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ドリームシップ・エピソード 1/2 /
(T)Raumschiff Surprise - Periode 1

Michael Herbig

2004 D 87 Min. 劇映画

出演者

Michael Herbig
(Mr. Spuck/Winnetouch)

Rick Kavanian
(Schrotty/Lord Jens Maul/Pulle)

Christian Tramitz
(Captain Kork)

Anja Kling
(Königin Metapha)

Sky Dumont
(William der Letzte/Santa Maria)

Til Schweiger
(Rock Fertig)

Anton Figl (Popowitsch)

Hans Peter Hallwachs

Christoph Maria Herbst
(Christoph Maria Herbst)

Diana Herold

Maverick Queck (Nasi)

Gerd Rigauer
(元老院議員)

Reiner Schöne
(元老院議員)

Jumbo Schreiner
(腹黒騎士)

Andreas Seifert
(火星軍司令官)

Stacia Widmer
(Bora Bora)

見た時期:2004年7月

ちょっと期待していたんですけれどねえ。期待し過ぎました。

ドイツ以外ではご存知無い方の方が多いでしょうが、ヘルビッヒ監督は Erkan & Stefan という作品で大ヒットを飛ばし、その次のマニトの靴では8200万ほどのドイツ人のうち1700万人以上が見たという、当分破れそうにもない記録を作ってしまったのです。その次の作品なので、本人はどういう期待を抱いていたかは分かりません。ああいう記録を破るのは無理だと最初から考えていたのかも知れません。

あの後マニトの靴の続編を作ってもいいし、何をやってもいいとオープンに語っていて、結局インターネットでファン投票を行ない、いくつかの候補からスタートレックのパロディーに決まったという話を聞いたことがあります。この監督ならそういう事はやりかねません。見るからに柔軟そう。マニトの靴の続編でもある程度観客は集まるでしょうが、主演の1人の女優が降りそうなので、同じトリオでの出演は危ぶまれます。全く違う物を作るというのは監督としては挑戦なのでおもしろいでしょうが、観客がついて来られるかは賭けです。

とは言ってもこの監督は長く続いているテレビのコメディー・シリーズという強い裏打ちがあるので、私のような映画しか見ない人間と違い、テレビ・ファンがついでに映画も見に来るというボーナスがあります。まあ、そういった事を背景に考えながらの話です。

今回ヘルビッヒが選んだスタートレックのパロディーというのはまずい選択ではありません。ドイツではスタートレック・ファンがプロテスタント、カソリックの次ぐらいの勢力で、中には聖書を信じず、スポックの言った事をありがたく押し頂いて信じている人もいるぐらいです。それがまた長い間続いていて、スタートレックは神聖だと思っている人もかなりの数いるのです。私は日本にいた時、スタートレックはダサいという印象で、他の SF になびいていました。

しかしスタートレックを隅々まで研究し、トレッキアンも多いドイツでは、スタートレックを話題にすればそれなりの人間は集まります。で、ヘルビッヒが思いついたのが、中年でお腹の出たキャプテン・コーク(コルク)、シュロッティー(屑)、シュプック(つば)という3人のオカマ宇宙飛行士。今はワイキキのフラダンスのコンテストに出場すべく一生懸命練習中。出来の悪い隊だと言うのはギャラクシーでも有名。

オカマというのはヘルビッヒお気に入りのギャグらしく、マニトの靴でも双子の片方をオカマとして出しています。ドイツではゲイを表わす言葉がいくつかあるのですが、この作品の中では普通の言葉を使わず、ややおちゃらかした言葉を使っています。

状況は映画を制作するぐらいですからかなり切羽詰っています。スターウォーズそっくりの政府がスペースボールズそっくりの悪党に滅ぼされそうになっているのです。ハラハラしますねえ。それを救えるのはあのオカマの隊員だけ・・・という絶望的な設定。セットは安っぽく、衣裳も安っぽいのですが、特撮だけは高級で迫力があります。

