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キラー・インサイド・ミー /
The Killer Inside Me

Michael Winterbottom

2010 USA 109 Min. 劇映画

出演者

Casey Affleck
(Lou Ford - テキサスの刑事)

Blake Brigham
(Lou Ford、6歳)

Zach Josse
(Lou Ford、13歳)

Noah Crawford
(Mike Ford、15歳)

Jessica Alba
(Joyce Lakeland - 売春婦)

Kate Hudson
(Amy Stanton - 教師)

Ned Beatty
(Chester Conway - 地元大手の建設業者)

Jay R. Ferguson
(Elmer Conway - チェスターの息子)

Elias Koteas
(Joe Rothman)

Tom Bower
(Bob Maples - 保安官)

Simon Baker
(Howard Hendricks - ルーに疑いを抱く刑事)

Bill Pullman
(Billy Boy Walker)

見た時期:2010年8月

2010年ファンタ参加作品

ストーリーの説明あり

筋はかなりばれます。最後のサプライズは伏せられています。

後記: 2010年夏のファンタで見ました。翌年の大手映画雑誌5月号のDVD紹介記事を見るとけちょんけちょんにけなしてあり、点数も低いです。私の受けた印象と真逆です。

原作が結構ラディカルな話らしいので、それを抑えたところが批判の対象になったのかも知れません。タランティーノがやりたい放題やった方が原作に近くなったのかも知れませんし、ブラッド・ピットとジュリエット・ルイスなどという興味深いキャスティングがつぶれ、かなり地味なキャスティングになったことでジャーナリストの期待が外れたのかも知れません。

私はあくまでも原作を参考にせず、他のスタッフやキャストを考慮せず、この作品を見ただけの範囲で感想を書きました。

★ 紆余曲折

マイケル・ウインターボトムの作品。元ネタは内なる殺人者というジム・トンプソンの小説で、1952年に出ています。1976年に1度映画化されており、今回はリメイクと言うことになります。

この作品はリメイクより映画化に至らなかったプロジェクトの方が華々しい話題になります。ざっと見渡すとこんな具合です。

およその年 監督 ルー役 ジョイス役 エイミー役
1956   マーロン・ブランド マリリン・モンロー エリザベス・テイラー
1976(実現) バート・ケネディー ステーシー・キーチ スーザン・タイレル ティーシャ・スターリング
1985   トム・クルーズ デミー・ムーア ブルック・シールズ
1995 クウェンティン・タランティーノ ブラッド・ピット ジュリエット・ルイス ウマ・サーマン
その後   レオナルド・ディ・カプリオ ドゥリュー・バリモア シャーリーズ・セロン
その後 マーク・ロッコ ケイシー・アフレック マギー・ギレンホール リース・ウィザースプーン

こうやって見るとかなり名のあるスターにやらせたかった企画だというのが分かります。最終的に大スターではなく、あまり知られていない人や今回のように中程度に活躍している人を使って映画化が実現しています。タランティーノは暴力を強調した演出を希望したようなのですが、企画中に起きたアメリカを揺るがす大事件のために映画化を諦めたようです。

★ サド・マゾごっこは命に関わる

主人公のルーはサディストで、関係する女性はマゾに追い込まれます。ルーがサディストになるに当たってはご幼少の頃の家族関係などに問題があったようなのですが、そういう男が成人してテキサスの警察官におさまっています。しかし彼のサド趣味はそのまま残り、彼の愛人、情婦、婚約者はマゾにされてしまいます。

The Killer Inside Me にはえぐいシーンはほとんど無く、形式的に殴ってみせるシーン、皮膚に赤い色をつけたメイクなどでうまく誤魔化しています。出演している俳優はかなりネームバリューがある人たちなので、無茶はできなかったのでしょう。アフレックが暑苦しそうな冷たい視線でサドの性格を表現しようと努力しています。

しかしサド・マゾが命に関わることはストーリーの進行ではっきりしていて、ジェシカ・アルバが凄いメイクで登場します。ルーの内に秘める凶暴なエネルギーがエイミーに向けられ、彼女はボロボロになるまで殴られるという設定です。へんてこりんなサド・マゾごっこではなく、ルーは本式のサディスト。なので彼の周囲の女性には本当は命の危険がつきまとっています。

