届かない時は前後に刃を動かします。そして下にたどり着いたら、最後だけ1度まな板の上をスライド。井上さんなど日本人のプロがどうやって切るのかは知らないのですが、私が書いているのは日本の素人の切り方。
決定的に驚いたのが野菜を切る時。野菜、例えば千切り、みじん切りなどにする時は、絶対にこうやって包丁を向こう側からこちら側にスライドさせて切ったりしません。あのトントントンという音は上から下に行く時に出る音です。以前アパートの家賃を安くあげようというので数人で共同生活をしていた事があるのですが、私が料理していると、目が点になったドイツ人の同居人が来て、まるで生まれて初めてパンダを見るような目つきで見られてしまいました。決してばかにしているとか、軽蔑しているとか、怒っているとかいう目つきではなく、感嘆している目つき。信じられないという顔をされてしまいました。にんじんか何かを千切りにしていたように思いますが、切った物を指で摘み上げて、また呆れた顔をされてしまいました。私ぐらいの年の日本人だったら誰でもやるような事です。しかし驚く理由は分かります。あのような小さい切れの悪いナイフではこういう切り方はできません。
この共同生活中にちょっともめた事がありました。学生は議論好きなのですが「こうやってアジア人は手間のかかる料理をするから、女性が政治や学問に参加できないのだ」とか言われてしまいました。まじめな神学の女学生で、その後キャリア・ウーマンになり、出世して教会の牧師になりました。当時私はいくつか大学の試験があり、がり勉中。その憂さを晴らすのに料理はちょうどいい運動。遠くに外出しなくてもできますし、運動の後は出来上がった物を食べる事ができるなどと単純に考えていたのです。この時はしかられるような結果になってしまいましたが、その後20年近くたった今、ドイツでは世界の料理、特にアジアの料理が注目を集め、本などもたくさん出ています。医者、保険会社などはこぞってアジア風の食事をするように薦めています。私は野菜を鍋いっぱい1人で平らげてしまうような人間なので、この新しい傾向は大いに歓迎しています。それに多分今外務大臣やっているフィッシャーさんも料理は自分でできるでしょう。料理は出世の邪魔にはならないと思います。
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