November,26,2000 インドの珍品サスペンス
インドのある裕福な家。2階の寝室のベッドの上で妙齢の女性がネグリジェ姿で座り、電話をかけている。「あっ、ママ? ひとりで留守番は怖いわ。早く帰ってきてね」 電話を切るとテレビでニュースをやっている。連続殺人事件が発生している。犯人の手口は、ひとりでいる家へ言葉巧みに入りこみ、ロープで殺すというもの。女性の顔に恐怖の色が走る。外は雨。雷が鳴る。
インドの娯楽映画というと、『ムトゥ踊るマハラジャ』のように、ミュージカル仕立ての派手なものばかりだと思っていたこともあって、今年の東京国際映画祭で上映された『真犯人』にはびっくりした。踊りも音楽もなし。登場人物3人。一幕ものの芝居のように、舞台もある一軒の家のみ。上映時間も、てっきり3時間を覚悟していたら、1時間40分で終わってしまった。これがまた、まさに珍品といえる拾い物だった。
さて女性は、どうも室内に誰かいるのではないかと思い出す。どうも何者かが侵入したらしい形跡がある。広い屋敷内を不安な顔で調べていく。これだけのことを引っ張る引っ張る。10分くらいやっている。どうやら、飼っている猫だったらしいとホッとしたところで、玄関にチャイムが鳴る。覗きレンズ越しに見ると男がひとり立っている。「もしもし、〇〇さんのお宅ですよね」 「いいえ、違います」 「おかしいなあ、ここは△△街の××番地でしょ」 「そうです。でもウチは〇〇ではありません」
またチャイムが鳴る。覗いてみると、さっきの男。「すいません、雨に濡れてしまいました。ちょっと中に入れてくれませんか。服を乾かしたいので」 「いいえ、見ず知らずの人を家に入れるわけにはいけません」
またチャイム。さっきの男、「電話を貸してくれませんか?」 「公衆電話を使ってください」
こういったやりとりが続いたあと、その言葉の巧みさに騙されて、ついに女性は扉を開けてしまい、男を中に入れてしまう。男は見るからに怪しい。どうも、この男がニュースで言っていた殺人鬼らしい。この辺までで半分。インド映画恒例の休憩が入る。日本では続けて上映。
やがて、この家に刑事だと名乗る男が現れる。ところが、この男もどうも挙動がおかしい。女性は、この男の方が殺人鬼なのではないかと思いだす。
このあと、実はとんでもない展開になるのだが、もちろんそれは書けない。それなりに伏線も張ってあって、やられたなあと思うのだが、かなりヘンテコリンな映画である。東京国際ファンタスティック映画祭ではなく、東京国際映画祭で上映されたというのが、どうも理解しがたい珍品。
November.23,2000 真面目すぎて疲れた
『Lies/嘘』『ユリョン』と、どうも私には着いていけない韓国映画を見つづけたあと、今回3本目の韓国映画、もっとも期待していた『燃ゆる月』を見に、オーチャード・ホールへ向かう。今回は前日に睡眠たっぷりとったあと。アクションものらしいし、今度こそ楽しめそうだ。
『シュリ』のカン・ジェギュ監督が制作総指揮。カン・ジェギュの元で脚本、助監督を務めてきたパク・チェヒョンが監督。どうも私は世評ほど『シュリ』を買わないのだが、なんといっても超話題作であることは確か。この『燃ゆる月』、まだ韓国でも公開されていないという、ホッカホカの新作だ。監督がまだ韓国で手直しをしているとかで、来日、舞台挨拶はかなわなかった。
時代は古代。まあ、韓国版『コナン・ザ・グレート』の世界だと思えばいい。対立するふたつの部族メとファサンがある。ファサンの父、メの母の間に生まれたピは父に引き取られファサン族の娘として成長する。メ族はすっかり衰退している。そこにお告げがもたらされる。メ族を再興させるためには、ふたつの部族の子であるピを生贄に捧げなければならない。こうして、ピをめぐって、両部族の闘いが始まる。
どうです。面白そうでしょ。ところがですね、私にはつまらなかった。肝心のアクション・シーンがまるでダメ。アップばかりで、引きがない。闘っている主人公だけをカメラがアップで追い、襲ってくる敵がよく見えない。なんだか、ひとりだけで薙ぎ払っているシーンしか見えないから、どう戦っているのか、よく解らない。
自分の娘を父方に取られたメ族の母が、娘が一人前に成長するまで、何の行動もとらなかったというのが、かなりヘンな話で疑問が残るが、このメ族というのも落ちぶれたとはいえ、かなり強い戦士がたくさんいる。ファサン族なんて、あっという間に滅ぼせるんじゃないかという感じなのだが・・・。
