August.24,2000 ソウル歌詞パロディ
[ポカスカジャン]というコミック・バント゜をご存知ですか? 生ギターふたりに、ポリバケツを改造して作ったパーカッションという3人組。普段は[ワハハ本舗]の役者さん達なんですが、公演がないときは、コミック・バンドの形でステージに立っている。私、彼らのステージを国立演芸場で2回見ている。
彼らのネタは、けっこう通好みなのが多くて、元ネタの守備範囲が広くないと笑えないものがある。例えば『浅香光代が歌うビートルズの「ドント・レット・ミー・ダウン」』とか『ベンチャーズが演奏する「笑点のテーマ」』とか『武田鉄也が歌う「仮面ライダーのテーマ」』etc.このグループが国立演芸場の若手演芸大賞を受賞したのだから、審査員も通好みの人が多かったらしい。
感心したのは、『レット・イット・ビー見え隠れ』。日本のニュー・ミュージックがいかに、ビートルズの『レット・イット・ビー』のコード進行をパクッていることが多いかを、実際に演奏してみせる。このコード進行さえ使えば、日本人受けする曲ができるという見本。『昴』も『なごり雪』もみーんな元は『レット・イット・ビー』だと知って愕然とした。
彼らのネタにテンプテーションズの『マイガール』がある。これには2種類のネタが出来るのだが、テレビでは絶対に放送できないバージョンというのがある。『マイガール』のメロディーに乗せて「志村けん、研ナオコ、長渕剛・・・と芸能人の名前をズラズラズラと並べていき、サビの「マイガール、マイガール、マイガール」とエコーのようにして歌うところで、手に手錠をかけられたポーズをとって「前がある、前がある、前がある」とやる。
この話を宇多村さんにしたら、話している途中で気が付き「それって、ひょっとして『前がある』じゃないの」という。「どうして知ってるの?」と訊いたら、「だってそれ、バブルガムブラザースが演ってたじゃない。井上さんと一緒に見たでしょ」と言う。うーん、忘れていた。それにしても、宇多村さんよく憶えていたものだ。
それで思い出したのだが、以前ライブハウスに[ボイス・アンド・リズム]を見に行った時のこと。前座が出た。[ゴリガン]という結構大人数のソウルバンド。ラストで『ソウルマン』を歌い出した。「アイム・ソウル・マン」と歌うサビのところで、なんと素麺を会場にばら撒き始めた。「アイム・ソーメン」という駄洒落らしいのだが、これには倒れましたね。
August.14,2000 三谷幸喜の才能炸裂!
三谷幸喜、脚本、作詞、演出のミュージカル『オケピ!』を、結局3回見た。東京公演2回、大阪公演1回。一万円以上もするチケットを3回分買ってしまったときは、さすがにこれは多すぎたと思ったのだが、1回目に見た時より2回目、2回目に見た時より3回目の方が面白かった。これなら、まだ何回見ても飽きないだろうと思える。
この芝居のことは、『蕎麦湯ブレイク』の方で書くつもりでいたのだが、どうも、あっちのコーナーは、今月かなりファイルが重くなりそうなので、こっちのコーナーに、挿入歌を中心に書いてみようと思う。
舞台は緞帳なしの、オーケストラ・ピットの中を剥き出しにしたセット。三谷幸喜自身による開演前の爆笑注意アナウンスのあと、客電が点いたままの状態で、奥のドアから、真田広之演じるコンダクターが出てくる。最初に見たときは、あまりにも意外な始まり方なので、客席も唖然としていたが、2回目に見たときは、リピーターも多かったらしく、登場と同時に拍手が起こった。カバンからペンを取り出し、しばし、譜面を直したりする動作を続ける。ふと客に気がついたように、客席に会釈すると、真田のモノローグが始まる。この舞台状況の説明である。やがて、次々に登場人物達が舞台に入ってくる。簡単に人物紹介をしながら、話が進んでいく。
