映画のページ
2003 Australien 82 Min. 劇映画
出演者
Gary Eck
(Gary Raymond - 警官)
Akmal Saleh
(Akmal - 警官)
Anthony Mir
(Tony Charles - 町から派遣されて来た刑事)
Richard Carter
(Carter - 保安官)
Kirstie Hutton
(Julia Broadmeadows)
Robert Carlton (Barry)
見た時期:2003年8月、ファンタ
昔淀川、荻、水野という強力な映画評論家が週に3回テレビに出て来て、「映画は楽しい」と誉めてばかりいた時期がありました。その辺のテレビ出演者が口先ばかりの発言をしている中、どういうわけかこの3人はライバルでありながら、皆言っている事は本心から出ているようで、本当に映画が好きそうでした。私はたった1度だけ淀長さんと一緒に話しながら地下鉄の駅へ向かったことがあるという幸運な人間で、この人本当に私の意見聞きたがっているんだと思ったことがありました。他のお2人はテレビでしかお目にかかったことがありませんでしたが、やはりスポンサーのためとかお金のためという前に映画が好きな人たちだなあという印象。1人だけならまだ良かったのですが、3人も1度に見ていたのでその影響が強過ぎたのでしょう。こういう経験をした後、ベルリンという映画環境の良い町に来てしまい、懸賞、プロモーション、ただの映画館などに出くわすと、嫌とは言えません。それに映画祭が加わるのでかなりたくさん見るチャンスがあります。
評論家が「いや、楽しい」と言いそうな愉快な作品がこれ。オーストラリアから来ました。今年のファンタはどういうわけか英国がゼロに近い少なさ。代わりにオーストラリアが健闘しています。オーストラリア産の映画として来たこの作品はオーストラリア的ユーモアを満載。もう1つ注目すべきはラダ・ミッチェル。彼女はアメリカ映画などに出演しているため国の名前は出ませんが、今年のファンタでは3本に出演しています。
Anthony Mir が映画の監督をするのはこれが初めて。俳優として劇映画に出演するのも初めて。テレビではシリーズに出演しています。脚本を書くのは1回25分、全7回のテレビシリーズに続いて2作目です。なお脚本には警官役で主演の Gary Eck と Akmal Saleh も参加しています。履歴を調べてみてもこの人たちが出て来るのはこのテレビシリーズと、You can't stop the murders だけです。ですからまだ経験の浅い人かと思うととんでもない。You can't stop the murders はとても出来のいい連続殺人の映画です。
出演者は揃いも揃ってオーストラリア最高のスタンドアップ・コメディアンばかりなのだそうですが、私は1人も知りません。それでも解説に書いてあったオーストラリア最高の・・・云々という能書きを信じるのは、カメラの前でどぎまぎしている人がいないから。皆のびのびと演じています。信じられないのは監督。1番らしくない人が監督でした。顔だけは二枚目のやけににやけた嫌味な男。
ファンタ速報にも書きましたが、演出が良くて、俳優が笑いのタイミングを絶対にはずさないので、観客は笑いっぱなし。嫌味なにやけ男と書きましたが、役であんな態度取っていたら人に嫌われるから監督などできないだろうと思うような人です。
これ以上のド田舎はないというぐらいのド田舎。最初から登場しっぱなしの警官アクマールとゲーリーは役名を考えるのも面倒だったのか、本名のまま。2人はいつものように交通パトロールの勤務につきます。この町では制限時速30キロ。あろうことかこういう平和な村で連続殺人事件が起きます。被害者はオートバイを乗りまわす暴走族のメンバー、道路工事の労働者、フランスから来た船員、カウボーイ、そしてインディアン。次に狙われているのは当然ながら警官。ああ、ばれちゃった。
ここでハハアと思った方は鋭い。井上さん、うたむらさんあたりは徐々に察したかも知れません。
一応ばれていないことにして話を続けます。ド田舎の警官では手に負えないというので、文明の開化された町から刑事が呼ばれて来ます。これがあのにやけ男。コメディアンにはもったいないような水も滴るいい男ではあるのですが、ジェイソン・リーのようなタイプ。この顔でコメディアンという職業を選んだ賢さは認めますが、この手の顔は苦手。