ピをめぐって、ファサン族内での三角関係の話やらも、グチャグチャ、ドロドロで、どうもこういう話、私苦手なんですよ。『シュリ』、そして今回の映画祭での3本の韓国映画を見て、たった4本で結論をつけるのは無茶だとは思うのですが、どうも韓国映画って、遊びがないというか、真面目、真剣すぎる気がするんですよ。今、切実に見たいと思っているのが、韓国のコメディ。韓国人が、どのくらい[笑い]に対するセンスを持っているのか確かめてみたい。真面目一辺倒な映画は疲れるだけ。
November.20,2000 深く静かに睡眠
『Lies/嘘』を東京国際ファンタスティック映画祭のレイトショウで見て家に帰ったのが11時半すぎ。眠りについたのは深夜を回っていた。翌日も仕事だったから、いつものように午前4時半起床。ふわあ、眠い。一日仕事をこなして、さあてこの夜もレイトショウのチケットを買ってしまっていたのだ。韓国映画『ユリョン』。潜水艦ものである。なんだか面白そうだ。疲れた体を引き摺りながら、この夜も渋谷パンテオンへ。
上映前に配給会社の人が挨拶に立ち、いかにこの映画が面白くてよく出来ているか煽る煽る。「日本では『沈黙の艦隊』もアニメでしか映画化できないうちに、韓国では実写で面白い潜水艦ものを撮った!」 うーん、これは面白そうではないか。どちらにしろ、来年の公開時では、渋谷パンテオンのような大スクリーンの映画館での公開は無理のようで、この夜はまたとない機会。よおし、よおし気合入れて見てあげようじゃないの。
韓国の原子力潜水艦が極秘任務を受けて出航する。目的は艦長しか知らない。濁った海底を潜水艦が進む。ふわあ眠い。コクッ。い、いかん、今睡眠状態に入るところだった。ありゃ、誰かが艦長を殺しちゃったぞ。ね、ねむ・・・、グーグー。い、いかん眠ってしまった。ああ! 潜水艦内は大騒ぎだあ! でも、ねむ・・・、ZZZZZZZZZZ。な、何? あっ、今また眠ってたな俺。えっ? 日本に核ミサイルを打ちこむ? そりゃあ大変だあ。でも、ね、ねむ・・・・・。クカー、クカー。
「もしもし、お客さん、映画は終わりましたよ。早く外へ出てください」
うわあ、よく寝てしまった。すいません、疲れが溜まっていたらしい。しかしですねえ、これが本当に面白い映画だったら、眠るまではいかなかったような気がするのですよ。詳細を知りたい人は、もうこの映画のホームページができていますから、そちらを覗いてください。
November.17,2000 ああ、あなた達は天使なの? 悪魔なの?
生嶋、長崎くん、『チャーリーズ・エンジェル』を初日に見ることが出来てよかったね。私は、あの日朝から多忙で、見られないのを覚悟していたのだよ。それが、ひょっこり夜になって新宿で暇になっている自分に気が付いた。よおし、『チャーリーズ・エンジェル』だあと気合いを入れて映画館に向かったのだった。
ところがであります。『チャーリーズ・エンジェル』を上映している映画館の手前で、襟首を掴まれてしまったのだ。「えっ、何? 誰?」 振替ってみると『悪いことしましョ!』のポスターから、エリザベス・ハーレーがこちらを見つめている。「おにいさん、何処へ行くつもりなの〜ん? あら嫌だ、『チャーリーズ・エンジェル』なんて見に行くおつもり? ナンですってえ〜ん? キャメロン・デイアス? よしなさいな、あんなションベン臭い小娘。あたしが可愛がってあげるから、こっちにいらっしゃいよ〜ん」 エリザベス・ハーレーの甘い囁きに「キャイーン、キャイーン」と従順に従ってしまったダメな私。
というわけで、ズルズルと『悪いことしましョ!』の方に引きずり込まれてしまったのだった。キャメロンちゃん、ごめんね。エリザベス・ハーレーといえば、何といっても『オースティン・パワーズ』。マイク・マイヤーズを「しょーがないわねえ」と優しくサポートする彼女にメロメロの私であった。今回の役は悪魔。こんな悪魔なら、さっさと魂を売り渡してしまうかもしれない。別にブルースがうまくならなくてもいいから。
ブレンダン・フレイザーは冴えない男。まったくモテないし、会社の同僚たちからもコケにされている。そんな彼が思いを寄せているのが、同じ会社に勤めるフランシス・オコーナー。彼女と結婚できたらと思っている。ところがまったく相手にされない。そこへエリザベス・ハーレーの悪魔登場。「7つの願いをかなえてあ・げ・る!」 もうフランシス・オコーナーなんて霞んでしまう魅力的な悪魔! おいおい、ブレンダン・フレイザー、フランシス・オコーナーなんて相手にしている場合じゃないでしょ!
