August.31,2000 あの夏の日の三ツ矢サイダー

        お互い浪人生活中のK君と、U君のアルバイトしているビアガーデンでビールを飲んだ翌日、私はO君に電話した。O君も同じ小学校のクラスメイトだった。もっともO君は、付属の高校から大学進学をすんなりと決めており、順調な学生生活を送っていた。4人で海に行かないかと誘ってみた。
「いつ?」
「U君のアルバイトが終わってからだから、8月の終わりだな」
「いいよ」
「ついてはさ、車なんとかならない?」

        O君は、18歳になると即、自動車の免許を取った。自分の車は持っていなかったが、親が経営する小さな会社のライトバンがあり、それが私の目当てだった。
「いいけど、会社のだから、使えるのは、土曜の午後から日曜にかけてだけだぜ」
「OK、それじゃあ8月の最後の土曜の午後から、日曜にかけて伊豆に泳ぎに行こう」

        これで電車賃は浮く。あとはガソリン代と有料道路代だけだ。これはアルバイトをしていたU君にたかるつもりでいた。8月最後の土曜日の午後、私とK君は、O君の車に乗って、U君の家に迎えに行った。もう午後だというのに、U君はまだ寝ていた。
「おい、起きろよ。早く海へ行こうぜ」
「海? 海って何だ?」
「おいおい、一緒に海へ行こうって約束したじゃないか?」
「そんな約束したっけ?」
「冗談じゃないぞ、憶えてないのかよ」

        寝ぼけ眼のU君を無理やり着替えさせようとした。
「勘弁しろよ。昨夜、アルバイトが終わってから、アルバイト仲間と朝まで飲んでたんだ。二日酔いで頭が痛いんだ。もう少し寝かせてくれよ」
「車の中で寝りゃあいいじゃないか」

        嫌がるU君を車に入れ、私達は出発した。首都高速の入口に来たときだった。
「U君、高速代払ってくれない?」
「えっ? 俺、金無いよ」
「無いって、この夏アルバイトしてたんだろ? 昨日、ギャラ出たんだろ?」
「ああ、でも昨夜全部使っちゃったもん」
「一晩で?」
「ああ、いろいろ前借もしてたからなあ。残りは昨日一晩で使っちまった」

        アテが外れてしまった。仕方ない、一般道で行くか。当初、夕方前には海につき、ひと泳ぎと思っていた。それが伊豆の海に着いたころは、すっかり日が落ちていた。伊東でラーメンを食べ、さて、今夜は何処へ泊まるか思案した。車を運転してきたO君は車の中で寝ると言う。残りの私ら3人は、オールナイトの映画を見て、そこで寝ることにした。東映の任侠映画2本立てに入った。健さんが、藤純子が、一晩中、悪いヤクザと闘っていた。やがて眠りに落ちた。

        翌朝、太陽が昇ると同時に海に行った。波はかなり高かった。それでも私達は、海に入っていき、波と戯れていた。サーフィンなんて、日本にはまだほとんど知られていなかった。ボディサーフィンで波に乗り、波うち際まで運ばれる。波が返ると波の渦に巻き込まれ、体が翻弄される。K君と私は、それが楽しくて、飽きずに何回も繰り返して遊んでいた。O君とU君は、早々と切り上げ、浜辺に寝転がり、体を焼いていた。

        9時ごろになり、海の家の人が現れた。もっとも、もう海水浴客の数も少なく、海の家もぞくぞくと諦めて店をたたんでいた。泳ぎ疲れたK君と私は、その数少ない店の1軒に入ると、飲み物を買った。当時は、まだまだ缶は少なく、瓶だった。コカ・コーラにしようと思ったが、K君が三ツ矢サイダーにしようと言った。コーラよりもサイダーの方がはるかに1本の中身の量が多く、得だと言うのである。

        K君と私は、三ツ矢サイダーを飲み、休憩すると、また海へ入った。疲れるとまた、海の家で三ツ矢サイダーを買った。昼近くなっていた。さすがにふたりも疲れ、ぼんやりと海を眺めていた。サイダーを飲みながら私は言った。
「なんだかさ、小学校を卒業してから6年も経つけれど、まだ、もう高校を卒業しちゃったんだという実感がないんだよ。まだ気持ちが小学生のままみたいなんだ」
「俺だってそうさ。あのころと、まるで変わっちゃいない」
「・・・・・・これから、俺たち、どうなるんだろうね」
「・・・・・・ああ」