この刑事、トニー・チャールズというのですが、危ない男で、切れると恐い。職務を口実に相手を撃ち殺すのが隠れた趣味のようで、これまでに7人血祭りにあげています。停職を食らうこともあるらしく、今回もちょっと町に置いておきたくないというので、ド田舎に派遣されて来ます。車でカッコ良く登場したのはいいのですが、時速143キロ。アクマールとゲーリーに制限速度113キロオーバーでチケットを切られてしまいます。
チケットを破り捨てるトニーと地元警官はもめますが、血の気の多いトニーを何とか静めて村では捜査が始まります。その過程で村の日常生活も紹介されます。例えばライン・ダンスのコンテストがあります。ライン・ダンスと言っても日劇のショーのようなのではなく、アメリカの西部でやるようなダンスです。私はこういうの実は全然知らなかったのですが、今年の夏、家の近くの通りでお祭りがあり、ステージに上がったバンドに合わせて、おじさん、おばさんが前に出て来て踊っていました。それを見た後でこの映画を見たので、ちょっとだけ予備知識がありました。数人でフォーメーションを組んで踊っていますが、手をつないだりはせず本来は1人で踊るものです。1回90度ずつの角度で向きを変え、同じ動作を何度も繰り返します。時々手を叩いたりもします。大橋巨泉がやっていたビート・ポップスという番組のダンスフロアで参加者が踊っていたのがこのラインダンスとほぼ同じですが、かかる音楽が全然違いました。当時モダンだったビート・ポップスと違い、何と言うかそこはかとなく田舎の雰囲気が漂って来ます。警官のゲーリーはこのライン・ダンスのコンテストで是非とも優勝したい・・・。
このようなド田舎ですが、暴走族は2グループあり張り合っています。人口比で行くとかなり暴走族の比率が高い村です。いくらド田舎とは言っても連続殺人事件が起きているのでテレビ・レポーターなどがマイクとカメラを持って飛んで来ます。そのレポーターの姉ちゃんとにやけ男の刑事はねんごろな仲に。ところがリードを取るのはレポーターの姉ちゃんの方で、彼女はベッドではサド・マゾ・ゲームが大好き。その他もろもろ小さなギャグが山ほど詰め込んであります。
オマージュもあり。フル・モンティー、ダンシング・ヒーロー、08/13 「国籍法改正」に反対する緊急国民集会 H20/11/27を思わせるシーンが出て来ます。
時々引き合いに出すドイツの天才的な監督兼俳優デトレフ・ブックがこれを見たら何と言うでしょう。間の取り方(間抜けぶり)などは同じ系列に入ります。ブックは北ドイツの田舎の出身で、お百姓さん、漁師のジョークをやらせると右に出る者がいません。彼は田舎が大好きで、彼のギャグには至る所に農業、漁業などへの愛着が出ています。You can't stop the murders もそれと似ていて、田舎を笑い飛ばしていながら、田舎を否定していない、それどころか都会から来たにやけた刑事をこけにしています。俳優にそれを演じさせているのはにやけ監督自身というところがまたおかしいです。
オーストラリアなどでは遠慮がちの評価で、誉めていても満点というのはありません。この国にはドライなユーモアが行き渡っていて国民がそれに慣れているから評価が厳しいのでしょう。しかしオーストラリア人がこの程度と思っても、私なら十分笑えます。客席にはこの俳優連中をどこかで見て知っているような観客が何人かおり、私たちがまだギャグを理解しないうちからキャーキャー笑い転げていました。もしかしたらオーストラリアの人たちで、このコメディアンを知っていて、顔を見ただけで笑い転げるように訓練ができているのかも知れません。例えば私ならドンキー・カルテットのジャイアント吉田がムカっとした顔で小野やすしをにらみつけると、まだ一言も発していなくても笑ってしまいますからねえ。猪熊虎五郎などは出て来ただけでおかしい。この人たちはオーストラリアのドンキー・カルテットなのかも知れません。
では、上のネタばれのところでまだピンと来なかった人のために。・・・これはビレッジ・ピープル殺人事件です。犯人は明かしません。
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