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2010 USA 108 Min. 劇映画
出演者
Natalie Portman
(Nina Sayers - 新プリマドンナ)
Barbara Hershey
(Erica Sayers - 元バレリーナ、ニーナの母親)
Winona Ryder
(Beth Macintyre - 前プリマドンナ)
Mila Kunis
(Lily - 新プリマドンナの代役)
Vincent Cassel
(Thomas Leroy - バレー団監督)
Benjamin Millepied (David)
Ksenia Solo
(Veronica - バレリーナ)
Kristina Anapau
(Galina)
Janet Montgomery
(Madeline)
Sebastian Stan
(Andrew - ディスコの客)
Toby Hemingway
(Tom - ディスコの客)
見た時期:2011年2月
ブラック・スワンには期待していて、是非見ようと思っていたのですが、ポートマンの没落が始まったのかという感想になってしまいました。レオンで見せた才能が30歳あたりで全部枯れ切ってしまったのかと思います。逆に知能犯で、ここでオスカーを貰い、1度引退し、数年後に巻き直しを計るのかも知れません。
★ 監督はいつものレベル
ダーレン・アロノフスキーは作品数が少なく、私はπ、レクイエム・フォー・ドリーム、レスラー、ブラック・スワンを見ました。要約して言うと、見ていない長編は1作のみ。彼は特定の境遇に置かれた人間を描くために映画を作っているらしく、ブラック・スワンも自分が逃した夢を娘に実現させようとする過干渉の母親を持つ新人バレリーナを描いています。
監督は日本のアニメに詳しく、ブラック・スワンはパーフェクトブルーと結び付けられて語られます。パーフェクトブルーはきちんと手続きを踏んだ上でレクイエム・フォー・ドリームに一部使われています。ブラック・スワンも芸能界で周囲のプレッシャーを感じる主人公という意味ではパーフェクトブルーとプロットが似ています。監督同士が知り合いで、アロノフスキーが今敏を尊敬しているらしく、主人公が似たような悩みを抱えているという設定を使い、主人公の心理描写に重心を置いています。
人の境遇、心理描写に関心を持つアロノフスキーが作った作品として見ると、まあ、いつものレベルに達しています。キャスティングはレクイエム・フォー・ドリームの方がぴったりの人を選んでいると思いますが、ブラック・スワンでも母親役の女優は良く役を理解しています。
★ がんばってみたポートマン
ナタリー・ポートマンと言えばイスラエルの宝、弱冠13歳でレオンの相手役マチルダに採用され、その後スター街道を驀進。特に光っているのはスター・ウォーズの王女様。
生まれはイスラエルですが、幼少の頃からアメリカ住まい。なので英語は達者。非常に頭が良く、学業は良好。大学はハーバードで、心理学を選んでいます。きちんと卒業もし、大学院にも顔を出しています。
ブラック・スワンの主人公とかぶる面もあり、母親が芸能活動でマネージャーを務めています。幼稚園に入るぐらいの年齢からダンスを始め、10歳で芸能活動開始。演技の勉強を始め、13歳で舞台、映画デビュー。かの有名なレオンの主役に選ばれます。その後の芸能活動はずっと上り調子で、それと一緒に上のような立派な学歴も積んでいるので、かなり頭はいいと言えます。
レオンを皮切りに出演を始めた映画ですが、私が見たのは
・ レオン
・ ヒート
・ マーズ・アタック!
