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騎士 ニック・パークの作品紹介

ペンギンに気をつけろ! /
Wallace & Gromit in The Wrong Trousers /
The Wrong Trousers /
As Calças Erradas /
Wallace & Gromit: As Calças Erradas /
Los pantalones equivocados /
Wallace & Gromit: Los pantalones equivocados /
I pantaloni sbagliati /
Wallace & Gromit - Die Techno-Hose /
Wallace & Gromit: Le mauvais pantalon

Nick Park

UK 1993 30 Min. クレイ・アニメ

声と姿の出演

Peter Sallis
(Wallace - 町の発明家、下宿の主人)

姿の出演

Gromit
(ウォレスの忠犬、ビーグル)

Feathers McGraw
(鶏のふりをしたペンギン、宝石泥棒、下宿鳥)

NASA で開発されたテクノ・ズボン

博物館の剥製の動物たち

見た時期:1996年頃

要注意: ネタばれあり!

非常に詳しいネタばれも含まれています。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ ペンギンに気をつけろ! − 注:だらけの解説

無事卒業制作を終えたニック・パークのウォレス & グロミット2作目。冒頭から60年代以前のスリラーの様相を呈しています。ヒッチコック全盛の時代の様々な監督のスリラーをご存知の方は是非ご覧になって下さい。

最初は私の T シャツのデザインにもなっているグロミットの朝食シーン。典型的な英国のティー・ポットでグロミットが紅茶を飲むところから始まります。今日は2月12日、グロミットの誕生日。うるう年生まれです。

朝の郵便が届き、グロミットが手紙をチェック。ウォレスからのバースデー・カードが届きます。・・・が、音楽つきのその辺の安物のカード。

注: ここでびっくり。どうやら各国で音声バージョンが違うようなのです。私が何度か聞いたのは 「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」という曲。ところが「ヒーズ・ア・ジョリー・グッド・フェーロー」というバージョンもあるらしいです。

誕生日なのにグロミットの1日はいつもと同じ。ウォレスを起こし、朝食の準備。フルオートマティック。まだウォレスの職業をよく知らない人たち(=観客)はこのシーンを見てウォレスが並みの発明家ではないことを理解します。何から何まで全自動。

注: この物語からウォレスの顔の形が決まります。チーズ・ホリデーのウォレスは面長の顔で、普通の歯をしていたのですが、ここから末広がり顔になり、上の 歯が4本、下の歯が8本大きく目立つようになります。その後他の出演人形も同じような歯になって行きます。

届いた手紙を調べていたウォレスは請求書が溜まっていることに気づき、貯金と照らし合わせて見ます。するとお金が足りない。そこで下宿屋を始めることにします。このエピソードに懲りて、次からは手堅い商売を始めるのですが、この時はまだそこまで悟っておらず、取り敢えずは不精な方法でお金を儲けようと考えます。しかし必要は発明の母。「横着しよう」という考え方こそが偉大な発明に結びつくことを考えると、ウォレスは発明家として正しい道を歩んでいます。

家計の残高を調べるためにウォレスは壁にかけてある絵をどけて、後ろにある金庫から貯金箱を出して来ます。

注: ここでびっくりするのが豚。英国とドイツが同じ習慣とは知りませんでした。

ドイツでは豚は《人でなし》を侮蔑する時に「この豚め!」といった感じで使う言葉で、言わば日本のお隣の国の犬に当たります。

同時に「僕、凄い豚に巡り会った」ってな具合に《幸運》を現わす言葉でもあります。なのでドイツの貯金箱も瀬戸物の豚の形をしています。それと同じ物をウォレスは壁の金庫に入れています。ということは英国でも豚は福をもたらすのかも知れません。

お人好しのウォレスは壁の金庫を隠すために前に絵をかけていますが、それが豚の貯金箱の絵。これでは後ろに何があるか丸分かり。

ウォレスは嫌味もたっぷり言います。朝食の間この日がグロミットが誕生日だという事を無視し続け、お金が足りないとなったらうっかり口を滑らしたふりをして「君の誕生プレゼントは安くなかったんだぞ」と言います。短いシーンで両者の関係を端的に表わしています。

ようやく誕生日の話になり、ウォレスは最初のプレゼントを披露します。家には模型の鉄道路線が引いてあって、小物を運んで来ます。何とそれは首輪と紐。ウォレスは「これで君も(野良犬でなく)ちゃんと飼い主がいるように見えるよ」と言うのですが、自由と独立をこよなく愛するグロミットに取ってはいい迷惑。