いやあ、このエリザベス・ハーレーの悪魔、神出鬼没。いろいろな場所にいろいろなコスチュームで現れる。婦人警察官、看護婦さん、チア・リーダー、タータン・チェックのミニ・スカートをはいた女教師、ボンテージ・ファッションもびっくりな砂浜を犬を連れて散歩する女etc.もう、出てくるたんびに違った衣装で、見るものを楽しませてくれる。中には天使姿なんてのもある。彼女と一緒にカメラが移動すると、ちょっとした物影を通過しただけで衣装が替わっていたりする。コスプレ好きにはたまんないだろうなあ。
それでですね、『悪いことしましョ!』を見た翌日、今度は『チャーリーズ・エンジェル』にも行ったのですよ。日本劇場の最終回。てんでガラガラ。おいおい、大丈夫なのかあ? こちらもコスプレやり放題。水着姿から始まって、パーティ・ドレス、コンバット姿、レースの整備士、そして何? あのチロルの踊り子って? さらには、絵柄入りのブリーフにTシャツ姿でお尻フリフリって! いやあ、久しぶりにキャメロン・ディアスらしい映画を見ましたなあ。もっとも、生嶋もいうように、あまりにも役者の地で作ったものらしくて、キャメロン・ディアスって、きっとあんな性格なんだろうなあ。ディスコで踊るシーンなんて、きっと振付け師なしで本人に勝手に踊らせたんじゃないかなあ。ムチャクチャだもん。それもご愛嬌ですけれどね。ドリュー・バリモアも可愛かったし、大満足の私でした。えっ? ルーシー・リュー? そんな人出てたっけ?
November.14,2000 韓国ポルノはここまできた
今、流行りの韓国映画。今年の映画祭でも、かなりの数の韓国映画が上映された。最近まで、日本に入ってくる韓国映画って何故かポルノが多くて、私もレンタル・ビデオで何本か見た。しかし正直言って、それらは面白くなかった。韓国映画ってつまらなくて、日本に持ってきてもポルノ以外話題にならないのかと思っていた。ところが、最近は韓国映画の公開ラッシュ。なあんだ、韓国でもアクションものや、ホラー、猟奇犯罪ものまであるんじゃないか。ポルノはもう下火なのかな。
と思っていたら、やはりポルノもあったのだ。東京国際ファンタスティック映画祭のレイトショウ上映でかかった『Lies/嘘』(仮題)。これは、今までの韓国ポルノの常識を破った問題作だ。何しろ原作は、発売されて2週間で発禁処分。今や原作者でさえ、その本を持っていないという有様。これを映画化したというのが、そもそも、とんでもないことなのだが・・・。
日本よりもさらに猥褻表現にうるさい韓国。当然、当局が黙っていない。3回にわたる検閲で、フィルムはズタズタにカットされ、韓国で上映されたのは17分カットされた版で、ストーリーもよくわからない状態での公開。ところが、さらに成人指定つきだったにもかかわらず、初日と2日目の興業成績が『シュリ』を抜いてしまったというのだから、いかに韓国でも関心を持たれていたのかが分かるというもの。
18歳の女子校生Yが、ヴァージンを捨てる相手を捜している。彼女、ある有名な美術家Jに電話をする。相手は38歳。奥さんも美術家でフランスに渡っている。何回かの電話のあと、ふたりは会うことにする。会って即ベッド。それがきっかけで、ふたりはセックスに溺れていく。やがて、美術家の男はSの趣味があることを露呈しはじめ、Yをセックスの最中に棒でなぐりはじめる。Mの快感を知ったYだが、そのうちに今度はSの快感も知り、立場が逆転しはじめて・・・・。
今回ファンタで上映されたのは完全版。韓国ではノー・カット版のフィルムは残っていないという状態で、フランスからフィルムを取り寄せたという。全編ほとんどがセックス・シーン。男優のチン〇コなど丸見え。いいのかなあ、もう日本では。でもねえ、面白かったかというと、うーん。こういう文芸ポルノって退屈。おそらく作り手の意図しなかったところで笑いが起きたりして、ちょっとね・・・。