3人の衣裳、演技、ギャグにがっかりしたところへ登場するのがフィフス・エレメントを思わせるようなスペース・タクシー。運転しているのがティル・シュヴァイガー。のっけからクールな口上。喧嘩腰で次々と3人の男たちがへこたれるような罵詈雑言を吐きます。その上神風タクシー。

これでコメディアン、ティル・シュヴァイガーの面目は保たれます。二枚目シュヴァイガー、いったいいつからコメディアンをやっているのか、とお疑いの方はこちらへ。

さて、最初からパクリまくりの作品。(T)Raumschiff Surprise - Periode 1 というタイトルもスタートレックのドイツ語のタイトル Raumschiff Enterprise のもじりです。Periode 1 はエピソード1のもじりとも見えます。どうせならパロディー 1 としても良かった。

私の《世界一にやけた嫌な男》のリストに入っていたスカイ・デュ・モンは前回のマニトの靴で自分をパロディー化できる俳優として断然名誉回復。デュ・モンは、ドリームシップ・エピソード 1/2 では William der Letzte という役で登場。タイムマシンが間違って中世に行ってしまったところで主人公とご対面。タイムラインのパクリです。その上ドリームシップ・エピソード 1/2 と似たような中世の騎士の対決の作品がどこかにあったように記憶しています。ここではシュヴァイガーはコメディー演技は押さえ、衣裳の方で笑いを求めています。敵の騎士がカッコイイ黒装束なのに対し、シュヴァイガーはみっともないピンクの衣裳。その上相手の方が圧倒的に強く、ふらふら。

シュヴァイガーはこの頃ちょうどキング・アーサーで憎まれ役の騎士を演じており、ドリームシップ・エピソード 1/2 のドジな騎士といいバランスを保っています。

スカイ・デュ・モンはこの作品ではそこそこのおやじを演じていますが、美貌を生かしていかにも欧州の貴族といった出で立ち。南米の人ですが、欧州には《白髪の老貴族は高貴なお方》という固定観念があるので、それにぴったり合わせています。果たしてこのお方が高貴か、それは見てのお楽しみ。インパクトから言うとやはりマニトの靴がピカ一。あれはデュ・モン一生に一度の役です。で、サービスのためにマニトの靴のサンタ・マリアのシーンも一部出て来ます。

演技はあまり上手くありません。出で立ちは役にぴったり。ドリームシップ・エピソード 1/2 で笑いを取れるのはそういう事ではなく、役名。William der Letzte というのは英訳すると William the Last となり、William the First とか William the Third といった王様の呼び方を茶化したようなものです。しかしドイツでは《あんな嫌な奴はいない、最低だ》言う時にも使うのです。マニトの靴の時にはこの言葉がぴったり。彼は映画館で上映するコマーシャルにあのサンタ・マリアのシーンが使われているので、観客はマニトの靴以来彼のことを全然忘れていません。そこへこの名前なので笑いを取るのにはぴったり。

1番肝心な3人の主人公はこういう助演の俳優に比べやや質が落ちています。実は3人ダンスをかなり気を入れて練習したと見え、息はぴったり合います。フラダンスのシーンが時々出ますが、手の動きから腰の動きまで3人ぴったり。しかし振付けがあまりパッとせず、その努力が無に帰している感があります。

そして何よりも行けなかったのがミス・キャスト。普通ミス・キャストと言うと、脚本にある役に合わない、あるいは演技のできない俳優を当てることを言いますが、こちらは逆。出演者が先にだいたい決まっていて、それに合わせた脚本を書くと言っては語弊がありますが、それに似たような状況。というのはテレビ・シリーズで気心の知れた人たちを呼んでいるからです。Bullyparade というシリーズが1997年から2002年まで続きました。そこに出ていた3人が監督もやっているミヒャエル・ヘルビッヒ、リック・カヴァニアン、クリスチャン・トラミッツだったのです。3人がドリームシップ・エピソード 1/2 で演じている役もテレビの横滑りです。テレビでは受ける役でも映画館の大型スクリーンに持って来ると合わないことがあります。お茶の間で他の事をしながら見るテレビに出演する俳優の演技は、真っ暗で途中コマーシャルも無く、観客全員が画面に集中する映画とやはり違って見えます。その点マニトの靴の方がうまく行っていましたドリームシップ・エピソード 1/2 の特撮は一流映画館で見ても見劣りのしない立派なものだっただけに、俳優が出るシーンにもう少し工夫が欲しかったです。