ところがサド・マゾ関係に陥ったマゾの人は人質事件に巻き込まれたわけでもないのに、ストックホルム・シンドロームに似た様相を呈し、サド男から逃げることができません。ここが《ごっこ》でなく、本物の関係の大きな落とし穴。

The Killer Inside Me は犯罪ドラマとしては中程度の出来ですが、所々に監督がアクセントをつけていて、例えばジェシカ・アルバが(自分は被害者なのに)一生懸命ケイシー・アフレックに「あなたを裏切ったりしないわ」と納得させようとするシーンがあります。本来なら警察に駆け込んでもいいような立場にいる人が、自分をひどい目に遭わせた男をかばうことに必死です。

ケイト・ハドソンはその点アルバほどメロメロな立場ではなく、やや斜に構えています。しかしアフレックのサド・マゾごっこにはちょっとおつき合い。この役にハドソンを選んだのはなかなか上手いです。エリザベス・テイラー、ブルック・シールズ、ウマ・サーマン、シャーリーズ・セロン、リース・ウィザースプーンと、エイミー役の人より何段か品位のありそうな人、あるいは教育のありそうな人を選ぶ傾向が見えます。しかしこの役はただ娼婦より上品で教育があるというだけではだめ。ケイシーがサディストと分かっているにもかかわらず彼に付き合う、ちょっと捻った面が必要です。その点では鼻で人を笑うような面がちらつくハドソンは適しています。

★ 事件はこうして起こって、こういう決着になる

今年のファンタの短編にあったように、《この男は最後には死にます》。ではどういう風に死に至るのか。そのいきさつがストーリーです。

冒頭から本人が言うので、テキサスの刑事ルーが殺人鬼であることはばれています。しかもサディスト。画面にはほとんど姿を現わさない兄がいて、かなり前に死んでいます。そこに事件のきっかけが潜んでいます。

1950年代、まだ道徳がうるさい時代の、しかも保守的なテキサスでルーは刑事でありながら正式な結婚はせず、肉体関係のある教師エイミーと、売春婦のジョイスで二股をかけています。ある日仕事関係でつながりのある地元建設業者の元締めの息子とジョイスの2人を殺してしまいます。まずはジョイスをぼこぼこに殴り、その後息子のエルマーを射殺して、ジョイス殺しの濡れ衣を口の無い死人におっ被せてしまいます。

その他に行きがかり上殺しをやりますが、良心の呵責とは全く縁がありません。妊娠を告げられたエイミーも片付けてしまいます。しかしルーの行動を怪しみしつこく迫ってくる刑事がいます。そしていよいよ逃げおおせられなくなったと悟ると、大ショーダウンを計画します。

最後にちょっとしたサプライズが隠されていて、一応あっと驚く・・・になるのですが、プロットに大穴が空いていて、○○に気づかないはずはないという矛盾が出てしまいます。そのため私は犯罪物としては評価を下げました。

★ ファンタのファンとしては評価が下がるが・・・

プロットに大穴があるとどうしても評価が下がってしまいますが、この作品は一般向けとしては優秀です。例えば In the Electric Mist 同様アメリカ南部の雰囲気を出しています。また、暑苦しそうでその中にぞっとする冷たさも秘めるという難しいところを上手く表現しています。レトロ風の作りですが、埃っぽくくすんだ画面にせず、50年代を《現在》として家具、調度品、車はピカピカ。監督があちらこちらに気を配っているのが感じられます。

こんな役を演じて後のキャリアの邪魔にならないかと心配するほど俳優はうまく役にはまっています。大スターのトム・クルーズ、レオナルド・ディ・カプリオがここまでやるかというすれすれのところまで踏み込んでいます。ブラッド・ピットはファイト・クラブも嬉々として演じたので、彼ならアフレック以上に踏み込むかも知れません。マーロン・ブランドも当時ならそういう路線を喜んだかも知れません。しかしこの2人が出て来ると「そういう事もあるかも知れない」という雰囲気になります。アフレックはまだこういう役はやっていないので、観客に対して少しサプライズ効果があります。

今年のファンタはいつもとやや路線が違い、一般館向きの作品がいくつか目に付きましたが、これもその1つです。

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