November.11,2000 やっぱりジャンユーは凄い役者だ
今年は東京国際映画祭、東京国際ファンタスティック映画祭と並んで、香港映画祭までも同時期に開催されてしまう状態で、いったいどうしろというのか。各映画祭を別の時期にやってくれれば、もっと映画が見れるのにと思う。ただでさえ忙しい身、今回見る事ができたのは、たった一本。それがこれ、『爆裂刑警』
主演が香港の萩原流行といわれるン・ジャンユー。どうもフランシス・ンと呼ばせたいようなのだが、以前からン・ジャンユーで馴れてきた者としては、「な、何だってえ! ふ、フランシスー? 笑っちゃうねえ」という気持ちにしかなれない。ン・ジャンユーはン・ジャンユーでしょうが! こっちの方がしっくりする。ファン・サイトを覗いてみてもフランシス・ンで書いてあるよりも、やっぱりン・ジャンユーと表記してある方が圧倒的に多い。
冒頭は、ン・ジャンユー扮する刑事が、コンビニ強盗のタレコミを聞きつけて現場にやってくるところから始まる。コンビニの前には相棒のルイス・クーがしゃがみこんでいる。ジャンユーが「おい、行くぞ!」と声をかけると、「アイス食べてからあ」とのんびりした返事でアイスクリームコーンを齧っている。「ちぇっ!」てんでジャンユーひとりでコンビニの中へ。中にはすでに強盗が数人。客と店員は銃を突きつけられている。ジャンユー、商品のポテトチップスを取ると袋を開け、中に拳銃を隠す。ジャンユーに気がついた強盗団、ジャンユーも客と一緒に床に座らせて・・・。と、そこへアイスを食べ終わった相棒が入ってきて、コンビニの中は、あっという間の銃撃戦。
これは、なかなかハードなアクションものになりそうだと思わせておいて、実は派手なオープニングから話は一転する。大量殺戮も辞さない凶悪な強盗団の動向を探るべく、内偵を続けるふたり。タレコミから、ある男の張りこみをすることになる。相手のアパートの向かい側のアパートで見張ろうとするが、アパートは満室。一軒づつ協力を要請するが断られつづける。結局入りこんだのが、一人住まいのボケ老婆の部屋。ここから、話がメロドラマになっていく。ふたりの刑事を自分の孫と勘違いしている老婆、タレコミ屋から聞いてやってきたフーテンの女子高生、妊娠しているクリーニング屋の女子店員などまでこの部屋にやってきて、不思議な家族生活が始まってしまう。
ありゃりゃと思う展開なのだが、これがまた実に見ていて居心地のいいドラマになっていて、グイグイと引きこまれてしまう。それでいて、一方で張りこみの話も進行していく。ただ不満なのは、ジャンユーに死の影をつけてしまったこと。そのこともあって、最後の方の暗い展開が私には辛い。この話、最後まで明るい刑事もので通して欲しかったのだが・・・。
November.8,2000 またまた楽しみな新人監督登場
『The Boondock Saints』という映画のことは、以前から耳にしていた。今年の始めに、ベルリン映画祭で見た友人が興奮して「傑作だ!」と手紙をくれたことがあり、気になっていたのだ。ベルリン映画祭公開時点では、まだ最終的な編集ができてない版での上映だったらしいのだが、「今年始まったばかりだけれど、もうベスト1だ」などというものだから、期待は増すばかり。そして、ついに東京国際ファンタスティック映画祭に登場した。日本でのタイトルは『処刑人』。いそいそと前売りチケットを買いにいったのは言うまでもない。
上映当日、監督の舞台挨拶があるというので、早めに開場入りして前の方の席を確保。これが初めて撮った映画だというトロイ・ダフィー監督の姿をデジカメに収めた。
中央がトロイ・ダフィー監督。左はプロデューサーの人。そして右が、かの有名な江戸木純。やっぱりねえ、この映画江戸木純が拾ってきたんだ。なにしろこの人、B級C級映画の評論家であり、日本でのインド映画大ブレイクの仕掛人でもある。
