映画のページ
士郎正宗原作
J 1995 83 Min. 劇場用アニメ
声の出演者
田中敦子
(草薙素子 - 公安9課主任、サイボーグ)
大木民夫
(荒巻大輔 - 公安9課課長、元陸上自衛軍情報部員)
大塚明夫
(バトー - 公安9課所属のサイボーグ、元陸上自衛軍レンジャー)
山寺宏一
(トグサ - 公安9課所属、元警視庁捜査1課の刑事)
(笑い男、アオイ - IT 犯罪者、図書館司書、元学生、公安9課にリクルートされる)
仲野裕
(イシカワ - 公安9課のベテラン、電脳戦捜査担当)
玄田哲章 (中村 - 公安6課部長)
生木政壽 (ウィリス博士)
山内雅人 (外務大臣)
小川真司 (外交官)
宮本充 (台田瑞穂)
山路和弘 (清掃局員)
千葉繁 (清掃局員)
家中宏 (検死官)
人形使い (家弓家正)
見た時期:1996年8月?
1996年ファンタ参加作品
ほぼ20年ぶりに改めて見た作品ですが、直後に忌々しきニュースを目にしました。攻殻機動隊の実写版を作るのだそうです。やめてくれ〜と言いたくなってしまいます。ファンタに来た佳作をハリウッドでリメイクして元ネタより良かったという話はまだ聞いたことがありません。
★ 20年経って
1995年の作品を1996年のファンタで見ました。当時の会場はポツダム広場ではなく、西ベルリンの繁華街クーダムに面した映画館だったと思います。北野武の GONIN、ジョニー・デップのニック・オブ・タイム、レイ・リオッタのアンフォゲタブルが来た年です。
この年は結構な数の作品を見たと思いますが、通しのパスを買ったかは覚えていません。ファンタの開催者が通しのパスを出し始めたのが恐らくこのあたりの年だと思うのですが、はっきりいつだったかは覚えていないのです。1998年頃からは参加作品の半数ほどを見ているので間違いなくパスを買っていると思います。
首相が何度もプーチン大統領と会い、サミットに絡んでまた会うと聞いたので、ふと思いついて Ghost in the shell / 攻殻機動隊を見てみようと思いました。続編に当たるイノセンスに北方領土が出て来たことを思い出した次第。物語の中では経済特区になっていました。イノセンスの中では北方領土は一応日本に返還され、そこに様々な外国の企業が入っていることになっていました。ただ、かなりの混乱状態で、犯罪者もたくさん入り込んでいました。
★ 攻殻機動隊で記憶に残っていたこと
見た時はとてもおもしろいと感じたのですが、その後あまりにもたくさん映画を見たためか、細部はほとんど覚えていませんでした。いくつかのシーンが頭に残っていましたが、全体のストーリーも、音楽も、多くのシーンも忘れていました。イノセンスの方はわりと良く覚えています。
Ghost in the shell / 攻殻機動隊を改めて見直すとイノセンスに負けないというか、当時の事を考えるとかなりの力作だと思います。普通は続編はやや力が落ちるものですが、Ghost in the shell / 攻殻機動隊とイノセンスは両方とも気合の入った作品です。劇場用の続編を出すまでに十分時間を取ったためかと思います。
改めて Ghost in the shell / 攻殻機動隊を見てウォシャフスキー姉妹がマトリックスでかなりパクっていることを確認しました。Ghost in the shell / 攻殻機動隊の細部の記憶が無かったのでここまでパクっているとは気づきませんでした。日本の作品を後で欧州系の外国人がパクるなどとは想像もしていなかったのです。日本のアニメには優秀作が多いですが、アニメ・オタクの間の話にとどまって、ハリウッドのメジャー作品にここまで大々的に取り入れられるとは思っていなかったのです。
私は当時こちらでの仕事にアニメを取り入れたいと考えていて何箇所かに当たってみたのですが、実現できませんでした。学生からは賛成の意見が多かったのですが、非常勤として働いていたため、やれる事に限界があり、動画でなく漫画を取り入れるのがせいぜいでした。それでも喜んで授業に出席してくれる人がいたのはうれしかったです。あの時見たドイツ人の若者の中には、白人でありながら日本の漫画やアニメに魅せられた人たちがいました。
