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2000 USA 113 Min. 劇映画
出演者
Gary Sinise
(Jim McConnell - アストロノート、救援隊、火星の専門家)
McCanna Anthony Sinise
(Jim McConnell、若い頃)
Kim Delaney
(Maggie McConnell - ジムの死んだ妻)
Chantal Conlin
(Maggie McConnell、若い頃)
Tim Robbins
(Woodrow Blake - アストロノート、救援隊)
Don Cheadle
(Luke Graham - アストロノート、探検隊の生き残り)
Elise Neal
(Debra Graham - ルークの妻)
Robert Bailey Jr.
(Bobby Graham - ルークの息子)
Connie Nielsen
(Terri Fisher - アストロノート、救援隊)
Jerry O'Connell
(Phil Ohlmyer - アストロノート、救援隊、生物学者)
Peter Outerbridge
(Sergei Kirov - アストロノート、探検隊)
Kavan Smith
(Nicholas Willis - アストロノート、探検隊)
Armin Mueller-Stahl
(Ramier Beck - アストロノートの司令官)
Jill Teed
(Reneé Coté - アストロノート、探検隊)
Daniel Lederman (Taylor Jones)
見た時期:2004年10月
★ 一流のスリラー監督にやらせた SF
もったいないことになってしまった駄作です。それでもちゃんと終わりまで我慢して見ました。パルマにはパルマの良さもありますが、彼の良い所が出ていません。やはりスリラーやホラーのジャンルを任せた方が良かったのかも知れません。これを撮るために蹴ったのがミッション・インポシブルの続編だそうですが、火星に行くというミッションがインポシブルな仕上がり。
ストーリーには1部ミステリーもあり、印象に残るシーンもあるのですが、結末が行けません。こういった話をパルマにやらせる神経が分かりませんでした。彼にはミステリー作家の脚本を渡しておく方が無難です。
駄作になったのは誰のせいなのでしょう。パルマという人にこういうストーリーを任せたプロデューサーが悪いのかも知れません。パルマにこういうキャスティングを押し付けた人がいたのかも知れません。あるいはせっかく取った予算の大部分を特殊効果に使ってしまった会計担当の人が行けないのかもしれません。それとも台本を書いた人がひどい台詞ばかり思いついたのかも知れません。誰が悪いのかは分からないのです。
★ 火星ブーム
というのは、予算はかなりたっぷり取ってあったようなのです。その上、SF を宣伝に使おう、それでもっと投資する人を集めようとでも考えたのか、NASA がハリウッドに大々的に協力を申し出て、この時期火星映画がいくつも同時進行しています。どういうわけか全部駄作だったという話を最近聞いたのですが、それも不思議な話です。
私は少なくとももう1本の有名な火星映画の噂を聞いていましたが、見た人が「見るな」と言ってくれたので、まだ見ていませ ん。実はあちらの作品にもこちらに負けないぐらいのスターが出ているのですが。
★ もったいない人材の使い方
さて、ミッション・トゥー・マーズですが、とにかくミスキャストだという点が目につきました。よりによって普段はだめでない俳優、私が注目している俳優も混ざっています。普段 SF にはあまり出ない人を集めてあります。そういう風に工夫してうまく行くケースもあります。しかし見事に失敗して胴体着陸してしまう場合もあります。ジョディー・フォスターをコンタクトに出したり、コニー・ニールセン、ドン・チードル、ティム・ロビンス、ゲーリー・シニースをミッション・トゥー・マーズに出したり。
音楽はエンニオ・モリオーネだというので期待していましたがこれもあて外れ。もしかして映画が出来上がってから音楽を書いていて、作品がひどいからやる気を無くしたのではないかとかんぐってしまいました。彼の音楽は今年の夏、物凄く古いウエスタンを見た時に聞きましたが、印象に残る音色。やる気がある時は人が一生忘れないような曲も書く人です。
セットはと言うとあの1968年、今から36年も前に作られた作品、ミッション・トゥー・マーズの制作年2000年から数えても32年も前に作られた 2001年宇宙の旅の方がモダンに見えてしまうほどお粗末。ところがミッション・トゥー・マーズ公開当時の映画雑誌をめくってみると、「かなり大掛かりな特殊撮影をやり、50%近くはコンピューターを使った」などという記事が載っていました。
