May.22,2000 『ブルーズに乾杯』レポート
10年ほど前は、よくライヴ・ハウス通いをしていたもので、日本のブルースやジャズを毎週のように堪能していた。最近行かないでいたら、知らないバンドが、どうも続々と登場したようなのである。これはウカウカしていられない。毎年5月下旬に、海外からのバンドも呼んで、日比谷野外音楽堂で『ブルース・カーニバル』が開催されるが、それに先立ち、今年は4月30日、日本のバンドのみの催しが行われた。題して『ブルースに乾杯』。
2時30分の開演時間ちょっと前に到着したら、もうすでに始まっていた。生ギターで弾き語りしている女性がひとり。何やら古い歌謡曲を歌っている。「?」 おいおい、今日はブルースだよなあ。次に出てきたのが、中央にパーカッション、両サイドに生ギターの三人組。「みなさん、こんにちわ、クッキー里中とヘンゼルとグレーテルでーす!」と吼えると、何と郷ひろみのヒット曲『男の子女の子』の卑猥な替え歌。そんなバンド、チラシに載ってないぞお。本当にブルースなの、今日は! 日にち間違えちゃったかなあと思っているところへ、宇多村さんがカメラを抱えて登場。どうやら、私が来る前にも4バンドくらい出ていたらしい。いわば、前座。飛び入りのようなものらしい。
後藤ゆうぞうが登場。この人、ブルースの司会には無くてはならぬ存在。何せ、この日のイベントのような多数のバンドが出演する場合、どうしても場繋ぎが必要。その点、この人の喋りは大変に重宝だ。しかも、喋りだけではない。本職は沖縄音楽をやるミュージシャンである。コンガ、ブルース・ハープ、キーボード、ギター、三味線と、なんでもこなし、時にこれらの楽器を弾きながら、笑いを誘う。小さな体に関西弁。私、最初は吉本の芸人かと思っていた。
さて、チラシに載っていた最初のミュージシャンTHE NIHIL BROTHERSの登場だ。ところが私、今思い返しても、このバンドに関する記憶がさっぱりなくなっている。宇多村さんも、このバンドはいい写真が撮れなかったと悔しがっている。というわけで次いきましょう。
日倉士歳郎と丹菊正和。これはよく憶えている。ギターとパーカッションのデュオ。どちらかというと、沖縄系のミュージシャンのような音楽というのか、のびのびとした海の近くで聞きたいような音楽。デュオとは思えないくらいに音が厚い。これもブルースというのかなあと思っていると、ストラトキャスターに持ち替えた日倉士がスライドで、『ローリング・アンド・タンブリン』を披露。丹菊のリズムが心地よい。一気に気分はブルースになって、お後と交代。
早々と大物が登場。日本のブルース・ハープの草分け妹尾隆一郎率いる、BLUES FILE NO.1だ。このバンドは全員ヴォーカルがとれるという。確かにうまい。もっと聞きたいのだが、時間がない。ウッド・ベースの人の『ゴーイング・バック・シカゴ』でお後と交代。
次がたまげた! コテツ&ヤンシー。こういう、とてつもない新人が出てくるから怖い。ブルース・ハープのコテツと、キーボードのヤンシーのデュオ。ヤンシーって、バンバンバザールのライヴ盤にゲストとして、吾妻光良や友部正人と一緒に出ていた。しかし、あまり印象に残らなかったのだ。いやあ、びっくりした。正調ブルース・ピアノというよりは、ジャズ・ピアノに近い。ジャジーな前奏から、どうするのかと思ったら、『ストーミー・マンデー』に突入してみせた。コテツのブルース・ハープがまたうまい! どうやら、マイナー・キー・チューニングのハーモニカが好きなようで、リー・オスカーばりの音を出す。日本のブルース・ハープ界の層も厚くなってきたなあ。ラストはヤンシーの『サニー・サイド・オン・ザ・ストリート』で締めて、お後と交代。
遠くから、ブラス・バンドの音が聞こえる。何と客席後方から、演奏しながら登場。最近、KYONが加わった、BLACK BOTTOM BRASS BANDだ。登場しながら、客席に首輪やらメダルやらを投げながら舞台まで行進して行く。もう歩きながら目一杯吹いている。音で目立つのが、チューバ。この低音部の楽器、大変なのだよ、吹くのが。私も高校時代にちょっと演ったことがあるが、あんな目一杯吹いちゃったら、とても続かない。視覚的に目立ったのはトロンボーン。この楽器はスライドさせるから唯でさえ目に付くが、このバンドのトロンボーン奏者、これまた目一杯吹くのだもの、最後の方はグロッキー寸前なんじゃないかと思うくらいフラフラ。お後に交代かと思ったところでゲスト登場。甲本ヒロト(ハイロウズ、ブルーハーツ)だ。そこで演った曲がなんと『アナーキー・イン・UK』。これには、ひっくり返りましたね。ブラス・バンドでセックス・ピストルズ! ところが、これが合うんだから不思議。