黄色人種に対する優越感を持った人が現代の欧州のインテリ層には大変多いのですが、普段本人たちはほとんど自覚が無く、何か重要な仕事をアジア人と分けるとか共同で何かしなければならなくなって初めてそれが顔を出します。つい昨日まで友達や同僚として付き合っていた人たちが豹変するとこちらは愕然としますが、そういう人たちの学生時代が優越感が形を成して来る時期に当たります。ところがアニメや漫画に憧れる学生はその越え難い溝を越えることがあります。
オーストラリアは微妙な国で、一方では義務教育の時期から授業に日本語が取り入れられていて日本に親しむ人がいる反面、他方では戦時中に日本にしてやられたという意識が強く、親日派と反日派が同じ国にいます。ウォシャフスキー姉妹は一般の日本人が好きかどうかは知りませんが、日本のアニメ、漫画文化には相当影響を受けたと考えられます。
★ パクリの順序
Ghost in the shell / 攻殻機動隊が世に出たのは1995年から96年。日本ではあまり受けなかったそうですが、外国ではファンを作っています。ベルリンにもかなり早くやって来ました。Ghost in the shell / 攻殻機動隊を見てすぐ思いつくのは1982年のブレードランナーです。
物語の原作者士郎正宗がどこまでブレードランナーを意識していたのかは分かりません。士郎が漫画を世に問い始めたのが80年代の始め。ブレードランナーから影響を受けた可能性はあります。特に注目なのはハリソン・フォードが冒頭食事をしている場所がカリフォルニアと想像でき、町がチャイナタウン化している点と、普段は大根役者のルドガー・ハウアーが一世一代の演技でレプリカントの悲しみを表現していた点です。私の目にはチャイナタウン化に見えるのですが、リドリー・スコットは日本化、新宿化したつもりだったそうです。
いずれにしろ私にはこの2点が Ghost in the shell / 攻殻機動隊に引き継がれたように見えます。ちなみにリドリー・スコットはフィリップ・K・ディックのアンドロイドは電気羊の夢を見るか?という小説を映画化してブレードランナーにしています。なので映画の始まりはサンフランシスコあたりということになります。ただ、スコットは火星の話はばっさり切っています。
Ghost in the shell / 攻殻機動隊がブレードランナーを参考にしたかは士郎正宗に直接聞いてみないと分かりませんが、マトリックスは Ghost in the shell / 攻殻機動隊をパクっています。ウォシャフスキー姉妹自身が参考にしたと公言しています。私はマトリックス(1作目)はかなりはっきり覚えているのですが、キャリー・アン・モースは草薙素子のポーズまで真似ています。その他にもかなりあちらこちらに類似点があります。 よほど Ghost in the shell / 攻殻機動隊が気に入ったのでしょうね。
改めて見て Ghost in the shell / 攻殻機動隊は永久保存にすべきすばらしい作品だと思いました。見た直後もそういう風に感じたのですが、その印象だけが記憶に残り、映画のシーン自体はかなり忘れていました。
★ 構成は両作品似ている
イノセンスは全体が前半と後半に分かれていて、その間に歌と町のシーンだけを聞かせ、見せるインターバルがあります。前半は発生した犯罪の描写と、捜査の様子、後半は深入りした主人公の様子とやや哲学的な展開があります。久しぶりに見た Ghost in the shell / 攻殻機動隊も似たような構成になっていました。
★ 未来をアニメに先取られては行けないのだけれど
Ghost in the shell / 攻殻機動隊が公開されたのが約20年前の1995年。イノセンスが約10年前の2004年。Ghost in the shell / 攻殻機動隊から約20年経って世界を見回してみると、随分アニメの世界に現実が似て来ました。科学技術の発展はまあいいとして、世界情勢は実現して欲しくなかったです。
★ 音楽も完成品だった
イノセンスでとてもいい印象を残したのが音楽だったのですが、Ghost in the shell / 攻殻機動隊の時にすでにすばらしい音楽を書いた人がいました。音にはうるさい私なのですが、これもなぜかスパっと記憶から消えていました。イノセンスで感心した音がすでに Ghost in the shell / 攻殻機動隊で使われていました。