1968年には無かった特殊効果専用の会社もできており、「普段は映画が5本ぐらい同時進行しているが、ミッション・トゥー・マーズの時は会社がこれ1本に集中した」などと書いてあるのです。無重力シーンの撮影などはスタンリー・キューブリックの方が条件がずっと悪かったはずですが、あちらの方が今でも自分が宇宙ステーションの中にいるような気分になれます。
しかしそういう悪い条件でもストーリーがユニークであれば・・・。それがさほどユニークでもないのです。おもしろい要素はいくつか入っていて、《ここをうまく使えば・・・》と期待が持てるシーンがいくつか出て来ます。ところがそれが他のシーンのおかげで死んでしまうのです。
★ あらすじ
冒頭は NASA のクルーがガーデン・パーティーを開いているシーン。親子、カップルなど家族が何組も集まって楽しんでいます。間もなく出発する火星探検に選ばれたメンバーや外れていじけているメンバーが顔を見せます。このシーンがやや長めですが、この後ピッチ・ブラック並みの砂漠のような殺伐とした宇宙ばかりなので、見る方はここでたっぷ り地球という故郷の雰囲気を味わって下さい。この長さは、ディア・ハンターの故郷のシーンと同じで、見終わってから納得しました。
NASA の計画で2020年火星探検が行われます。探検隊第1号のメンバーは合計4人なのですが、クルーが妙な砂嵐に巻き込まれ、ルーク以外全員が死亡。ルークは命からがら最後の連絡を入れ、それっきりです。
生存者は恐らくいないだろう、いや3人の墓を作ったルークが生きているはずだなどとと迷いつつも宇宙ステーションからは2号が送り込まれ、ルーク救出あるいは死亡確認、その他1号ができなかったことを引き継ぐために火星にやって来ます。メンバーは1号のメンバーだったのに出発直前の妻の死のためにはずされた火星の専門家ジム、ウディー、その妻テリー、生物学者フィルの4人。ミッションの規模が大きいわりに、人数は少ないです。
まだ2号に事件は起きておらず、宇宙船の船内の生活を紹介するようなシーンがあります。ここも 2001年宇宙の旅に負けています。腹が立つのは、ジムが妻を亡くしたばかりなのに、彼を思いやりもせず、ウディーとテリーがいちゃいちゃしているシーン。日本人の私としては腹が立ちましたが、ドイツでもちょくちょく見るシーンです。幸せなカップルは《近くにいる不幸な人を気遣って、いちゃつくのはその人がいない所で・・・》という発想が無いのです。ちょっと前にガールフレンドと別れたばかりの人とか、人それぞれ何か事情がありますが、そんな事はお構い無く、他の人は自分の幸福を謳歌し、誇示します。好意的に考え、《人生は妻を無くしたぐらいでは終わりではないさ。早く元気になって俺たちみたいに楽しい生活を始めろ》と先を促していると解釈すべきなのかも知れませんが、どうも日本からやって来ると、そういうのはもう少し時期が経ってからの方が良いのではと思ってしまいます。
シニースはいい役者ですが、ミッション・トゥー・マーズでは悲しそうな目をするだけ。それ以上何も見せられないような演出になっています。アポロ13 では飛び立てなかったですが、ミッション・トゥー・マーズでは火星に着陸できると聞いて役を引き受けたのかも知れません。なんと言っても彼はこの作品では主役ですから。
後記: シニースはこの作品にある程度気合を入れていたのかも知れません。息子が自分の少年時代の役で出演しています。しかしそれまでのシニースは特に美男でもないためスターへの道は塞がれ、名脇役への道を歩いているようでした。表情があまり豊かなタイプでないことも悪役や主役でない役が多い理由だったのかも知れません。
それを逆手に取って大成功したのが後に大ブレークするテレビ・ドラマ CSI。彼の管轄はニューヨークで、ラス・ベガス、マイアミと合わせ3シリーズとも、主演に地味なタイプの俳優を起用していました。その作戦が上手く行き、どれも長寿番組になりました。シリーズが長いと、目立つ人より地味な人の方がしっくり来ます。
デビューから約10年テレビ畑を歩き、90年代から映画にも出始めます。私も見た名のある作品と言えば
・ フォレスト・ガンプ/一期一会(兵士テイラー役)
・ アポロ13 (乗せてもらえなかった宇宙飛行士役)
・ 身代金(悪徳警官)
・ スネーク・アイズ(暗殺の黒幕、海軍中佐)
・ グリーンマイル
・ レインディア・ゲーム(ギャング)
・ ミッション・トゥ・マーズ
・ フォーガットン(精神分析医)
・ CSIニューヨーク(テレビ・シリーズの主演)
などで、CSI まではあまりぱっとしない役が多いです。
芸能活動は長く、映画、テレビの俳優だけでなく、劇団を持ったり、舞台出演もしており、元から焦っていなかったのかも知れません。独占契約でも結んだのか、CSI では専任の現場検証官を演じており、他の作品には出ていません。