        海はあいかわらず荒れていた。海の家の流すラジオのニュースが台風の接近を知らせていた。


August.28,2000 あの夏の日の初めてのビアガーデン

        頭は悪いし、勉強は嫌いだったから、大学に行くなんていうことは考えてもいなかった。中学まで出たら就職するつもりだった。それが「高校くらい出ておけ」と言われ、「それじゃあ、商業高校にする」と言って都内の商業高校に進学した。それが卒業間際になって、世の大学生のキャンパス・ライフに憧れ、突然、大学進学に変更した。ようするに、ただ、もう少し遊ぶ時間が欲しかっただけである。商業高校で、ほとんど普通科の勉強なんてしなかったから、当然のごとく受験に失敗し、浪人生活になった。それでも、気にならなかった。人生なんてまだ長い。どちらかというと、この状態を楽しんでいた。

        その年の夏、参考書を買いに、神保町に行った。駿河台下の交叉点の信号を渡ろうとすると、前方から、懐かしい友人が歩いてくるではないか。小学校で一緒だったK君である。「やあ、どうしてる?」。喫茶店に移動して話しているうちに、お互い浪人同士だということが判明した。K君は昔から理工系に強かったが、東工大を受験し失敗したと言う。今、駿河台予備校に通っていて、同じクラスメイトだったU君も一緒だと言う。

        そのU君が、昼間は予備校、夜は丸の内のビルの屋上でビアガーデンのウエイターのアルバイトをしていると言う。ちょうど夕方になろうとしていた。「ねえねえ、これからそのビアガーデンへ行かないか?」。どちらが言い出したか忘れたが、そのビアガーデンに乱入する話があっという間にまとまってしまった。

        確かにそのビアガーデンでは、U君が働いていた。
「やあ、久しぶり!」
「おう、どうしてる?」
「U君と同じく浪人中」
「しょーがねえなあ」
「ねえ、ビール飲ませてよ」
「金は?」
K君も私も帰りの電車賃を差し引くと、有り金は500円づつしかなかった。
「これだけ?」
「うん、これだけ」
「これじゃあ生ビール一杯と、せいぜい枝豆くらいだぜ。しょーがねえなあ、後で主任の目を盗んでビールのお代わりとツマミを適当に持ってきてやるよ!」

        U君は、言葉どおりせっせとツマミを持ってきてくれた。Kくんと私は、それでビールを飲んだ。まだ酒を飲んだ経験は、ふたりとも、あまりなかった。ジョッキ二杯で、フラフラになってしまった。まだ働いているU君に、「近いうちに海に行こう」と声をかけ、ビルを出た。将来がまるで見えていないふたりは、真夏の夜の丸の内のビル街を歩きながら、また、いろいろな話をした。小学校時代の思い出、そのころのクラスメイトの消息、今の生活のこと。歩き回るうちに酔いはさらに増した。「じゃあ、また。夏の終わりには海へ行こうな」と言葉を交わし別れた。

        私はかなり酔っていた。少し酔いを冷まそう。K君と別れた後、丸の内のビルに寄っかかり、空を見上げていた。空には星がほとんど見えなかった。「俺、この先、どうなるんだろう」。まだ10代の夏、金はなかったが、時間だけはまだまだあった。


August.26,2000 仁義なき戦い・新宿ラーメン死闘編

        福岡に転勤になった友人が、年に2〜3回東京に出張に来て、ウチに顔を出す。彼にとっての楽しみは、ウチの蕎麦を食べることと、鰻屋、そしてラーメン屋に行く事。

        鰻の蒲焼は東と西では調理法が違うのはご存知だろう。鰻を背開きして、一度蒸してから焼く東京式に対して、西の調理法は腹から開き、蒸さないでそのまま焼く。私は西の調理法も好きで、西へ行くと喜んで鰻屋に入る。私の友人もけっして西の調理法が嫌いというわけではないが、東京に帰ってくると無償に東京の鰻が食べたくなると言う。

        そして、ラーメン。福岡では、どこへ行っても白い豚骨スープなのだと言う。「東京の醤油味が恋しい」などとのたまう。「福岡だって醤油味の店くらいあるだろう?」「ないない、まるでない」。そんなもんかなあ。東京なんて、全国のラーメンが集合しちゃって、何でも食べられる。