ブルガリアに女性の合唱団があって、すばらしい声を聞かせてくれます。国立テレビの女性合唱団ということなので、団員は公務員なのでしょう。サウンドは民族音楽風な感じです。BBC で長くディスク・ジョッキーをやっていたジョン・ピールという人が Ergen Daido という曲を番組でかけたら大ヒットしました。この人は軍専用の番組も持っていて、そこにリクエストを出したら、ソーラン節をかけてくれたことがあります。普段はパンクとかロックとか、およそ若者以外に関心を持たれない曲をかけていたのですが、時たま違うジャンルの曲をかけます。
ブルガリアの女性たちの発声が日本の民謡と似ているなあと思い、民謡が嫌いでなかった私は興味深く聞いていました。
イノセンスで使われた音はそれにそっくりで、その時には知らなかったのですが、実際普段は民謡を歌うらしい女性たちが歌を担当していました。ブルガリアの合唱団は1952年に発足し、現在まで続いています。日本の民謡はいつ始まったのか分からないほど昔からあります。どちらも Ghost in the shell / 攻殻機動隊やイノセンスが作られるより遥か前から存在しています。どちらがパクったとかいう話ではないでしょう。音楽を担当した人がこういう未来の世界に古い日本のサウンドを使ったのは私にはしっくり来ました。
私はソウルやファンクが大好きなのですが、なぜか民謡も好きで、1部の民謡はソウルと似ているなあと思ったりすることがあります。なのでブルガリアの女性たちの曲も、 Ghost in the shell / 攻殻機動隊の曲もすぐ好きになりました。
★ 当時はザウルスも新しかった
今では簡単に壊れない近代的なシャープペンシルの生みの親、シャープという会社が外国に買われてしまう体たらくですが(早川さんは草葉の陰で嘆いているでしょうね)、Ghost in the shell / 攻殻機動隊の頃はザウルスからメイルを送れる、公衆電話にモデムがついているなど、ドイツより先を行っていました。Ghost in the shell / 攻殻機動隊を見た私は、ちょうどザウルスを使っていました。その頃休みに帰国し、公衆電話からメイルを送った記憶があります。時期をはっきり記憶していませんが、Ghost in the shell / 攻殻機動隊を見たのはいずれにしろ1996年の夏、私がザウルスを紛失したのが職業学校に通っていた1998年。ザウルスを使い始めたのは Ghost in the shell / 攻殻機動隊を見る少し前だったと思われます。
Ghost in the shell / 攻殻機動隊には公衆電話からカードでどこかに連絡するシーンがあり、私はそれをザウルスと似ているなあと思っていました。当時ドイツの公衆電話はかなり原始的で、日本の方が2歩ほど先を行っていました。
イノセンスには北方領土が出て来ますが、Ghost in the shell / 攻殻機動隊には「ここは香港か」というシーンが続出します。井上さんから香港の話を聞き、私も真似をして2度ほど行ったことがあります。欧州と日本の間で香港をストップオーバーとしてブッキングして、数日いました。1度は山の上のユースホステルに泊まり、1度は確か超有名なホテルの隣のホテルに泊まりました。そちらは香港の中心街のど真ん中にありました。押井は香港の雰囲気を丁寧に描いています。
★ 派手な撃ち合い
押井の両作品を比べると人間としてはかなりの部分を失ってしまったサイボーグたちの悲しみが全編に漂っているなあと思います。似ているのはブレード・ランナーのルトガー・ハウアー。ブレード・ランナーもカリフォルニアがチャイナタウン化していて、香港と似た感じです。
前半ではせせこましい中華街のような所で派手に撃ち合います。これではとばっちりで死ぬ人も出るのかなあと思いますが、この時代なら半死状態になってもサイボーグ化すればいいのか、他の人の臓器を移植するのではないので拒否反応は起こさないし・・・などと思いながら見ていました。
★ ゴーストの意味