トロイ・ダフィーという人は、もともとはロック・ミュージシャン。この映画のタイトルと同じBoondock Saintsというバンドを持っているという。初めて書いた脚本が映画会社の目にとまり、パトリック・スウェイジ、スティーブン・ドーフ、ロバート・デ・ニーロで映画化しようとしたが、トロイ・ダフィーがこのキャスティングが気に入らず、それならと自分で撮ることになったという。ただ、内容が内容だけに、アメリカでは上映禁止運動が起こる始末で、密やか公開されただけという。ダフィー監督「この映画を過激だというけれど、こんなの日本ではちっとも過激じゃないよね!」とアジテーション。ロック・ミュージシャンらしく盛り上げて舞台を降りた。
敬虔なクリスチャンの2人の兄弟。あるとき教会で天の声を聞く。「汝、悪人どもをブチ殺すべし!」 これでもうアメリカ公開は危ない。でもキリスト教の影響の少ない日本ではなんのことない。夜、酒場で飲んでいるとロシアン・マフィアがやってくきて、用心棒代払えと店主に迫る。ほほう、こいつが悪者か。たちまち始まる大乱闘。と、
―――途中でこのシーンが切れ、次のシーンは裏道で死んでいるロシアン・マフィア2人。ここでFBIの捜査官が登場。演ずるは『プラトーン』のウィレム・デフォー。これがいい。おそらく、映画会社の当初のキャスティングは、この役をデ・ニーロにやらせようとしたのだろうけれど、デフォーにして正解だと思う。ウォークマンでクラシック音楽を聴きながら、現場を見て推理していく。あっという間に何があったかを割り出してしまう。
バレたことを知って、2人は警察に出頭。取り調べの中で、再現映像の形でロシアン・マフィア殺害シーンが出てくる。正当防衛を認められ外に出ると「よくやった」という世論。こうして、2人は「それじゃあ、もっとやってやろうじゃんか」と、今度は敵地に自分達から乗りこんでいく。もう、頭の中はチャールズ・ブロンソンの『狼よさらば』状態。重火器をたんまり持った上に、「チャールズ・ブロンソンは敵地に忍び込むときに、ロープを持って行ったぜ」 「ロープなんて何にするんだよ」 「何だかわかんねえけど、とにかくロープなんだ」
こうして、ロシアン・マフィアの本拠にダクトを通って忍び込んでいくのだが、そこで何があったか。そのロープがどう使われたか、見てのお楽しみ。この辺までで全体の4分の1くらいであろうか。あまり詳しくは書かないことにする。それにしても、ダフィー監督という人、映画を撮るのは初めてというのに、見事にスタイルを確立している。実に撮り方が上手い。すでにパラマウントと2本の契約をしたそうで、これからが楽しみだ。
November.5,2000 サスペンスもどきのトルコ映画
東京国際映画際の『ラン・フォー・マネー』を見たいと思ったのは、これがトルコ映画で、舞台がイスタンブールだと知ったからだった。沢木耕太郎の『深夜特急』を読んで、行ってみたいと思った場所は、香港とイスタンブールだった。香港はすでに何回も行った経験があり、何年にも渡って私の行きたい場所ナンバー1はイスタンブールであり続けた。5年前、その願いがかない、私はその憧れの地に、飛んでイスタンブールできた。このときのことは、いずれ書きたいと思っているのだが、今回は『ラン・フォー・マネー』の話。久しぶりに見るイスタンブールの街並は、私をワクワクさせてくれた。
主人公のセリムは、男性用のシャツを専門で扱う小売り店の店主。大きく儲けることはできないが、地道に商売をしている。そんなある日、家へ帰ろうとすると雨が降ってくる。ちょうど通りかかったタクシーから人が降りてくる。幸いと、そのタクシーに乗ると後部座席にバッグが置いてある。入れ違いに降りた前の客の忘れ物だ。バッグはチャックが開いていて、中にはアメリカ・ドルの札束がたんまり入っている。急いでタクシーを止め、さっきの方向にバッグを持って走って戻るが、先程の人物の姿はもうない。