        九州のラーメンのスープは白いのだと初めて知ったのは、会社員時代に出張で福岡へ行ったときだろう。これを東京で食べられたらいいのになあと思う間もなく、東京はあっという間に豚骨ラーメン勢力に乗っ取られてしまった。中でも私が気に入ったのが、新宿3丁目にオープンした熊本ラーメン[桂花]。豚骨スープに太くて固ゆでの麺。自慢の豚の角煮が入っているターロー麺は、角煮にぶつ切りのキャベツ、コンブなどが入っていて、ちょっとしたカルチャー・ショックだった。その後、東京でも[桂花]はチェーン展開して、あちこちに店舗があるが、私はやっぱり新宿3丁目店へ行くことが多い。

        先月のことである。[桂花]新宿3丁目店の前を通りかかって、びっくりしてしまった。なんと[桂花]のすぐ隣にラーメン屋がオープンしていた。しかも、列ができているのである。[桂花]も客がかなり入っていたが列ができるほどではない。よりによって、この超有名なラーメン屋の隣に同業の店を開店させるという自信は何なんだ?

        その店の名がまた凄い。最初、店名がわからなかった。壁になにやら、ごちゃごちゃといろいろな文字が書いてある。やがてその中でも1番大きな字で書いてあるのが店の名前であるらしいと見当がついた。その店の名前はジャーン[桜吹雪に風が舞う]。こ、これが店の名前かあ?

        その日は、お腹が一杯だったし、列に並ぶのは嫌なので帰ったが、今月に入ってたまたま、またこの店の前を通ったら列がなかったので入ってみた。この店も豚骨味を売物にしている。店に入るとレジがあり、まず訊かれるのが、あっさり味の[とんこつしぼり]か、こってり味の[まんぴか]のどちらにするかということ。どちらも750円。とりあえず今回は[とんこつしぼり]を選択。トッピングがいろいろできるというので、全部入っている[満開盛り]というのを作ってもらう。全部入れると450円。750円+450円で1200円だ。

        注文をしてカウンターにつくと、おしぼりがでる。これもうれしい。店員もわりと感じがいい。しばらくして、注文した[とんこつしぼり満開盛り]が出てくる。ネギの嫌いな人のためなのだろうか、刻んだネギは別皿で置いてある。しかも、このネギの量たるや常軌を逸しているほど大量山盛り。全部入れたら、他の具が見えなくなってしまった。[満開盛り]の具は、味付け卵、からし高菜、ぴり辛ネギ、チャーシュー、豚角煮。これで450円増しは良心的か。

        さて、肝心のの方なのだが、残念ながら[桂花]ほどの衝撃はなく、「こんなものか」という気がした。具もさすがにこんなに入ってしまっていると、もうお腹一杯で食べきれない。今度は、こってり味の[まんぴか]を試してみよう。

        ところで、店の心配りは気持ちよかったのだが、隣に座った若い女性が自分のラーメンが出てくる前に、たばこを吸いっぱなしだったのには参った。隣の私は、たばこの煙に、むせりながらラーメンを食べることになってしまった。思いきって店内禁煙にして欲しいくらいだが、私の店も禁煙ではないので、強いことは言えない。でもさあ、常識として、カウンター席で、すぐ隣で他人が食事しているんだから、たばこは遠慮するのがマナーなんじゃないかな。


August.22,2000 ジャンボ・プリッツたこ焼き味

「ただいまー! これさ、大阪土産のジャンボサイズの[プリッツ]たこ焼き味だよ。近畿地区限定だから、東京で買おうと思っても買えないんだ。めずらしいでしょ。喜ぶと思って買ってきちゃった」

