October.30,2000 トイレで一緒だったのは!

        今年も渋谷で映画祭が始まった。思い起こせば、去年の映画祭シーズンは、このホームページを立ち上げる寸前で、もう頭の中はグチャグチャになっていた。それでも見に行ったものなあ。今年もなんだかんだと忙しいのは一緒なのだが、未公開作品が安い料金で、いち早く見られるとなると行かないではいられなくなる。

        さあて、今年の始めは東京国際ファンタスティック映画祭のオープニング企画[英雄伝説イーキン・チェン]から。午前中に片付けておかなくてはならないことが多くて、会場の渋谷パンテオン、12:40PMのスタートに5分遅れて入場。

        舞台ではアクション監督ブルース・ロウを追った短編ドキュメンタリー上映を前に、ブルース・ロウがインタビューを受けている。早く席につかなくちゃと思ったものの、まずはトイレへ行かなくちゃ。男子トイレで用をたしていると、すぐ横の便器に黒の皮ジャンに黒の皮パンツ、長身、長髪の男が立った。「あれ? この映画祭に来る客層としては珍しいタイプだなあ」と思った。どちらかというと男はオタクっぽいのが多い。で、横を向くと相手もこっちを向いてきた。げっ! イーキン・チェン本人ではないか。こうして私はイーキン・チェンと連れションした男となってしまった。ラッキーというか何というか・・・。その後、イーキンは鏡の前でヘアメイクに余念がないようだったが、私は自分の席へ。

        ブルース・ロウの挨拶が終わり、『猛龍特技 香港アクション伝説』上映。アンディ・ラウやチャウ・シンチーへのインタビューを挟みながら、ブルース・ロウの作るアクション・シーン撮影現場の様子が紹介されていく。ハリウッドのように分業化がされていない香港では、アクション監督は、カー・チェイスだろうが爆破だろうが殺陣だろうが、全てをこなさなければならない。少ない予算の中でもアイデアで斬新な映像を作っていく。台北で見た『フル・スロットル/烈火戦車』など、日本語字幕なしだったということもあって、つまらないなあと思っていたのだが、あのオートバイの街道レース・シーンは、こうやって撮っていたのかと思うと、感心してしまった。ストーリーばかり追わず、もっとしっかり映画を見なければと反省。

        10分の休憩後、いよいよイーキン・チェンの登場。トイレで会ったままの服装だ。ファンタのプロデューサー小松沢陽一から通訳を介してインタビューがある。それを横からカメラがとらえ、後ろのスクリーンに投射された。

        もうイーキンが出てきた瞬間から、女性客の黄色い声があがる。盛んにフラッシュが焚かれる。小松沢陽一が「あとで、写真撮影の時間をもうけますから、ちょっと今はフラッシュを焚かないでください」との注意。それでも止めないのが多い。

        この日上映される二本は、どちらも監督がアンディ・ラウ。去年やはりイーキン、アンディのコンビの『風雲ストームライダース』がここで上映されたし、その前にもやはり同じコンビで『古惑仔』シリーズが上映された。アンディ・ラウとの相性がいいのかだろうかと小松沢氏が尋ねると、アンディ・ラウがまだカメラマンでイーキン・チェンがまだ売れてないころ、アンディ・ラウが「僕が監督になったら、君を使うからね」と言ってくれたというエピソードを聞かせてくれた。このほか、現在2本の映画の撮影に入っていることなどが語られた。

        インタビューの終わりに、小松沢さん、女性ファンの行動がカンにさわったのか、ちょっと一言。「あなたたちの気持ちもわかりますが、イーキンさんは、この場に自分の映画のことを語りたくて来てくださったのです。せっかくイーキンさんが映画のことを語っているんですから、静かに聞いてください。写真撮影の時間は別に設けると言ったじゃないですか。イーキンさんはスターである以前に映画を愛する映画人なんです。そのことを分かってあげてください。失礼ですよ。お断りしておきますが、上映中はスクリーンに向かってフラッシュを焚かないでください。そんなことをしても写りません。また、映画を見ている人に大きな迷惑がかかります」 そしてイーキンの写真撮影タイム。あっ、上の写真はインタビュー中に撮ったものですがフラッシュは焚いていません。それにちゃんとイーキンの話は聞いていましたよ。

        さて、一本目の『決戦・紫禁城』が始まったのですが、出だしは快調。イーキン・チェンが山奥の茶屋を舞台に大立ち回り。ワイヤー・ワークにSFXを加えた映像は『風雲ストームライダース』『中華英雄』に続き、さすが。ただし相手が年寄りと女性ばかりというのは・・・、はて。そのあとにアンディ・ラウが紫禁城に空から現れて、イーキン・チェンと、この紫禁城で、どちらが強いか闘うと宣言。おお、これは面白そうだというオープニングだ。

        ただし、このあとがいけない。1時間46分もある上映時間で、紫禁城での決闘シーンがクライマックスにくるのは仕方ないとしても、そこまでの長いこと。しかもイーキン・チェンもアンディ・ラウも出番が少ない。場をさらうのがニック・チョンなるチョビ髭のオッサン。ほとんど、この人しか出てこない。途中、睡魔に襲われてしまった。

