ソウルで食べたカルビクッパ もう30年近く前だから、四半世紀も前のこと。私は友人と韓国へ旅行した。下関で待ち合わせ、フェリーで釜山に渡り、バスで慶州で移動して一泊し、鉄道でソウルに入った。 ホテルに泊るのも風情が無いので、市内の旅館(よぐぁん)に泊った。当時は市内に戒厳令が敷かれていて、夜中の外出が規制されていた。私に割り当てられた部屋は玄関口だった。家に帰るのが遅れたらしい客が夜中に飛び込んできて、その物音でよく眠れなかったのを憶えている。 朝、友人とふたりで朝食を食べに街に出た。朝食をやっている店は少ない。それこそホテルにでも行けば、全世界共通であるようなブレックファーストは食べられるのだろうが、私たちはこの国の朝食が食べたかったのだ。 街をうろつくうちに、やけに賑わっている店が目についた。私たちの旅行の心得は、「賑わっている店に入れ」。賑わっている店は必ずおいしいものが食べられる。これが鉄則だったからだ。 私たちは、その店に入った。ちょうど先客のひと組が帰るところでテーブルがひとつ空いた。言葉もわからぬままにそのテーブルにつくと無愛想な店員がやってきた。注文をしようにも言葉はわからない。しかし回りの人たちはみんな同じものを食べている。店員も無言。ここはひとつのメニューしかないらしい。 先客が食い散らかしたテーブルには丼とスプーン、それに牛の骨らしい塊がテーブルに直に転がっている。店員は骨を床にぬぐい落とし、フキンでテーブルを拭き始めた。それに気がついて床を見ると、床は叩き落とされた骨がゴロゴロしている。そしてその骨を目当てにしているのか犬が店内にうろついている。 やがてひとりの少年が店に入ってきて、何事か話しかけてきた。言葉はわからないが、ようするにこの少年は靴磨き。サンダルを差し出して、靴を脱いでくれれば外で磨いてくれるということらしい。靴を脱ぎサンダル履きになる。これで気分はソウルっ子。 料理はほどなく到着した。これが今思うに、いわゆるカルビクッパだった。日本でいうところの雑炊。大きな骨がゴロッと入っていて、それに少量の肉がこびりついているといった感じ。その骨にかぶりついて肉の残骸を食いちぎる。そのうまかったこと。食べ残した骨はテーブルの上に残す。それがこの店のルールらしい。きっとまた私たちが去ったあとは床に落とされるのだろう。 今まだこの手の店が存在するのかはわからない。しかし今思い出しても、あの店はパワフルで、あのカルビクッパは旨かったなあと思うのである。 2010年1月2日記 このコーナーの表紙に戻る |