「お前、[限定]という文字に弱いだろう。夏季限定とか、一日10食限定とか書いてあると、すぐに飛びつくものなあ。それにしてもお前、どうして土産物のセンスないの?」
「大阪土産にセンスなんて望む方がおかしいんじゃないの。新大阪の駅で一緒に売ってたのが[大阪あんプリン]だぜ」
「何それ?」
「抹茶風味のプリンの中に粒あんが入ってるの」
「なんだか、あんこは余計な気がする。せっかくの爽やかなプリンにあんこはぶち壊しだろう」
「しかも、塩昆布付きだぜ」
「うへー」
「そのとなりに置いてあったのが、神戸の[神戸プリン]と[神戸チーズムース]。やっぱり神戸の方が洒落てるよね」
「だいたいさ、プリッツをでかくして、何の意味があるというんだ? 邪魔だし食いにくいだけじゃないか。プリッツってさ、前歯でポキッと折りながら食べるところがいいんだろ? リスにでもなった気分でさ。何これ? プリッツってバーやスナックの簡単なオツマミとして、グラスに差したりして出て来たりもするじゃない。そういう、洒落た市民権を得たものなんだよ。イメージぶち壊しじゃない」
「まあ、いいじゃない」
「しかもだぜ、何でたこ焼き味なんだ。たこ焼き味にする意味がわからねえ」
「あれ?お前、たこ焼き、嫌いだったんだっけ? 俺は好きじゃないけどさ」
「そうじゃなくてさ、たこ焼きなら本物のたこ焼き食えばいいじゃないかってこと。そっちの方が旨いに決まってるんだもの」
「これはさあ、おそらく大阪の人は食べないと思うよ。だって、新幹線のキオスクあたりにしか置いてないもの。街中は、もうそこいら中、たこ焼き屋とお好み焼き屋だらけだもの」
「大阪人の家庭には、必ずたこ焼き用の丸い穴のいくつも空いた鉄板があるっていうものな」
「だいたいタコっていうのが、タコだよなあ」
「お前何言ってんの? お前がたこ焼きが嫌いっていうのは知ってたよ。でも今月のホームページ読んでて、薄々感じるんだけど、お前、大阪の食い物を内心バカにしているだろ!」
「めっそうもない」
「ほんとうかあ? 大阪人、読んでるかもしれないぞ?」
「誤解だってぱー! そういうお前こそ、さっきからの発言はヘンだぞ! ところで、それじゃ、このジャンボ・プリッツは気に入らないみたいだから、いらないんだな?」
「いや、せっかくのお土産だもの、いただきますよ。俺はお前と違って、たこ焼き、好きだしさ。―――俺の胃袋は宇宙だあ」
「お前、本当に、大阪、バカにしてないだろうな」
「してないって。じゃあこれ、いただいて行くよ。じゃあな」
「ちょっと待て。俺の前で味見しててってよ。本当に好きなら、食べてみせて『美味しい』って言ってみせてよ」
「わかったよ、味見してみせればいいんだろ。味見してみせれば! くそっ」
「なんだよ、その『くそっ』っていうのは」
「(もぐもぐもぐ)、うん、旨いじゃないか」
「そうかい、そりゃあ良かった。もっと食ってみせてくれよ」
「いや、もう勘弁してくれ」
「やっぱり不味いんだろ」
「いや、そうじゃないんだが、口の中がコテコテのソース臭くて後味が悪いんだ。悪いが茶を一杯くれねえか」
「へえんだ、大阪人がたこ焼き食って、そのあと茶なんて飲むかあ?」
「大阪のバーでは、たこ焼きプリッツをツマミに酒呑むのかなあ」
「やっぱり、大阪、バカにしてるだろ?」
「してないって!」


August.19,2000 のぞみ弁当

        新大阪駅で、[のぞみ]に乗って東京へ帰る。実はもう源内さんたちと夕食は済ませ、お腹はいっぱいだったのだが、[のぞみ弁当]を見つけてしまった。これ、[のぞみ]の車内でしか買えないというのだけれど、新大阪駅の構内で売っていた。東京駅でも見かけたことあるしね。でも、これはやはり[のぞみ]の車内で食べるものとヘンに頑固に思っていたから、今回こんなチャンスはちょっとなかなかあるまいと勝手に自分を納得させて購入。ふふふ、これでまたデブになるなあ。シクシク。俺の胃袋は―――宇宙だあ。いただきまーす。

左側がご飯。
左上は酢飯で、金糸卵ワラビ紅ショーガが乗っている。
左下は帆立とマイタケの炊き込みご飯。それにグリーンピースが散っている。
オカズ。
煮物。餅入り油揚げ里芋人参
焼魚フライドポテトのベーコン巻き蒲鉾
野菜を鶏肉で巻き煮こんだものシシトウ
カニカマとコーンのマヨネーズ和えパセリ
桜漬け