これは序の口。続いて不気味な歩く物体が登場します。グロミットはすでに災厄を予期して怯えます。ウォレスは大枚をはたいて買った NASA 開発のロボット・ズボンを贈ります。これでウォレスがグロミットの散歩に付き合わずに済むというわけです。横着は発明の母。グロミットの首輪はロボットに繋がれ、引っ張られながら散歩に出ます。

自由と独立をこよなく愛するグロミットは仕方なく車のついた台に藁の犬人形を乗せてロボットに繋ぎ、自分は1匹で公園の滑り台で時間つぶし。散歩時間の終わりにはまた首輪を繋いでいかにもロボットと散歩をしたふりをしながら戻って来ます。

ウォレスは早速下宿屋の看板を出し、応募者を待ちます。グロミットは編み物をしながらウォレスのお茶の相手。そこへペンギンが来て、下宿鳥となります。グロミットは初日から悪い予感。

注:  編み物のできる方は是非このシーンのグロミットの指使いを見てください。パークは編み物をよく理解している!

ペンギンはグロミットの部屋を通り過ぎ、下宿者用の部屋に案内されます。まだ改装ができておらず、寒々とした部屋。するとペンギンはためらわずグロミットの部屋に入り、そこに住むことに決めてしまいます。

やむなくウォレスとグロミットは下宿用だった部屋をグロミットが住めるように改装し始めます。壁紙はグロミットの大好きな骨のデザイン。テクノ・ズボンはこの時は大活躍。私も自分の家は自分で改装しますが、天井のペンキ塗りは一苦労します。こういうズボンがあったら助かります。

すでに激しい視線戦に入っていたグロミットとペンギンですが、次は騒音戦。夜中に大きな音でレコードをかけられ、早起きのグロミットは眠ることができません。

注:  こでかかる音楽にもバージョンがあるようです。私が知っていたバージョンではインストルメンタルで幸せの黄色いリボン(ドーンのヒット曲)が繰り返しかかっていたのですが、別なバージョンでは幸せの黄色いリボン以外の曲もかかります。

仕方なくグロミットは庭の犬小屋で眠ろうとしますが、それでも音楽がうるさくて眠れません。そこへペンギンが戻って来ます。部屋で大きな音で音楽をかけ電気をつけておきながら、ペンギンは実は外出していたのです。散々嫌な思いをしていたグロミットは情けなくなって泣き出してしまいます。

注: 台詞がゼロで、鳴くこともしないグロミットが泣き出しそうな音を発する珍しいシーンです。

翌朝洗面所でも順番待ち。朝の日課でウォレスに物を届けようとすると、そこへさっと割り込んで来るペンギン。「何と気配りをする下宿人だ」とウォレスはペンギンに感心。お株を奪われたグロミット。「恩知らずの飼い主め!」とグロミットと観客はムカッと来ます。

夕食を共にし一緒にワインを飲むウォレスとペンギンを見て、絶望したグロミットは家出を決心。運の悪いことに雨天。・・・なのでグロミットの涙は雨で目立ちません。ここで観客も一緒に涙。

日常品を集めて荷造り。ブラッシ、骨、目覚まし時計、しかし楽しかった頃のウォレスとグロミットの写真は置いて行きます。ここでまた観客は涙。

注: この時のグロミットの服装はサウスウェスタンに、ドイツで典型的な黄色いレインコート。サウスウェスタンというのは元々船乗りが使う帽子。日本で昔子供が遠足などに行く時に被っていた帽子とほとんど同じ形をしていますが、前後を逆に被ります。つばの前は折り、後ろは延ばしたままです。嵐の時被るのですが、前は視界の妨げにならないようにつばを折り、後ろは首から背中に雨水が入らないようにやや長めになっています。素材は布ですが、防水加工がしてあります。ドイツ語の名前も英語と全く同じ Südwester (南西)で、嵐が来る方向を示しています。

この帽子が英国でどの程度普及しているのかは不明。ウィキペディアを見ても英語の解説はありません。ドイツでは黄色いレインコートも黄色いサウスウェスタンも良く知られています。サウスウェスタンには濃紺と黄色がありますが、ペンギンに気をつけろ!のシーンは雨天の夜なので、撮影で目立つように黄色を選んだのだと思います。グロミットによく似合っています。

ウォレスがペンギンを厚遇している夜、雨天の中、グロミットは家を出ます。翌日からホームレスでゴミ箱暮らし。ペンギンの方はグロミットの部屋にあった《犬のための電子工学》という本を読み、電気ドリルでテクノ・ズボンを改造。