登場人物が出揃ったところで、M1『オケピ!』。このミュージカルの主題歌である。真田の独唱から、やがてみんなの合唱になる。
私は、舞台のミュージカルなるものを1本も見た経験がない。あまり行きたいと思わなかったからだ。ミュージカルを見たのは、全て映画版。しかも、それらは私にはどちらかというと苦手。その最大の理由が、ドラマ部分がつまらないからだ。三谷幸喜がミュージカルの脚本を書いたと知ったとき、3回分もチケットを買ってしまったのは、三谷自身がミュージカル嫌いで、ミュージカルを嫌いな人も愉しめるものを書いたというコメントを読んだからだ。見て、なるほどと唸ってしまったのは、ドラマ部分がよく書けていたからだ。3時間半くらいになる大作だが、緻密に書かれたドラマ部分に時間がかかるため、どうしてもこの位の時間が必要。当初書かれた脚本は、もっと長かったという。
序盤は、13人の登場人物の紹介、それにそれぞれが思っていることが、一気に語られるから、まごつく客も多い。そこでM2『彼らは、それぞれの問題を抱えて演奏する』。これは、劇中劇のミュージカル『ボーイ・ミーツ・ガール』の序曲ともなっている。つまり、各楽器の奏者が、楽器の代わりに歌を歌うという形式が、このミュージカルの特徴。それぞれが、自分の思っていることを別々の曲で歌うという贅沢な構成。トラのパーカッション(山本耕史)は、希望に燃える若者の心情を歌い、ギター(川平慈英)は、ハープ(松たか子)への愛を歌い、逆にハープは、勘違いしているギターへの困った心情を歌い、ヴァイオリン(戸田恵子)は飲み会の精算の計算に余念がなく、ピアノ(小日向文世)は鼻が痒く、ファゴット(北川潤)はバナナがどうして放っておくと黒くなってしまうのかと歌い、ヴィオラ(小林隆)は何やら電話番号を絶叫しているといった具合。これらが渾然一体となる編曲は見事。人物関係などがはっきりする上に、これから起こるドラマの伏線をふんだんに盛りこんでいる。
コンダクターとヴァイオリンは夫婦であるが、実は現在別居中。ヴァイオリンがトランペット(井原剛志)とデキてしまったからだが、どうやらトランペットに捨てられたらしい。コンダクターは妻に戻ってきて欲しいのだが、一方でハープに恋をしているという複雑な設定。そこでM3『乾燥機はあなた次第』。
ミュージカル嫌いの理由を三谷幸喜が歌詞で語ってみせたのが、トランペットが歌うM4『くたばれミュージカル』。これには、多くのミュージカル嫌いが納得するだろう。ミュージカルへの批判も込められている。「なぜ、突然人が踊りだすのか」「音楽シーンを抜かせば、たった30分で終わってしまう話」「普通に歩けば10秒で歩けるところを、なぜ踊りながら3分もかけるのだ」等、「ミュージカルなどくだらない、大嫌いだ」と歌う。これには、会場多受け。ミュージカル批判ながらも、最後はみんなでダンシング。
この芝居のキーパーソンになるのが、パーカッション。突然他の用が出来て来られなくなったパーカッションの代わりに、この日だけトラでやってきた学生。憧れを抱いてミュージカルのオーケストラ・ピットにやってきたものの、ドラム(菊地均也)は洗剤の売りこみのサイド・ビジネスに夢中だし、サックス(白井晃)は演奏の合間に競馬をやっているし、トランペットは二日酔い、ピアノは間違えてばかり。勘違いしているギターとの関係を何とかしたいハープ、そしてそのハープが自分に気があるのではないかと思い込んでいるコンダクター。なんだかいいかげんな人たちを見て、理想と現実のギャップに悩むパーカッションの歌M5『パーカッションの理想と現実』。