        ごちそうさまでした。


August.12,2000 浪速定食

        こんな仕事をしていながら、つい最近まで知らなかったことがある。どうやら、西の方では[鍋焼きうどん]に海老の天ぷらを入れないらしいのである。東京では、何処でも必ず大きな海老の天ぷらが入っているのは常識のようになっている。それで今回大阪に行って確かめたかったのは、大阪では本当に[鍋焼きうどん]に天ぷらを入れていないのかということ。

        大阪の蕎麦屋のサンプル・ケースを眺め歩いた結果、これは本当のことでありました。どの店でも海老の天ぷらが入っていない。中には茹でた海老を入れている店があったけれど、天ぷらは入れていない。どうしてかなあ、あれ入れると美味しいのに。海老の天ぷらの入っていない鍋焼きうどんなんて、寂しいと思うけれどなあ。これも文化の違いか。

        となると、今1番気になるのが、名古屋ではどうなのかということ。海老好きの名古屋人が鍋焼きうどんに海老の天ぷらを入れていないというのは、ちょっと考えられないことなのだけど・・・。実は来月末、名古屋に行くので、しっかり見てこよう。

        大阪の食文化といえば[粉もん]。たこ焼き、イカ焼き、お好み焼き、それに、けつねうどん。大阪人って、どうしてこんなに炭水化物が好きなんだ? よく大阪の[食い倒れ]なんていうけど、そりゃ、こんなに炭水化物ばかり食えば倒れるよ。あとは、てっちりにてっさか? これも毒にあたれば倒れるさ。

        今回の大阪行きでも、結局、たこ焼きもお好み焼きも食べずに帰ってきてしまった。もともとたこ焼きというもが、あまり好きではない。回りがカラッとして、中がねっとりとしているのがいいというらしいが、私あのねっとりというのが好きになれないのですね。小麦粉を溶いたものをナマで食べさせられているような嫌な感触がある。

        お好み焼きに関しては、私、我が家で作るものに絶対の自信を持っているのだ。はっきり言おう。今まで外で食べたどのお好み焼きも、私は旨いと思ったことがないのである。鈴木を真似して、私はお好み焼きの店を出そうかなあ。そのレシピは秘密だが、ちょっとだけヒントね。中には、かなり反則技もあるけれどね。
(1)卵は多く
(2)翁庵特製の蕎麦汁
(3)翁庵特製の揚げ玉
(4)パン粉
(5)バター

        『オケピ!』を見に厚生年金会館に行ったとき、見る前に食事をしようということになった。同じ建物の中にあるレストラン[パピエ]に入る。このときに源内さんが注文したのが、[浪速定食]なるもの。どんなものが出てくるか楽しみにしていたら、ざる蕎麦、にぎり寿司、天ぷらが入っていた。おい! これのどこが[浪速定食]だっちゅーねん! おもいっきり江戸前してるやんけ。[浪速]いうからには、けつねうどんと、押し寿司と、たこ焼きと、お好み焼き入れたらんかい!


August.10,2000 アウトドア焼肉

        『蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く』を見終えて、生嶋、源内さんと食事をしようということになった。さて、何を食べようか? 源内さんが雑誌の切りぬきを取りだし、鶴橋にある[万正]という焼肉屋に行きたいと言う。他に当てもないから、即決定。タクシーで鶴橋に向かう。

        焼肉はもちろん嫌いではない。しかし、随分とご無沙汰だ。鶴橋近くなって、源内さんが「あっ、あそこだ! [万正]と書いてある赤提灯が見える」と呟く。鶴橋の交叉点でタクシーを降りる。途端に焼肉のいい匂いがする。ここは、コリアンタウンなのだ。

        源内さんが不安そうに言う。「どうやら[万正]って人気の店らしいよ。今通りすぎた時に見たら、外に人がはみ出していたもの」。しばし相談。ここはコリアンタウン、何も[万正]にこだわらなくても、焼肉屋ならたくさんある。適当な店に入ろうか、それとも初志貫徹で、[万正]に並ぶか。せっかくここまで来たんだから行くだけ行ってみようという結論に達する。

        タクシーで来た道を歩いて戻る。あったあ、[万正]の文字の赤提灯。次の瞬間、3人は目と目を見交わせていた。なんとこの店は、店がないのである。あっ、変な表現でごめんなさい。ようするに、屋台なのだ。一応、調理場のようなものだけは家屋としてある。しかし、客が食べるスペースは道路。客が外にはみ出していたのではなく、元からちゃんとした店はないのだ。