原題の攻殻機動隊にはどこにも《ゴースト》という言葉が入っていません。英語のタイトルは Ghost in the Shell ですが、《ゴースト》は普通日本でも考えられている幽霊とはやや違う使われ方をしています。英語でも普通は「ゴースト」と言えばあの「うらめしや〜」の幽霊を指していますが、物語の中の使われ方を見ているとドイツ語の 《Geist(ガイスト) 》のような感じがします。ドイツ語の《ガイスト》は「うらめしや〜」の幽霊も指しますが、《肉体》に対する《精神》のような使い方もされ、哲学、信じる物なども含む頭脳の活動を全般的に指しています。知的な活動を大きな所からとらえる時によく使われる言葉です。物語では意識、自我なども含みドイツ語の《ガイスト》に近い解釈がされています。
世界的に有名な科学者で、重度の身体障害を持っている人がいますが、彼はキーボードをたたくという形で自分の頭脳と周囲の人との間のコミュニケーションを図り、世界に向けて現在でも多くの事を発言し、自身常に先の事を考え続けています。そういう人を見るとドイツ人は彼の《ガイスト》が活発な活動をしているという風に解釈します。攻殻機動隊に使われている《ゴースト》という言葉とほぼ一致しているように私には思えます。無論《ガイスト》という言葉は幽霊にも使われ、幽霊船は「ガイスターシフ」(英語式にすると、ゴースト・シップ)です。
《シェル》は具体的な場合は貝殻、抽象的な場合は外側の殻という意味ですから、「殻の中の精神」みたいなタイトルになっています。取替えの利く体を持ったサイボーグたちのわずかに残った精神の部分が《ゴースト》と解釈していいのではないかと思っています。
★ ピクサー・アニメは苦手
私が子供の頃は古いタイプのアニメがあふれていました。テレビを見る時間を制限されていたこともあってそれほど多くは見ていません。鉄腕アトム、鉄人28号、エイトマンあたりと、ポパイ、フィリックス・ザ・キャットは見ていました。それからチロリン村とくるみの木、井上ひさし作の人形劇も見ていました。大体このあたりで打ち止めです。
Ghost in the shell / 攻殻機動隊は上に挙げた作品より気合を入れて絵を描いているというか、上に挙げた作品はミニマリズム(最小限の線で物事を表現する手法)、Ghost in the shell / 攻殻機動隊はある程度画面全体を埋める描き方ですが、ピクサーと比べると人、乗り物などの動きがぎこちないです。なのでこの手法を前近代的、ピクサーを近代的と見る人もいるかと思われます。
時には静止画像も出て来る Ghost in the shell / 攻殻機動隊ですが、私は意外なことに気づきました。見終わるとこの種のアニメの方が私の頭には深い印象を残すのです。めまぐるしく動く絵よりぎこちない絵の方が頭にうまく残るのかも知れません。脳科学の事はほとんど知らないので科学的な説明はできませんが、私がこのタイプの見ると、見ながら自分の頭でも内容について考える時間の余裕があり、作者が表現の自由を謳歌し、見る方は解釈の自由を得る時間があるのかもしれないと思っています。この作品を見る私と、井上さん、ドイツ人、アメリカ人はそれぞれ自分の頭の中で自己流の咀嚼をし、解釈をしているのだと思います。
ピクサー系のアニメは滑らかな動きで、動物は毛がふさふさしていたり、感じが良いですが、なぜか頭の中で自己流の解釈をするだけの時間の余裕がありません。イノセンスを見た時なぜあれほど気に入ったのか分かりませんでしたが、今回久しぶりに Ghost in the shell / 攻殻機動隊を見ているうちにそこに行き当たりました。
★ 最後の一言
ストーリーについては書きませんでしたが、どがちゃかどがちゃかあった後、バトーに助け出された素子がバトーの家を去る時に「さて、どこに行こうかしらね。ネットは広大だわ」と言います。
このシーンはエクス・マキナのラストを思わせます。ただ、アヴァは全てが人工物。人間の要素があるだろう素子とは真逆。肉体を持っていたであろう素子がネットの中に入って行き、全てが人工の物体であるアヴァがこれから人間の世界に入って行きます。
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