注:  《犬のための電子工学》は馬鹿売れした《お馬鹿さんのための○○》シリーズの洒落です。

ウォレスはいつものように目覚めますが、いつもの自分のズボンではなく、テクノ・ズボンをはいてしまいます。そのため原題の「違うズボンだ!」という台詞が飛び出します。その上テクノ・ズボンはすでに改造されていて、自分ではコントロールできなくなっています。朝食を食べることもできず、ウォレスは強制的にズボンごと散歩に出されてしまいます。これで誕生日に散歩に出たグロミットの気持ちが少し分かるかな。

グロミットの家出を知らないウォレスが「グロミット、何とかしろ!」と叫びながら強制散歩に出ている間、グロミットはアパート探し。しかしどこも「犬お断り」。同じ掲示板で見かけたのは鶏の手配写真。1000 ポンドの懸賞金つきです。どこかで見た顔だ・・・と考え込むグロミット。

外でウォレスに出会ったグロミットは、近くでペンギンがリモートコントロールしているところを目撃します。外のカフェでペンギンを監視する、探偵犬と化したグロミット。

注:  カフェで新聞を読むふりをしているグロミット。よく見ると誌上に羊の姿が。次の作品ウォレスとグルミット、危機一髪!への伏線です。

ウォレスの家には月旅行の記念写真やロケットの模型が壁に貼ってあり、前の作品も生かされています。

探偵犬グロミットが突き止めたのは、ペンギンが町立博物館の近くをうろついていること。窓の高さや幅を測っています。怪しい!

暫らくぶりで家に戻ったグロミットは自分の部屋の壁紙が魚模様に張り替えられ、すっかりペンギン仕様に変わっていることを発見。机の上に何やら計画書らしきものが。町立博物館の金剛石展示会と書いてあります。そしてついにペンギンの正体が明らかになります。頭に赤いゴム手袋をはめて鶏になりすましていたのです!知らなかった!・・・わけないでしょう。そんなの最初からお見通し。しかしたかだか17分でここまで観客を引っ張る力には感心します。ペンギンの狙いは青いダイヤモンド。

ペンギンは疲れて眠っているウォレスを宝石泥棒の共犯にすべく − そして恐らく逃げた後は主犯の汚名を着せるつもりでしょう − リモートコントロールで利用します。まんまと眠ったままのウォレスを深夜の博物館に侵入させることに成功するペンギン。

注: 博物館の他の展示物にもご注目下さい。ペンギンの剥製数羽、快適な生活でインタビューを受けていた、ロンドンの町に適応した猛獣。そしてエントラップメントを思わせる赤外線警報装置。

チェコ製のクリスタルグラスのように見える大きなブルー・ダイヤモンドは首尾よくペンギンの手に入ります。しかし警報装置に引っかかってアラームが鳴り響きます。警報でようやく目を覚ましたウォレスは自分が置かれている立場に気づかず、「グロミーット、グロミーット!!」と叫びます。この時も後始末をしてくれるのはグロミットだと決めてかかっています。

ウォレスの後始末といういつもの役割に戻ったグロミット。「僕はちゃんとした市民なのになんて事するんだ」と怒り、鶏の変装を取ったのでようやくペンギンの正体に気づくウォレス。そこへペンギン殴り用棍棒(実はピザやパイの生地を作るためのローラー)を持って現われたグロミット。しかし飛び道具で脅されすぐ降参。洋服ダンスにウォレスと一緒に閉じ込められてしまいます。

注: ここに登場する洋服箪笥もドイツでよく見かけました。このタイプの箪笥は中世からの伝統のようで、お城を訪れると見ることができますが、現代の普通の家でもモダンな飾りつけの家でなければ見られます。

犯人も分かり、ようやくペンギンよりグロミットの方が信頼できるとウォレスも悟った後は、ペンギン追跡劇に切り替わります。西部劇なども引用しながらの大活劇が展開します。

ペンギン、本名フェザーズ・マクグロウは見事お縄。刑務所入りです。滅多に礼を言わないウォレスも、今度ばかりはグロミットに「ありがとう」と言います。夕刊の第1面にはペンギンが(動物園に)再収監されたことが報道されています。

注: この刑務所、覚えておいてください。3作目に登場します。

また平穏な生活に戻ったウォレスとグロミット。 ウォレスはフェザーズにかけられていた手配の懸賞金を得たため家計の心配が無くなります。テクノ・ズボンはゴミ箱行き(まだ足がちょっと動いています。その後どこかへ消えますが、もしかしたら後でこの続編が作られるのかも知れません)。

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