・ 世界中がアイ・ラヴ・ユー
・ スター・ウォーズ エピソード 1 ファントム・メナス
・ ズーランダー
・ スター・ウォーズ エピソード 2 クローンの攻撃
・ スター・ウォーズ エピソード 3 シスの復讐
・ 終わりで始まりの4日間
・ V フォー・ヴェンデッタ
・ ブラック・スワン。
知らない間に結構な数になっています。レオン以外は演技力は見えませんでしたが、これと言ったスキャンダルも無く、スターとしての役割は果たしています。ちょっと変な役柄だなと思ったのは V フォー・ヴェンデッタと終わりで始まりの4日間。なんだか無理に作ったような役で、しっくり来ませんでした。しかし大規模なメジャー作品から小規模なインディペンデンス風の作品まで幅広くこなしています。
そのポートマンが気合を入れて作ったと言われているのがブラック・スワン。確かにバレリーナに相応しいと思われるような体重の1割を越えるダイエットを成功させています。しかしバレーのプリマドンナの役をやるにしてはあまりに踊りが下手なので驚きました。準主演のリリー役の踊りもぱっとしません。その上ポートマンには「踊りはスタントがやった」とか、「いや、本人が踊った」とか噂が飛び交い、カメラマンはポートマンのシーンだけカメラを回しながら撮ったり、上半身だけ撮ったり、ごまかした痕跡があります。
同じく本格的なバレーを扱った作品として比べるとネイヴ・キャンベルのバレー・カンパニーの方がずっと優れています。バレー・カンパニーでも誰が主演を取るかなどのエピソードが出て来ますが、踊りも演技もしっくり来ます。
母親が芸能活動のマネージメントをやり、大学で心理学を専攻し、幼少の頃から踊りを習っていたポートマンがブラック・スワンのニーナになるのはなるほどと思われ、もしかしたら彼女のために書かれたシナリオかと思いますが、せっかく用意されたお膳立てに本人が上手く乗っていません。なのにオスカーが飛び込んで来ます。この年はメリル・ストリープ級の競合相手がおらず、何度ノミネートされても貰えないアネット・ベニング、もう貰ってしまい暫く引っ込んでいるニコール・キッドマンなどで周囲を飾っておいて、ポートマンにオスカーが行くという出来レースっぽい年でした。メディアが絶賛していたので期待して見たのですが、演技力はレオンに到底追いつきません。
ブラック・スワンのポートマンを見ると、子供っぽい夢の実現、バレリーナを夢見る少女が学芸会で主演を演じてみたような印象がぬぐえません。本人は一生懸命ダイエットをしたりバレーの練習を積んで努力をしているのですが、努力だけではやって行けないのがハリウッド。
★ ストーリー
主人公はニーナという新人のバレリーナ。母親が果たせなかった夢を背負わされて子供の頃から練習に練習を重ね、健康面は母親がしっかり管理。家に男の姿は無く、母子は双生児のよう。アメリカにも一卵性母娘がいるのだと改めて認識しました。母親は娘の管理をパーフェクトに行い、娘はバレーの技術をパーフェクトにこなします。
バレー団では世代交代が断行され、これまでのプリマドンナが外され、ニーナにチャンスが回って来ます。監督は白鳥の湖を演目に選び、純白と黒の二面性を演じられるバレリーナを探していました。監督は最初別なバレリーナにしようかと思っていたのですが、強引に売り込みに来たニーナをしぶしぶ選びます。ただ、彼女は純情な白鳥は上手く演じられますが、邪悪な黒鳥は荷が重く、監督に「暗い面を出せるようになれ」とハッパをかけられます。
世代交代で外されたベスはニーナをなじりますが、この種の争いはバレー団や芸能界では日常茶飯事。世間知らずのニーナはしかしショックを受けます。自分は主演を取りたかったけれど、誰かを深く傷つけるつもりは無かったという感情と、母親からやいのやいの言われるのでどうしても主演を取らなければならないという切羽詰った感情が入り乱れています。しかしこの段階ではニーナが本当は何を望んでいたのかは観客に分からないようになっています。監督からは自分の理解の範囲を超えた物を表現しろと言われ、ベスの件もあり、ニーナには幻覚症状や被害妄想が出始めます。また彼女には元々自傷の傾向があります。
キャスティングが決まり、練習も進み、ある夜リリーというニーナと1、2を争うバレリーナと飲みに行きます。翌朝リハーサルに遅刻して来ると、リリーが代役をやっています。前夜初めて会った男2人と遊び、ドラッグも取っていたため、ニーナはに精神状態が不安定になります。バレーの練習以外はほとんど外出を禁じられたような生活を送っていたニーナがこの夜母親と喧嘩になっていました。ニーナと話をしに来たリリーに誘われ、珍しく母親に逆らって出かけた挙句にこういうごたごたになってしまいます。
こんな調子で迎えた公演初日。体調不良で出演を見送ると母親が劇場に連絡したにも関わらず、ニーナはぎりぎりで出演に間に合います。母親はニーナを鞭打たんばかりに叱咤激励していた反面、ニーナが本当に大きな公演の主演に選ばれ、自分の夢が娘を通してかないそうな今 どこかに屈折した感情を持っています。ベテラン女優がその辺を上手に表現しています。