        アウトドア用品屋で売っているような折りたたみ式の椅子に座る。太ったオバチャンが近づいてくる。「何にする?」。調理場の壁に貼ってあるメニューらしきものを見る。なんとここには、通常お馴染みの、カルビとかロースとかレバーいうものがない。かろうじてわかるのは、タン塩とハラミくらい。「あのー、生ビール三つとね、タン塩とハラミ。それからねえ、ううんと・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・」「何か適当に出しましょうか?」「うん、それでいいや」

        かなりムチャクチャな注文になってしまったが、生ビールが到着。とりあえず乾杯。目の前は高さ10cmくらいの低い机(というより台)がある。そこに、炭の熾きた七厘が運ばれてくる。これに炭を掴む大きなハサミを横たえ、網を乗せる。

        白菜キムチ、キムチモヤシ、キャベツのぶつ切りと共にタン塩が運ばれてくる。さっそく網に乗せる。火力が強い。うかうかすると、あっという間に肉が炭になってしまう。取り皿はアルマイト製。なんだか刑務所で焼肉を食べているよう。次にハラミ到着。旨い! ほほう、なかなかやるではないか、この焼肉屋。

        夜風に吹かれながらのアウトドア焼肉は、キャンプにでも来たみたいで、開放感があってなかなかいい。オバチャンが、調理場の若いもんに小言を言っている。「なにぐずぐずしてんだよ! 早く次の肉持っておいでよ。ほんとにグズなんだから。気が利かないったらありゃしない」。オバチャンに話しかける。「ここ、雨降ったらどうすんの?」「テント張ってやるんだけどね、テントは嫌だねえ」

        調理場の壁に古くなった張り紙が1枚。「お客様へ。夜10時以後は、近所の人に迷惑になりますから、お静かにお願いします」。ゴロッとしたぶつ切りの肉が到着。かなり大きなサイコロ状の角切り肉だ。これが柔らかくて旨かった。

        壁に[どぶろく]とある。マッカワリだ! カルピスに似たこの酒、焼肉に合うのだ。さっそく注文。なつかしいなあ。上野のある焼肉屋にあって、この店には通いつめたものだったが、随分前に店を閉めてしまい、飲めなくなってしまった。母もこのマッカワリが気に入っていて、ソウルへ行ったとき、ガイドにマッカワリを飲める店に連れていってくれと言ったそうな。ガイドいわく、もう韓国では、そんなもの飲まないという。それでもどうしてもと頼むと、八方捜してくれて、学生街へ行くと今でもあるというので、そこまで行って飲んだという。ガイドにとっては迷惑な客だが、言ってみるものですね。

        源内さんいわく、「この店の肉は、不思議と胃にもたれないね」。源内さん、また行こうね。


August.8,2000 ちんじゅうないちゃ

        梅田の[Loft]の前に、こんな屋台の車が止まっていた。

        ちょっと見にくいかもしれないけれど、右の水色の看板、夏季限定販売とあって、志村けんと金城武が台湾の屋台の前で、このアイス・ミルク・ティを飲んでいる雑誌の切りぬきが貼ってある。これ、どっかの航空会社のキャンペーン用のチラシだったような気もする。ま、ようするに台湾で流行りのドリンクらしいのね。

        それで、こういう珍しいのに目が無いものだから、さっそく車の中のお兄さんにジャスミンミルクティを注文。車の中は暑そうだ。それでも「ありがとうございます」の声と共に、カクテルを作るシェイカーの中にミルク・ティとシロップと氷を入れて、カシャカシャカシャとようく振る。容器になにやら大きくて黒い球形の物体を大量に入れ、その上から、このシェイクしたアイス・ティを注ぐ。蓋をして、ぶっといストローを刺して、「はい、おまちどうさま!」

        

        飲んでいると、下に沈んでいる黒い玉が時々口に入ってくる。だから、異様に太いストローなんですね。この黒い球体、何だろう? 源内さんに言わせると、タピオカじゃないかと言うのだけれど・・・。口に入った瞬間はコンニャクのような口触り。噛むとモチモチとした弾力性のある食材でした。