さすがと思わせるのがオーボエ役の布施明。この人の歌唱力はやはり飛びぬけたものがある。「この芝居、ミュージカルといいながら歌が少ないね。セリフばっかりじゃないか。それも僕以外の」と言う楽屋オチのセリフもあるが、この芝居で2曲歌っている。その1曲目M6『リフレイン』。毎日同じ事を繰り返す会社員になるのが嫌で、音楽家になったものの、やっぱりこの職業も毎日が同じ事の繰り返しだと呟く歌。三拍子のワルツで書かれていて、出演者達は舞台の中央でしなやかに踊る。このナンバーも、この芝居のキーになる内容を盛りこんだ曲だ。
ファゴットが眠り込んでしまったことから、サックスが代わりにファゴットを吹くことになる。そうなると、サックスが掛持ちで吹いていた楽器フルートを吹けなくなる。その代わりにハープがフルートを吹くことになる。となると、ハープを弾く人間がいなくなる。そこで、ギターがハープ、パーカッションがギター、ピアノがパーカッション、ピアノをヴァイオリンと三谷お得意の複雑な笑いに突入。最後にヴァイオリンを誰にするかでヴィオラがヴァイオリンを演ることになり、それではヴィオラはというところで「ヴイオラはいいや、無しでいこう。無くても問題ないし」のコンダクターの一声で決まってしまう。影の薄いヴィオラという楽器。奏者も影が薄い。何と誰も彼の名前すら知らないのだ。そこでM7『Who Are You』。びっくりしたのは、小林隆という地味な役者がどうして歌も踊りも上手いということ。この人、三谷幸喜が書いたテレビドラマ『古畑任三郎』の中でも、任三郎になかなか名前を覚えてもらえない警官佃島を演じていましたっけ。
このドラマを引っ掻きまわす張本人はハープの松たか子。ハープ奏者は、いいところのお嬢様というイメージがあるが、実は公団住宅住まいので、父親は安月給の会社員だと本人が歌うM8『ハーピストの理想と現実』。松たか子、シンガーソングライターでもあるので、さすがうまい!
その松たか子に対して勘違いを続けるギターの川平慈英のナンバーが、M9『ポジティブ・シンキング・マン』。この曲は、後半にもう一度歌われることになるのだが、ここではその伏線のように、さりげなく歌われる。リピーターにとっては、ニヤリとする瞬間だ。
1幕目が終わろうとしている。実は、ハープが今愛しているのは、ギターでもコンダクターでもなくトランペットだという衝撃の事実が披露される。トラのパーカッションには、最後のシンバルのフェルマータのタイミングの取り方がわからない。忙しいコンダクターに訊いてみても「適当に」としか答えてくれない。なんていいかげんな現場なんだろうと悩むパーカッション。現実的には、このタイミングはコンダクターが合図を送るのが普通だから、何も問題ないと思うのだが、これがドラマか。ドロドロの三角関係、四角関係がわかったところで、M10『オケピ!(リプライズ)』。ぼんやりと考えこんでいたパーカッション、シンバルのタイミングをはずしてしまう。ここで、舞台も休憩。
2幕目。ミスを悔やむパーカッシヨン。しかし、誰も意に介していない。重大なミスなのに、誰でもどうでもいいことらしい。ファゴットの北川潤を中心にした、M11『アントラクト〜俺たちはサルじゃない』が始まる。パーカッションを慰めつつ、休憩時間にオーケストラ・ピットを覗き込む人達に「覗くんじゃない、俺達は見せもんじゃないと歌うナンバー。このミュージカルの中で、もっとも印象に残る名曲。大阪公演のとき、唯一セリフが変わっていたのが、このシーン。曲の途中で「こら、親爺、覗くんじゃない。お前さしずめ学生時代ブラバンだっただろう!」となっていたところが、「こら親爺、覗くんじゃない。おい、親爺ったら! 親爺。あっ、親父様ですか。すいませんでした」となっていた。「ここはサル山じゃない。俺たちはサルじゃない」とサルの動作を真似て歌うこの曲は、ついつい後でも口ずさんでしまう。