親の職業、夢を子供が追う場合、親に憧れた子供が親に続くのなら楽しくていいですが、年端も行かず判断力も無い子供に最初から厳しい訓練を受けさせ、子供がまだ自分の夢が何か気付かないうちに親の夢を押してつけられると、子供はいい迷惑です。そしてステージ・ママを持ってしまった芸能人は気の毒としかいいようがありません。私も似たような状況にいたのですが、両親というのは2人。1人がそういう人でも、もう1人が子供の成長を待ってからと考えてくれると子供の負担は半分ぐらいで済みます。と言うわけで私は時間は長くかかりましたが、めでたく自分の希望を追うことが出来ました。希望が成就したからと言って、スターになるわけでも無く、お金が儲かるわけでもありませんが、うれしいという気持ちを持ち続けることはできます。そういう自分と比べるとニーナが身にしみて気の毒に思えます。一部のシーンは私自身もそっくりの経験をしたことがあるので、見ていて痛みを感じるほどでした。図式があまりにも単純な脚本ですが、母親を演じる女優に助けられてか、経験者にはある程度印象を残す作品になっています。
母親がなぜ夢を実現できなかったかについてもちらりと触れていて、もしかしたらこの女性は目の前にチャンスが見え隠れした土壇場で一歩前に出ることをやめたのかと思いました。日本にいたらそういう事は思いつかなかったと思います。私の夢は特定の分野を勉強することだったのですが、ドイツに来て始めるという夢は実現したものの、生活費を自分で稼がなければならなかったため、学業期間は通常の時間を越え、倍近くになっていました。あと1度トライしてだめだったらそれで諦めようと決心して、最後の試みをしたのですが、同じように長期組になった学生が問題について話し合う機会がありました。
長期学習組は皆それぞれ理解できる問題を抱えていたのですが、なぜか国家試験の直前に妊娠してしまう女性が多かったです。子育てを理由に退学して行きます。学校は託児所もあり、極端な場合子連れで授業を受けられるのですが、止めてしまう人が多かったです。また、子供までは作らなくても、直前に他の学生や、修行中の講師と結婚してしまったり、なぜか戦列を離れる人が多かったです。必ずしも無能な学生ではないのですが。こういう人たちを何度も見て、どうなっているん だろう、せっかくチャンスがあるのに・・・と思いました。奨学金をもらっている人や、経済的にさほど困っていない人も多かったです。
ニーナの母親はもしかしたら上の例の妊娠組と似た人物なのかという印象でした。現在は画家になっているわけですが、ニーナのバレーに監視の目を配り、絶対に練習はサボらせません。ニーナの日常は全て母親の支配の中。その上「バレーで挫折したのはあなたが生まれたからよ」みたいな事も言われます。ニーナはそのため自責の念を持ってしまいます。まるで心理学の一年生の教科書 のような脚本ですが、捻りの少ない分かり易さはあります。
母親との確執に加え、ニーナはベスからも心理的な圧迫を受けます。ベスは自殺未遂とも考え得る交通事故に遭い、入院します。ニーナが訪ねてみるとベスはバレリーナとして大切な足をどうしようも無いぐらい損傷しています。一生歩けない可能性が大。前途洋々のニーナはいずれ自分もこういう終わり方をするのかという嫌な気分を味わい、恐怖に怯えます。大切な公演の前になぜわざわざ自分の心理状態を不安定にするような行動に出るのか・・・そこがニーナの弱点です。リリーはそれとは反対に楽天的な人物に描かれています。ニーナとリリーは2人合わせるといい友達になれそうです。なので時々関係が近くなったり、また距離を置いたり、一部は現実、一部はニーナの妄想・・・という風に描かれていますが、あまり複雑にしていません。
ニーナなりに苦労してようやく始まった初日。しかし第1幕では相方にミスが起き、転落。その上第2幕からリリーが彼女の役を取ってしまうと聞かされ、怒りに任せてニーナはリリーを突き飛ばし、壊れた鏡の破片でリリーを刺してしまいます。リリーの死体を隠し、黒鳥のシーンを踊るニーナ。ここ数日の経験の結果暗い情熱を上手く表現でき、観客からは喝采を受けます。
第3幕の黒鳥で大喝采を受け、4幕目はまた白鳥の役。出番の直前にリリーが顔を出します。怪我もしておらず全く元気です。するとあの死体は誰?冷静になって見てみると、鏡の破片をニーナに突き刺した者がいます。自分で自分を刺していたのです。最後まで踊り切り、舞台では白鳥が自殺をするシーンが来ます。マットレスを敷いた奈落に飛び降り、幕。観客は大喝采。しかしニーナは徐々に意識を失って行きます。彼女が怪我をしただけなのか、命を落とすのかは分からないままエンド・マーク。
★ 驚きのドッキング計画
私はアロノフスキーのレスラーを見ているのですが、アロノフスキーは元々レスラーとブラック・スワンを一緒にしたストリーを考えていたそうです。ちょっとした驚きでした。レスラーはそれ1つでしっかり独立した話で、ここにさらに自傷の傾向のあるバレリーナを主人公とした話が絡むとすると、4時間ぐらいは軽くかかります。それにこの2人をどうやって絡ませるのでしょう。
★ バレーにも色々ある