        さあ、いよいよイーキンとアンディの決戦だと思ったのだが、よく考えてみると、なぜ紫禁城なのか、なぜ決戦の日まで時間がやたらあるのかが不明。決戦シーンはまあ迫力があるのだが、なんと5分とない。そして、上の疑問が最後で分かるのだが、なんじゃ、こりゃ。

        後ろに座っていた女性グループが「なんや、イーキンほとんど出てないやないか」と言っていたが、まったくそのとおり。ご同情申し上げます。

東京国際ファンタスティック映画祭公式ページ


October.13,2000 もうマンネリだと思うけど・・・

        アンドリュー・ラウという人は何を考えているのだろうかと思ってしまう。96年に『古惑仔(こわくちゃい)』シリーズの1作目を撮って、大ヒット。つづけて2作目、3作目と撮り続けていたものの、なんだか私には彼のテンションが段々に下がってきているように思えてならなかった。日本でも『欲望の街』というタイトルがつけられて4作目まで公開されたが、どうも本人は3作目までで止めるつもりでいたらしく、その4作目『新・欲望の街 97古惑仔最終章』などを見ると、もう明かにやる気をなくしているように思える。どうやら、3作目が興行的には相変わらず成功だったらしくて、無理やりに撮らされたという感じなのである。

        私は、もうこれでアンドリュー・ラウは『古惑仔』シリーズとは縁を切ったとぱかり思っていたのである。それが何と私は知らなかったのだが、香港ではすでに5作目が作られ、今年は6作目が日本ロケまでして作られている。

        そこへ、こんな映画まで日本公開されてしまう。『硝子のジエネレーション』。何だこの映画はと思っていたら、なんと『古惑仔』の外伝で1作目のさらに前の話。しかも監督も、またもやアンドリュー・ラウ。何とこれ98年の作品。4作目のすぐ後に撮ったものだ。あの、もう止めるつもりでイヤイヤ撮ったようなもののあと、またこんなことをやっていたのだ。どうやら彼は『古惑仔』と心中するつもりらしい。

        主演もイーキン・チェンからニコラス・ツェーにバトン・タッチ。なあるほど、去年の[ファンタスティック映画祭]で見た『ジェネックス・コップ』は、このあとの作品だったのかあ。あれで一緒に出ていたサム・リーも同じ古惑仔(チンピラ)役で出ている。そう見ると『ジェネックス・コップ』は、『硝子のジェネレーション』の雰囲気そのままで、刑事ものを撮ったというのが、わかってくる。

        しかしですねえ、これ、やっぱりあの『古惑仔』の1作目で見せたようなダイナミックな演出が見えてこない。1作目で大活躍の敵役ン・ジャンユー(今更フランシス・ンなんていわれてもピンとこないよね)も、そのままの役で出てきているのに、あのときほどの生彩がない。

        脚本も工夫したようで、背景に天安門事件がテレビから流れているという、時代性を出したあとも見られるのだが、どうもこの古惑仔との関連がいまひとつ見えてこない。

        はたして本家の『古惑仔』シリーズ5、6作目、どんなデキになっていることやら。6作目が日本を舞台にしたというあたり、何だか行き詰まっているような感じがするのだが。


October.8,2000 志の違い

        『X−メン』を見ていて、「あっ、これは山田風太郎の忍法帖シリーズだ」と思った。異形のミュータントが二組に分かれて出てきて闘う。そして、それぞれが得意技を持っている。アメリカの原作にあたるコミックスは読んでいないけれど、この映画には夢中になってしまった。

        結局、志の違いなのかもしれない。日本で映画化された忍法帖ものは、ことごとく失敗している。山田風太郎のワクワクするような世界を映像として具体化できていない。作る方も予算がない上に、原作に対する敬意がない。中には単なるポルノのつもりで撮っているとしか思えないのもある。見る方も「こんなものさ」とバカにしてかかっている。エンターテイメントに対する飽くなき挑戦の姿勢の違いなのだ。

        ハリウッドだって、『X−メン』に至るまでに、散々にコミックスの映画化の失敗作は作っている。特に作品名は書かないが・・・。しかし、それらの作品に接した時でも、この人達は真面目にコミックスの映画化に取り組んでいるという姿勢が感じられたのだ。それに引き換え、日本の場合はどうだろう。マンガの映画化だというだけで投げてしまっているような姿勢のものが多かったのではないだろうか。

        なんとなく私は『マトリックス』を思い出してしまった。あれだって、設定としてはほとんどコミックス。でも、姿勢としては、かなり志の高いものを感じる。

        『マトリックス』は『バウンド』を撮ったウォシャウスキー兄弟という、新しい世代の感覚をもった人が監督。そして、『X−メン』はあの『ユージュアル・サスペクツ』のブライアン・シンガー。インディーズの作家、しかもイギリス人が、『ゴールデンボーイ』をクッションにしたあとに、堂々とハリウッドで、しかもアメリカンコミックの映画化作品の傑作をモノにしてしまう。コミックの映画化の突破口は意外な才能から生まれてきたものですね。

        それと、この二本に共通するのは、最新SFX技術と、香港アクションの結合。うん、映画はますます面白くなってきたぞ。ところで誰か、真面目に山田風太郎の『柳生忍法帖』を撮ろうという人はいないのか。アイデア、ストーリーからいっても『マトリックス』や『X−メン』なんかよりも、はるかに面白いものが出来あがるはずなのだが・・・。

『X−メン』オフィシャル・サイト

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