やがて銀行員が50万ドルの現金を着服して逃亡したというニュースを知り、このバッグの金がそれだと知れる。家族には内緒にしておくが、バッグの隠し場所に困る。店に持って行っても店員の目がある。困ったセリムは、このたったひとりの店員を難癖をつけて解雇してしまう。試しにドルを両替屋で100ドルだけ交換としてみる。いとも簡単にトルコ・リラになった。セリムは段々と大胆に両替をするようになり、生活が派手になっていくのだが、そこに着服した銀行員が現れ・・・・・・・・。
普通のサスペンス映画を期待していると、ちょっと裏切られる。ファンタでなく東京映画祭に出品されただけあって、監督の意図はサスペンスではなく、思わぬ大金を手にしてしまった男の内面を描くことにあるようで、中盤でのフェリー内での追っかけあたりが最大の見せ場で、あとはじっくり男の内面の変化を追う。
真面目に働くことが生活の基本だった男が、大金を持つことで、人生まで狂わせていく。ラストはあまりに唐突で、「えっ! これが結末?」とびっくりしたところで終わってしまった。
November.2,2000 この街道レース・シーン迫力あり
『決戦・紫禁城』のあと、10分の休憩をはさんで『超速伝説ミッドナイト・チェイサー』の上映が始まった。さすがに香港映画、しかも主演がイーキン・チェンとあって場内は圧倒的に女性客が多い。渋谷パンテオンの女子トイレ前は長蛇の列になってしまっていて、10分程度の休憩時間では全員の用が足せない。ちょっとかわいそうだった。
形としては、『フル・スロットル/烈火戦車』の続編だが、まったく別のものと思われる。いわば日本のVシネマ『首都高バトル』シリーズのような、首都高レーサー、街道レーサーもの。
大金持ちのボンボン役のイーキン・チェン、オートバイの街道レースで大金を賭けて勝負する。相手はそんな金はないというと、それでは、もしお前が負けたら、お前の足を折るという取引をする。そして、オートバイ・レース、スタート。始まってからここまで、実に流れるようにテンション上げっぱなしで映像が進んでいく。レース・シーンは、よく撮ったと思える迫力。このスピード感は公道ならでは。サーキット場とは違うスリル感がある。やがて、イーキンの勝ちで決着がつく。イーキン、非情にも相手の足をスパナで折る。
納得がいかないのが足を折られた相手。この男には、刑務所に入っている兄がいる。刑期を勤めあげ、兄が出所してくる。この男こそ、伝説の走り屋として有名な男である。リターン・マッチとしてこの兄をたてて、今度はクルマでの街道レース。しかし、イーキンの乗ったクルマはレース中の事故で大破。同乗していた恋人も死んでしまう。
香港にいられなくなったイーキンは、タイへ向かう。目的のひとつは、自分の本当の父を捜すこと。実の父こそ、以前香港で街道レースの王として君臨していた男。バンコクでの情報を元に、タイの田舎町に向かう。そこで逢った父は、すっかり落ちぶれていた。イーキンはそんな父に街道レースのテクニックを教わっていく。田舎町で小型バイクで闘うレース・バトルがここにはさまる形になるが、これがまたスピード感こそあまりないが、結構面白い。
さて、当然、香港に帰ってもう一度レースをするのがクライマックスというわけであるが、CGを使ってなんだかテレビ・ゲームのような映像まで出てくる。結末は見てのお楽しみ。
『決戦・紫禁城』のモタモタ感とは、打って変わったテンポのよさ。ドラマ部分はいささか陳腐であるものの、退屈させないで引っ張っていく演出力。同じ監督、主演で撮ったものとは思えない。個人的には、私もオートバイで夜中の首都高を飛ばしたクチだから、最初のレース・シーンが一番興奮しましたね。