        ええっと、まずは前回と前前回の補足から。

        東京駅の幕の内弁当[相撲]なんですがね、食べているときも、あれを書いていたときも、どうも頭に引っかかるものがあったんです。それは何でオカズの中に〆鯖が入っているんだろうということ。〆鯖入りの弁当なんて、前代未聞じゃないの? 鯖の押し寿司はあったろうけれどさ。何で〆鯖なのか、どうも気分がしっくりこないので考え込んでしまったんですよ。相撲に締め技なんてあったろうか? 喉輪というのはあるけれど、あれは決まり手じゃないしなあ。しばらく考えていたら思いつきました。あれはきっと「マワシを締める」→[〆鯖]というシャレのつもりなのではないだろうか? とすると私、もうひとつの[歌舞伎]に何が入っているか気になってきた。きっと「ミエを切る」→[切干大根]と予想したのだが、どうだろう。今度東京駅に行ったらば[歌舞伎]を買ってみよう。

        それと、チェリオで後になって思い出したのだけれど、湾岸戦争の直後、[砂漠の嵐]なる清涼飲料水を出したことがあるのだ、この会社は! 味は忘れてしまったけれど、何というネーミングのセンスなんでしょうね、まったくもう。

        というわけで、今日の分に入ります。

August.6,2000 ハイシライス

        大阪の街をブラブラ歩きながら、昼食は何にしようかとサンプル・ケースを覗きながら迷っていたら、こんなのを見つけてしまった。

        てっきり書き間違いだと思った。ハヤシライスだろう?これは! ところが難波にあるゴチャ混ぜカレーで有名な洋食屋[自由軒]でもハイシライスになっていた。東京に帰って大阪にしばらくいた人に聞いてみたらば、当然のように「大阪ではハイシともハヤシとも言うんだよ」と涼しい顔で答えた。そういえば、大阪でも古い洋食屋だとハイシ、新しい店だとハヤシになっていたような気がする。

        しかし、何でハイシって言ったのだろう。新しい店はハヤシと言い始めたとすると、いずれハイシは廃止されるでしょう―――って、あっ、ごめんなさい。いつもの親爺ギャグです。


August.4,2000 ブルース・コーヒー

        [チェリオ]っていう清涼飲料水メーカー、以前は東京でも販売していたけれど、なぜか今では西の方に行かないと売っていない。今回大阪に行って、またまた見つけましたよ、[チェリオ]の自動販売機。お目当ては、このブルース・コーヒー。単に[ブルース・コーヒー]というネーミングっていうだけで、味はごく普通の缶コーヒーなんですけれどね。ブルース・ファンってバカだなあと思うのだけれど、これ見るとついつい嬉しくなってしまう。

        10年以上前にこの缶コーヒーの存在を知り、名古屋や神戸へ行くたびに、何本も重たい思いして東京に持って帰ったりしていました。何でも社長さんがブルース・ファンらしくて、そのうち紅茶も作って、それはリズム紅茶という商品名にすると言っていましたっけ。あわせてリズム・アンド・ブルース。シャレのわかる社長さんですなあ。もっとも、今だにリズム紅茶が見つからない。本当に出したのだろうか?

        なお、同じ自動販売機で売っている[ライフガード]とかいう飲料水、あれなあに? てっきりアルカリ・イオン飲料だと思ったら、メロン・シロップをムチャクチャ甘くした炭酸飲料みたいな味。ネーミングとは裏腹に、ものすごく体に悪そうなシロモノ。ウゲーッ!


August.1,2000 幕の内弁当[相撲]

        新幹線ひかりで大阪に向かった。東京駅で駅弁とビール。今、東京駅の幕の内弁当は[歌舞伎][相撲]の2種類。どちらも幕間に食べるものだから、正しいといえば、正しい。でも、新幹線の中だからなあ。誰か車内で歌舞伎か相撲をやらないかなあ。どちらも初めて食べるものだから、どちらにしようか迷ったが今回は[相撲]にした。

        ひかりが動きだして、ビールをプシュ。ングング、プハーッ! いやあ、旅行の醍醐味はこれですな。さあて、恒例の中身のチェック。
〆鯖
野菜の煮物(コンニャク、筍、ふき、人参)
焼魚、鳥の牛蒡巻き、卵焼き、蒲鉾
牛肉の旨煮
沢庵
ご飯、梅干、ごま塩

        あれえ?、相撲弁当って、ご飯の上に餅が乗っていて、周りに団子と焼きそばが入っているやつじゃないのかなあ。あっと、それは京極夏彦の『どすこい』に出てくる[力士弁当]か!

このコーナーの表紙に戻る

ふりだしに戻る