後記: 監督がバランスを考える人だったのでしょうか。マニトの靴の時はレンジャーを演じたクリスチャン・トラミッツが監督自身と2人で目立ち、3人目が目立ちませんでした。注目はスカイ・デュ・モンに行ってしまったのです。ドリームシップ・エピソード 1/2 ではその時目立たなかった仲間の1人、リック・カヴァニアンを引き立てています。彼は出ずっぱりで、制服を着たシュロッティー、中世でティル・シュヴァイガーを困らせる黒装束の滅法強い騎士、その上未来世界でギャラクシーにトラブルを巻き起こす一味の親分プレの3役で出演しています。テレビのファンですとすぐ分かるでしょうが、テレビを知らない人が見ると、この3人が同じ人物だとはとても分かりません。私が知っている中程度に名を知られているコメディアンと同じような手法で、顔をガラっと変えてしまって妙なしゃべり方をするギャグもたくさん入っています。歯の噛み合わせを変えているので顔が全然違って見えます。

ドイツには昔 Raumpatrouille - Die phantastischen Abenteuer des Raumschiffes Orion というタイトルの SF シリーズがありました。セットが非常にお粗末で、ストーリーもパッとしないのですが、あまりに出来が悪かったので、語り草になっていて、ファンタで上映されたこともあります。それをパロディー化しているような面もあるので、お粗末なセットの SF というアイディア自体は悪くありません。テレビで成功したのも分かるような気がします。ですからテレビ・シリーズのファンがこの作品を見ると、いつものおなじみさんのおなじみの演技に、素晴らしく高級な特撮シーンと、クールなティル・シュヴァイガーというサービスつきの映画版ということになるので、満足かも知れません。私のように映画しか見ない人間にはちょっと不満が残ります。

さて、スターウォーズのパクリが冒頭、途中、最後に出て来るのですが、これは上出来。わりと演技のしっかりした中堅よりやや年の行った俳優が何人も並び、女王はスターウォーズのような出で立ちで登場。これが何ともいえずチンケなのですが、それはオリジナルの方がチンケだから仕方ありません。オリジナルの方はマジで作ったスペース・ファンタジー・ドラマなのであちらの方がみっともない。真似をしたこちらはおちょくっているのですが、それにしては上品にできています。深刻な顔をして会議中の評議員の間を掃除夫が相手かまわず状況かまわず掃除して回るのですが、愉快です。

言葉の遊びはおもしろいです。アメリカの軍人の名前には笑ってしまいました。苗字が皆ライスフェルト、ブリックフェルトといったように《・・・フェルト》になっています。フェルトというのは英語の《フィールド》ですから、苗字の最後にこういう言葉が付いていてもおかしくありません。日本でも三原さん、高原さん、河原さんなどという名前はあります。ヘルビッヒはしかしわざわざ苗字としてはあまり使われない言葉を選んでいます。それだけでも愉快ですが、1人はバウムフェルトと言います。もしライスフェルトを Reisfeld(田んぼ)、ブリックフェルトをBlickfeld(視野)と書くとすればバウムフェルトは Baumfeld と書くべきなのでしょうが、この言葉は恐らく Baum fällt (木が倒れる)から来ているのだと思います。4つほど Feld で合う言葉を入れておいて、1つ違ったのを忍び込ませる、幼稚園の時にやった知能テストみたいです。

トレッキアンでないので、そちらの方面のジョークは分かりません。あるトレッキアンはサウンドにもスタートレック独特のものが混ざっていたと言っていますから、トレッキアンにも楽しめる作品なのでしょう。しかし私はことコメディーとなると点が辛いので、そしてヘルビッヒはもっとおもしろい作品を作れるということをマニトの靴で知ってしまったので、ドリームシップ・エピソード 1/2 には落第点をつけます。そんなことでしょげて芸能界を去るような人ではないので、次回に期待しています。

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