元憂歌団の木村登場! 憂歌団時代はアンプラグドから始めるのがスタイルだったが、最初からエレキを持っている。おおっ、ドラムスが正木五郎! 相変わらず迫力のぶっ叩きドラム。憂歌団解散は、いい方向だったにちがいない。内田勘太郎も、いい方向に行っているし、よかったよかった。もうあのバンド、マンネリだったものね。内田の役をやるギタリストは、B・B・キングばりのギターを弾く。宇多村さんも、いい被写体を得てか写真に熱が入る。
三宅伸治BAND。このバンド、あまりブルースという感じがしない。私、この人のことは知らないのだが、人気はばかにあるようだ。客席も女性客が前の方に押しかけて、大騒ぎ。そこへ、三宅がシールドひきずり客席に乱入。アルバート・コリンズじゃないから、そんなに長いシールドは用意していなくて、途中でシールドが外れた。このバンドもドラムスの迫力が違う。もう静かにリズムを刻んでいればいい、ブルース・ドラムの時代は終わったのか?
あたりも暗くなってきたところで、永井隆(ホトケ)の新しいバンド、tRIC KbAG。永井が手持ちの拡声器を持って出てくる。このバンド、ギターが元四人囃子の森園勝敏。なんせプログレですぜ。拡声器のアイデアも森園だったというから、このバンド、唯のブルース・バンドじゃあない。本来、キーボードは小島良喜だが、急病でKYONが弾く。KYONもうまいが、これはやはり小島の方が、このバンドには合っていそうだった。ドラムスもパワーあり! やっぱりこのバンド、ブルースというジャンルじゃないよ。永井が古くから演っているフレデイ・キングの『ビッグ・レッグ・ウーマン』がかろうじてブルース。なんでも永井流にしてしまう人だが、ドアーズの『ブレーク・オン・スルー』もこう変身するとはねえ。ラストはアニマルズの『ウィー・ガット・ゲット・アウト・オブ・ディス・プレイス』。森園のギターはもうプログレそのもの! 唖然とする観客を残して去って行った。
ベースのポール・ジャクソンが吼える。JIROKICHI ALL STARSの演奏が始まる。ギターが塩次伸二。宇多村さんが、「塩次、前に出て来ないので、撮り難くくてよう」と嘆く。内藤やすこは余計という感じがした。内藤が突然、憂歌団の『嫌んなった』を歌い出す。ワンコーラス歌ったところで、木村を呼ぶ。突然の呼び出しに驚きながら、木村登場。ツーコーラス目を木村がとる。さすがに長年歌い続けた自分の曲だ。少しずつ、間を外しながら歌うのがこの人の特徴。これがなかなかいいのだが、スリーコーラス目を内藤に返したら、内藤がこれをやろうとして、見事にリズムをはずす。慣れないことはしない方がいい。
これで終了のはずだったのだが、アンコールかと思って見ていたら、なんとステージの上に登場したのは、シーナ&ロケッツ。どうやら、飛び入りで出させてくれと頼んだらしいのだが、主催者もどこで出させようか迷ったろう。これで、ますます何がブルースやら、わけがわからなくなる。
最後は参加者総登場で『フーチー・クーチー・マン』。ここで締めたのはさすがに永井隆。正確な歌詞をちゃんと歌えたのは彼だけという感じだった。
May.17,2000 燃え尽きたか? ブランキー
ギター・トリオっていう形式のロックって、割と好きだ。余分な音を削ぎ落とした、究極のロックという感じがする。特に3人のレベルが、かなりな高度に達していて、個々が自己主張しているバンドのときは、スリルを感じるような快感がある。ギタリスト兼ヴオーカルのワンマン・バンドでは、なかなかこのスリル感は生まれない。
ロック史上、最初にして最強なのは、やはりクリームだろう。当時の映像を見ていると、エリック・クラプトン、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカーの三人が、それぞれの楽器に並々ならぬプロ意識を持っていることがわかる。あれ以来、クラプトンはトリオということを演っていないのではないだろうか。ひとりが受け持たなくてはならないパートの大きさが、トリオという形式では重圧になってしまっていたのではないだろうかと想像するのだが、いかがだろうか?