★ ドイツからはあの人が
ドイツに住んでいると誰にでもすぐ分かってしまうおじさんが重要な役で出ているのですが、クレジットには乗っていませんでした。シャインでジェフリー・ラッシュの厳しいパパを演じたアルミン・ミュラー・シュタール。この人はドラマを演じさせ ても、SF に出しても、スパイ・アクションに出しても大丈夫。自分の役を安定した雰囲気で演じる人です。ドイツでは国民栄誉賞級の役者です。なぜクレジッ トに載らなかったんだろう。
★ 話は火星に戻って・・・
1号のクルーは火星に水があることを発見していて、話は《生物の存在が可能、人類が移住することも視野に入れよう》というところまで来ていました。
紆余曲折の末《1人でも生存の可能性があれは救出に向かおう》と主張する同僚が本来の予定をかなり早め、無理やり上司を口説いて出発。その2号ですが、途中で小粒の隕石群に当たり、ロケットに穴があいてしまいます。なんとなく大気圏を飛び出せば後は自動操縦、退屈な毎日と思っていましたが、宇宙空間というのはこういう心配もしなければ行けないんですねえ。
おもしろいと思ったのは、このシーン。なかなかユニークでした。席に座っている生物専門のアストロノート、フィル(ロシア人や東の人はコスモノートと言います)が、ガラスで向こうが透けて見える計器盤のスイッチを入れようとした瞬間手に風穴が空き、急に船内の機密性が落ちて行きます。横にいたテリーがとっさに手の穴を自分の手で被い、それ以上の出血を防ぎます。その後アストロノートは血が船内で飛んで行く方向を追いかけます。そこに穴が空いており、空気が外へ漏れ、気圧が下がって行くのです。それを見つけ穴を塞ぎます。
この事故でロケットの他の個所もやられ、燃料が外へ流れ出し即座に凍ってしまうシーンもこれまで見たことが無い描き方です。さらに宇宙空間でヘルメットを取ったアストロノートの頭が即座に凍ってしまうシーンもこれまでの SF では見たことがありませんでした。こういう風に一部分斬新なシーンもあるのです。全体として成功しなかったのが残念です。
いくつか穴を見つけて修理をしたものの損害はひどく、乗って来たロケットを捨てる羽目になります。宇宙服を着け、ロープでつながって、ロスト・イン・スペースです。火星の軌道にある別なロケットに乗り換えようということになるのですが、うまく行かず、1人先に飛び出したウッディーは減速できず、大気圏に突入という運命。大気圏に突入すると火の玉になって燃え尽きてしまいます。ウッディ−が死ぬ前に物体を突入させて、しっかり彼がどうなるかの例を見せてくれます。夫の救出に向かうテリーですが、同僚も夫もはっきり一言「行くな」、「来るな」。科学者でもあるアストロノートにはこれが救いようのない状況だと分かっているからです。
これ以上近づくと、ウッディーのほかにテリーも失うことになるのでウッディーはテリーの目の前でヘルメットを脱いでしまいます。瞬時にロビンスの頭はカチンカチンに凍ってしまいます。そのまま進んで数分後に火の玉になって死ぬか、ここで凍って死ぬかの選択ですが、テリーに自分を断念させるための苦肉の策です。
宇宙飛行士というのは科学者で、私見を挟む前に事の次第を把握できる人たち。ダメなものはダメと理解しますし、自分が行くとクルーの数が減る、せっかく夫が自分に「生きろ」と言っているのだから・・・と考える方が普通でしょう。ここはドラマを盛り上げるために妻がちょっと騒いでみたということでしょうか。対する夫はまさにそれを考え、「来るな」の一言。ヘルメットを取ったのは妻を知った上の冷静な判断。となると女は愚かだというメッセージなのでしょうか。それとも女を使って例え仕事言えども人間性があるのだというメッセージなのでしょうか。
このシーンではテリーの身勝手さが目立ち私は腹を立てました。その上ふと、本物のアストロノートは宇宙でこんなに化粧しているんだろうかなどと余計な事も考えてしまいました。この後に見た2本の作品ではニールセンは薄めの化粧でしたが、ミッション・トゥー・マーズでは厚いです。ニールセンはこの作品では一世一代の大根ぶりを披露しています。
アメリカ人というのは宗教の関係もあって、めったな事で自殺を思いつく人たちではありません。にも関わらず、ウッディーがこういう事をするというのは私たち以上に西洋の人たちにはインパクトのあるシーンかも知れません。ティム・ロビンスはここで退場。しかししょげているジムの気持ちが自分も未亡人にならないと分からないというのは、ちょっと鈍いと思います。いずれにしろ、最初ジムを無視していちゃいちゃしていたのは、このシーンを目立たせるためだったのでしょう。