オーボエの布施明の2曲目M12『オーボエ奏者の特別な一日』。学生時代に一時的に結婚したものの、別れてしまった女性との間にできたひとり娘が、会場に見に来てくれていると知ったオーボエが、20年ぶりに喫茶店で娘に逢ったことを歌うナンバー。東京公演では、コンダクターの位置がせり上がり、喫茶店のセットになったが、大阪公演では、この仕掛けが使えなかったらしい。かわりに、人物がいろいろと動き、喫茶店らしさを演出していた。さすがに布施は上手い。曲がさだまさし調で、ついホロリとさせられてしまう。
M13『私を愛したすべての人へ』。ハープ松たか子の2曲目。恋多き女の心情を歌った曲。「これが本当の私、これが私の本当」。清純なイメージとは裏腹に、その場の感情だけで生きる奔放な女なのだという、ちょっとセクシーな曲。
一方、コンダクターと結婚しながら、トランペットのモトに走り、そのトランペッターをさらにハープに寝取られたヴァイオリン戸田恵子の歌うM14『サバの缶詰』。『サウンド・オブ・ミュージック』の『私のお気に入り』にヒントを得たと思われるコミカルでホロリとしたナンバー。
物語は、いよいよエンディングに向かっていく。完全にハープに振られたと解ったギターの歌うナンバーM15『ポジティブ・シンキング・マン(リプライズ)』。これはM9の別バージョン。M9がスローだったの対して、こちらはだんだんテンポを上げていき最後にはR&Bになる。宇多村さん、これは凄いよ! 布施明が低音部を担当して、すっごくカッコいいナンバーとなっていた。真田も川平も狭い舞台の中を踊る踊る。
多くの事件が起こり、大混乱の舞台だが、収まるものは収まり、収まらないものは収まらずなのだが、パーカッションが呟く。「皆さんは、この仕事を好きでやっているんですか? 私には、嫌だけど仕方なくやっているように見える」というセリフから、布施明の「そんなことないさ、みんな音楽が好きで好きでたまらないからやっているのさ」という答え。そしてM16『ただひとつの歌』。これまた『サウンド・オブ・ミュージック』の『ドレミの歌』の発想のパクリなのだが、ドレミファソラシドをCDEFGABにしている。これもなかなかに感動的な歌で、私はこれを聴くと泣いてしまう。
そして、ラスト・ナンバーM17『オケピ!(リプライズ)』。こう曲を中心に書いてくると、複雑な脚本は、すっきりしてしまうのだが、トランペットをゆるせないギターの思い。何でも屋のサックスと競馬。ピアノの連れてきたウサギ、そしてそのウサギの出産事件。ファゴットのケーキつまみ食い事件。ヴィオラの名前が意外なところで解る結末。ドラムの洗剤販売のゴタゴタなどなど、同時多発的に起こる、このドタバタの芝居は、書いても書いても書ききれない楽しさに満ちている。それぞれの出演者が一時も目が離せないほどに意味のある動きをしていて、メインで起こっている動きだけを追っていると見過ごしてしまう演技をしている。
M17のあとにも、話は続くのだが、やがて終演。カーテン・コールとなる。東京公演では、舞台の下の本当のオーケストラ・ピットでの生演奏だったが、大阪公演ではオーケストラ・ピットが見えない。これは、カラオケかなあと思っていたのだが、このカーテン・コールで唖然とした。何と舞台の後ろのセットを開けると、そこがオケピになっていて、そこで演奏していたのだ。これには「あっ!」と驚いた。この演出のほうが効果的ではないか! これだと最後に演奏者の顔が見れて、感動的だ。キャストと握手を交し合う姿も、気持ちいい。
大阪公演は千秋楽に見た。何回目かのカーテン・コールのとき、真田広之が「どうしても、この舞台に引っ張り出したい男がいます」と言う。ははあ、三谷幸喜だなと思う。「本人は嫌がっていますが」と添えたものの、「いないですよ」の舞台の混乱した声。そこへ、頭にデコレーション・ケーキを乗せた三谷が客席から登場。おもいっきり目立っている。出たがり屋の三谷だ、ただの演出では出てこない。三谷の音頭で1本締め。60公演で終わらせるには惜しい傑作の誕生だ。再演が待たれるなあ。また何回でも通うことだろう。