ブランキー・ジェット・シティが最後のアルバム『HARLEM JETS』を出して解散した。このバンド、ご存知のように『イカ天』末期に突然、彗星のごとく登場して審査員のドギモをぬいたギター・トリオ。なんで、今まで出てこなかったのかと審査員たちが唖然としていたっけ。私も土曜の夜となると、早々と寝てしまって、夜中に目覚ましをかけて、この番組を見ていた口。
ブランキー・ジェット・シティは何週たっても、そのテンションが下がらず、毎週楽しみにしていた。そして、その不良めいた態度のふてぶてしさが印象に残った。ロックの持つ不良性がプンプンする[凄み]があった。『イカ天』終了と同時くらいに、彼らはプロ・デビューした。あの番組からは、いろいろなバンドがデビューしたが、彼らくらい私にインパクトがあったバンドはない。
あれから10年。長すぎた位かもしれない。よく今まで解散しないでこれたものだ。案の定というか、しばらくのソロ活動のあとから戻ってのアルバム作り。そして、突然の解散。嫌な予感がした。このラスト・アルバム、私には面白くなかった。今までとまったく違ったタッチのジャケット。一曲目こそ、先行シングルとして出た『SEA SIDE JET CITY』で、「おっ、いいな」と思ったものの、後が続かない。もう、初期にあったようなインパクトは、さっぱり感じられない。以前と似たような曲が並んでいて、それでいてもう、燃えかすのような印象しかない。
ブランキー・ジェット・シティ、―――あ・ば・よ!
May.8,2000 ジョビジョバの笑いのセンスっていいな
『アドレナリン・ドライブ』に出てきたジョビジョバという、6人組のお笑い系の演劇集団が面白かったので、気になっていた。映画『スペース・トラベラーズ』の公開に合わせるようにして、なんとCDが出たので、つい買ってしまった。タイトルが『J・SIX・BABYS』
『スペース・トラベラーズ』は、恐ろしくつまらなかったのだが、この映画の元になったのは、ジョビジョバの芝居。映画化に際し、ジョビジョバの面々は、話とはあまり関係ないところで出演している。解散宣言の記者会見をするビジュアル系ロックバンドの役。このシーンが独特の乗りで、他のシーンとはまた別のおかしさを生み出している。
J・SIX・BABYSとは、『スペース・トラベラーズ』での、そのロック・バンドの名前でもある。ジャケットは、映画での衣装そのまま。最初、いったい何事かと思った。CDをプレイヤーに入れてまずびっくりしたのは、一曲目から、ハード・ロックがギンギンに聞こえてくること。しかも、どうやらこの演奏、本人達自ら演奏しているらしいのである。才能あるよなあ。
シングル・カットされたのは、『ボンゴレオ』という曲なのだが、これはドンキー・カルテットなどがよく演っていた、日本語をイタリア訛りで歌うというやつ。これがおかしい。この程度のことは軽々とこなしてしまう。
音楽ネタと、耳で聞くだけでわかるお笑いネタが、みっちりと入っている。内田裕也の留守電に入っていたものの仮想再現『留守電』というネタもおかしい。安岡力也のモノマネが最高。やばいけれどね。
ウルフルズがゲストで出ている。『ガッツだぜ』のオケができたという設定で、プロデューサー役のマギーが『ガッツだぜ』という部分の歌詞が納得できないと言い出して、「ガッツを出していこう」とか「ガッツじゃけんのう」とか歌い変えさせるというネタ。果ては、「『ガッツだぜ』では具体性がない」と言い出し、「受験とか恋愛をがんばっていこう」なんて、とても長くて息継ぎができないものにしてしまい、ウルフルズが困惑する様子がおかしい。
久しぶりに笑える、コミック・アルバムです。