私がバレーを知ったのは小学校の低学年。友達がお母さんにクラシック・バレーを習わされ、練習に行くのが嫌で私の家に何度か逃げて来たからです。子供なりに美人で、髪の毛をバレリーナ風にしていて、近所のガキ大将たちと遊びまくっていた私が自分が男の子かと錯覚するぐらい女性らしい雰囲気を備えた友達でした。私は物置にかくまったりしていましたが、結局はばれて連れて行かれてしまいました。ある日その子も出る白鳥の湖を見に行きました。「こんな世界があるんだ」と驚いたのが優雅さのゆの字も持ち合わせない大根足の私。悲しそうな友達の印象が今も残っています。
次に生のバレーの舞台を見たのはカロリン・カールソン。バレーを習っていた友達の倍ぐらいの体重の私と、3倍ぐらいの体重の映画友達と2人でモダン・バレーなるものを見に行きました。2人とも映画や絵の展覧会には行きましたが、モダン・バレーの公演を見に行ったのは初めて。一体なんで見に行くことになったのかは覚えていません。そこでぶっ飛んだのはバレリーナが恐ろしく小柄で小太りだったり、群を抜いて大柄だったり、およそクラシックのバレーでは採用してもらえないような体型の人が多かったことと、黒人のダンサーが入っていたことです。当時のアメリカはまだ人種差別が厳しい時代で、バレーに黒人というのは非常にユニークでした。ダンサーは全員クラシックの訓練を受けた上でモダン・バレーを目指したようで、体の動きはかなりプロフェッショナルなやわらかさでした。衣装はクラシックの練習着のような感じで、バレー・シューズは履いていませんでした。「こういうのをモダン・バレーと言うのか」とこれまた新しい世界に驚かされました。使われていた音楽も今でこそ珍しくありませんが、スティーヴ・ライス風のものでした。
私自身はバレーはきれいでいいなと思いながらも、バレリーナになろうと思ったことはありません。ただ、人が舞うのを見るのは大好きで、特にアイス・スケートはすばらしいと思います。気の毒に思うのはダイエット。あの美しさの裏に厳しい食事制限、筋肉トレーニングがあるのが分かっているので、私にはとてもできないと最初から諦めています。かくいう私も全く別なダンスを始めたことがあり、事故の前は毎週練習していました。どんな不細工な人でも毎週練習すればそれなりに優雅さが身につくらしく、私も手の動きだけは非常にそれらしくなりました。しかし事故の後相次いで左右の肩が動かなくなり、今も片方の肩の治療中。というわけでせっかく数年をかけて覚えた踊りも諦めなければならなくなりました。また両肩が動くようになったら始めようかと思っていますが。私の習っていた踊りは太目の方がいいということで、ダイエットは必要ではありませんでした。せっかく上半身は優雅に動くようになったのですが、下半身はまるでサッカー選手のような有様。どうも私は女性的な優雅さは半分しか持ち合わせていないようです。
★ ポートマンの選択
ポートマンはブラック・スワンへの出演を決め、妊娠を決め、結婚を決め振付師の奥方に納まってしまいました。同じ頃レオンの監督リュック・ベソンがポートマン主演でレオンの続編を企画していましたが、ポートマンが不満を漏らして降板。ベソンが監督をするなら参加したのかも知れませんが、オリヴィエ・メガトンになったため、やる気を無くしたようです。しかし私は両方を見比べて、ポートマンは選択を誤ったように感じます。無論ブラック・スワンに出演していなければ、べンジャマン・ミルピエと知り合うことも無く、男の子が生まれることもなかったでしょう。私生活の幸せを得たという意味では正しい選択だったのかも知れません。子供のために一生懸命食べたでしょうから、バレリーナ役のための極度のダイエットから早期回復ができたことと思います。彼女は妊娠にも関わらずオスカーを取ってしまったので、直前挫折選択組ではありません。成功選択組。スターとしてかなりの仕事を終え、まだ30歳前半。そして老後1人切りにならないよう、高齢出産にならないよう今子供を作ってしまうというのは非常に頭の良い選択と言えるでしょう。オスカーを取ると、キッドマンのように数年スターとして活躍した後、急に仕事が来なくなってしまう時期ができます。何年も経って、業界がネタ切れを起こしてからカンバックとか言われて呼び戻されるまで、数年から10年はあるでしょう。その間を有効に過ごすには子育てもいい選択です。
学歴のわりにポートマンには俳優としての才能はあまり良く見えません。スターとしての職務は良く果たしたと思います。今後俳優として極めるつもりなのかも知れませんが、学業で芽が出るかも知れません。きっちり屋のようなので、芸能界以外の方が向いているかも知れません。ハーバードでは心理学を専攻していますが、文系の他の科目も行けるのではと思ったりします。スポーツ医学などもいいかも知れません。まだ若いです。私も2度目の学業は彼女ぐらいの年齢から始めたので、全然不可能とは思っていません。まして経済的に問題が無いのなら、是非学業にも進んでもらいたいところです。
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