ウッディーのように仲間の1人が犠牲になる話はトミー・リー・ジョーンズもスペース・カウボーイズで演じていますが、ジョーンズの方が上手でした。スペース・カウボーイズもアストロノートを演じるとは思いもしなかった爺様が4人でしたが、こちらの4人の方が《まさかのカルテット》でも楽しく乗れました。そう言えばザ・コアでも普段あまり宇宙船に乗るような人で無い人たちが集まって地底船に乗っていましたっけ。結局メンバー、監督、脚本家の乗りが出来の良し悪しを決めるんですね。
とにかく3人は無事火星着陸。ルークが生きていて、温室を作り、それで空気と食べ物を自給しているシーンもなかなか良いです。似た話はブルース・ダーン主演のサイレント・ランニングでも見たことがあります。すてきな雰囲気の作品でしたが、火星に取り残された男が1人でどうやって生きていくんだろうと思っていたらこれが答でした。
長い間1人で暮らし、地球には妻子がおり、仲間が死ぬ瞬間を目撃した男は、1年ぶりで同僚に出会っても最初は狂ったような反応をします。すぐ肩を抱き合って再会を喜ぶのではなく、リアリティーにあふれています。救出に来た3人が、あいつの頭大丈夫かなと疑うのも現実的。
最初なぜ生物学者フィルを連れているんだろうと思いましたが、実は彼は作品の鍵を握る人でした。ユニークだと思ったのが、M&M のチョコレートのシーン。M&M を日本でも売っているかどうか分かりませんが、明治のマーブル・チョコみたいなものです。袋入りで、5色か6色ぐらいのチョコレートの玉が入っています。これをフィルが退屈凌ぎに無重力の船内で人間の DNA のように並べるのです。そこへやって来て2、3個チョコレートを食べてしまうのがジム。フィルが文句を言います。「おまえ、人間の DNA からそれ取ってしまうと人間じゃなくなるんだぞ」「じゃ、何になるんだ」「蛙だよ」この瞬間私にはシニーズの顔が蛙に見えました。
この時はユーモアだったのですが、これが後で大変な謎を解くことになります。ウッディーが死んでしまい、3人でルークを発見するところまではいいのですが、事故の状況を説明しているうちにルークが妙な事を言い出します。最初彼の頭がおかしくなったのかも知れないと思っていた3人ですが、証拠を見せられ唖然。3人の仲間を失った頃、ルークは人間の顔のような馬鹿でかい物を見たのです。それはカメラにも映っていました。その上コンタクトのように妙な音声が聞こえ、それを解読した結果 DNA、それも人間の DNA に良く似た構造が現われたのです。
・・・となかなか知的にできている謎解きはここまで。この後は子供騙しになり、妙な結末に突入です。助かるのはルーク、テリー、フィルの3人。ジムは無事ですが、火星に残り、そこから1人どこか未知の世界に旅立ちます。このあたりの理屈は 2001年宇宙の旅とコンタクトをパクってあります。残った3人が宇宙ステーションに戻ってこの話をする時信じてくれる人がいるかどうかはちょっと心配。集団ヒステリーということも考えられますから。
プロットに磨きをかけられる材料はいくつかあります。ですから最後メルヘンにしてしまったのは惜しかったです。ここでうまくうっちゃりをかければセットがお粗末でも、ミスキャストでも許してしまう準備はできていたのですが。
ドン・チードルは他の作品では好演しています。ゲーリー・シニースは悪役をやらせるとなかなか迫力あります。悲劇的な役も行けます。今回は不発弾。コニー・ニールセンは3本見ましたがどれもだめです。他の2つは存在が薄過ぎました。ミッション・トゥー・マーズでは上に書いたように身勝手な役で本人の印象は悪くなってしまいます。ティム・ロビンスはこれまで見た作品ではコメディーが1番良く、次はぞっとするような悪人。その次に精神的な問題を抱えた気の毒な男。ミッション・トゥー・マーズは主演級でも得な役とは言えません。パクって継ぎはぎのストーリーにこうもお金をかけて特殊効果を使い、有名俳優を並べておいて演技をさせず、ミステリーの得意な監督は出る幕も無いというもったいない作品です。
こういう作品にはビル・パクストンやデニス・クウェイドなどB級のベテランをを連れて来ないとだめなのかも知れません。こういった俳優だったらB級でも救援隊としてはそれらしく見えるでしょう。シャマラン監督にからかわれるのも腹立ちますが、未知の生命があるみたいな話を出しておきながら、結局何にも種を明かさない、子供だましの話で誤魔化すというのも腹が立ちます。その種のショーダウンで唯一重みがあったのはやはり 2001年宇宙の旅。私はキューブリックは特に好きでないのですが、それでも先見の明、SF の表現が今でも古くないなど、つい引き合いに出してしまいます。当時地域の公立の学校が税金使って全校生徒に 2001年宇宙の旅を 見せてくれたので公開当時見ていますが、2000年制作の駄作を見てため息が出てしまいます。
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