April.30,2001 『ハンニバル』における原作と映画の違い
映画『ハンニバル』がつまらないという意見が多いようですが、原作と映画の違いを私はけっこう楽しみましたけれどね。ちょっと書いてみましょうか。ネタばらしになってしまいますので、未見の方は読まない方がいいでしょう。
冒頭の暗い中から右にフレームが現れ、メイスン・ヴァージャーとバーニー(フランキー・R・フェイゾン)との会話のシーンに入って行きながらグ―――ッと寄っていくとフルスクリーンになるところなんか、割と好きだ。ヴァージャーの姿を最初から見せてしまうのも悪くない。
フィッシュ・マーケットのシーン。クラリス(ジュリアン・ムーア)の登場。原作でも最初の見せ場で、期待のアクション・シーン。私のイメージしていた場所よりもゴチャゴチャしている。でも実際はこんなものなのかな。人が多くて発砲を中止しろという意味が分かる。それにしても、つくづくジョディ・フォスターが降りちゃったのが悔やまれる。ジュリアン・ムーアでは、やはり演技力不足。細かな感情が表現しきれていない。
レクター教授からクラリスに手紙が届く。これから、レクターの居場所が分らないかと調べるクラリス。手紙についていた香水から割だそうとする。ここで各国に問い合わせが始まるのだが、日本も出てくる。ここだけではなく、この映画版『ハンニバル』には、やたらに日本人が出てくる。フィレンツェでは日本人観光客が出てきて、日本語が耳に入ってくるし、映画オリジナルのラストシーンでは、飛行機の中で日本人の子供が出てくるが、これは後述する。
これはどうやら、脚本のデビッド・マメットの仕業なのではないかと思う。この映画の脚本は、まずデビッド・マメットが第一稿を書き、それを元にスティーブン・ザイリアンが仕上げたことになっている。この日本人というアイデアは、デビッド・マメットお得意のもので、『ザ・ワイルド』でも日本人ウンヌンというセリフがあるし、監督までした『スパニッシュ・プリズナー』では、日本人観光客がところどころで顔を出し、それが伏線になっていて、ラストであっと言わせる結末に導いている。『RONIN』の決定稿にかり出されたのも、きっとマメットが日本に詳しいと思われたからなのではないかと私は思うのだが・・・。
原作でも感じたのだが、フィレンツェのシーンがいささか長い。本来は、レクター教授とメイスン・ヴァージャーの闘いがメインにならなくてはいけないのに、映画版では小説以上に長い。その分、フィレンツェ警察のリナルド・パッツィ(ジャンカルロ・ジャンニーニ)の比重が大きくなっているのだが、大豚を飼育している連中とか映画を撮ろうとしている連中の描写はほとんど無くなり、クライマックスへ向けての闘いが盛りあがらないのが、原作以上に辛い。
レクターとクラリスが10年ぶりに初めて会話するシーンは脚本のオリジナル。これはうまい。フィレンツェ脱出まで2時間11分ある上映時間のうち、1時間20分かかる。あと50分が残りという配分は少ないんじゃないか?
舞台がアメリカに移って、これまた映画オリジナルのメリーゴーランドのシーン。このときのレクター教授の服装が野暮ったい。いくら変装したと言っても、映画なんだもの、アンソニー・ホプキンスには、もっと颯爽と着こなして欲しかった。レクターがクラリスの髪を触るシーンはとてもセクシーなんだから。
生嶋も指摘するように、このあとのレクター教授が敵の手にあっさりと落ちてしまう展開は納得がいかない。そうしないと、物語が進まないのだろうが、もっと巧妙な罠でレクターを落とすというアイデアは生まれなかったものだろうか?
さて、ここからはいよいよ核心に触れます。原作を読んでない人も、ここから先は読まない方がいいでしょう。
クラリスのレクター救出劇。原作にあるメイスン・ヴァージャーのレズの妹マーゴの存在をバッサリと切ってしまったのは仕方ないとして、そのツケがここに回ってきてしまう。原作では、クラリス、レクターの脱出のあと、マーゴがメイスンの口の中に大うなぎを押し込んで殺すシーンになるのだが、マーゴも大うなぎも登場しないために、メイスンの付き人にやらせざるを得ないことになってしまう。これだと、彼が車椅子をブタの中に突き落とす理由づけが希薄だ。マーゴとメイスンの確執があってこその展開なのだが・・・。
兄妹という図式は、これまた映画ではカットされてしまった、レクターとミーシャのエピソードにも繋がるもの。なぜレクターがハンニバリズムに走ったのかという理由がこれで明らかにされる重要な部分なのだが、これがカットされたことにより物語の膨らみが小さくなってしまった。
原作でも気になったのが、ここでブタがレクターに恐れをなして、レクターを避けて通っていってしまうというシーン。こんなことってあるのかなあと思ったものだが、映像になると余計いけない。どう見ても、今のアンソニー・ホプキンスは初老の貧相な男にしか見えない。
いよいよ、最後の晩餐シーン。これはさすがに映像で見せられると気持ち悪い。ウウーッと吐き気がしてきた。
セクシーなドレスを着せられたクラリス。ああ、これがジョディ・フォスターだったらなあ。さてここからだ、映画版が原作と大きく違っていくのは。原作ではレクターとクラリスが関係を結んでいくことになるのだが、映画版ではあくまでクラリスはレクターに対して敵対関係を崩さない。ここがいい。警察に電話を入れた上、モルヒネを投与されてフラフラになりながらも、なんとかレクターを倒そうとする。パトカーが現場に大挙して向かっている。そして冷蔵庫のシーン。当初の脚本では、ここでレクターがクラリスを冷蔵庫に手錠で繋いで逃げることになっていたらしい。それを監督のリドリー・スコットが大きく変えてしまった。その変更結果は、見ての通り。ここには書かない。
さあ、エピローグともいうべき飛行機内のシーンだ。原作ではフィレンツェ脱出のときにあった持ち込み弁当のシーンをここに持ってきた。さきに書いたように、ここでも少年の役を日本人の少年に変更してある。これ、絶対にデビッド・マメットのアイデアだと思うなあ。
さて、ディノ・デ・ラウレンティスは、トマス・ハリスの遅筆ぶりに業を煮やし、この『ハンニバル』を振り出しとする三部作をトマス・ハリス抜きで構想しているらしい。次が『レッド・ドラゴン』の再映画化で、その次がまったくのオリジナル。映画版『ハンニバル』のラストシーンをうけて、日本を舞台にするらしい。ということは、脚本は当然またデビッド・マメットか・・・?
April.16,2001 『東京攻略』歌舞伎町ロケ現場
『東京攻略』のファースト・シーン。トニー・レオンが新宿駅南口を出て雑踏を歩いて行く。その彼をつけている数人の影。やがて、トニー・レオンは歌舞伎町の裏通りに入って行く。そこへ襲いかかる男達。あれえ、この路地はミラノ座へ向かう路地じゃないか。私もこの路地を通ってミラノ座へ行くからよく知っている。
この路地で、トニー・レオンと謎の襲撃者との闘いが繰り広げられるのだが、新宿方面から行くと右側のビルに鉄のパイプのようなものが横に長く張られていて、そこにトニー・レオンが傘の柄をひっかけて闘うシーンが出てくる。「おやっ? ここは新宿ジョイシネマ3のビルの裏手だよなあ。ここに、あんなものが張られていたっけ?」 ひょっとしてスタッフが急遽こしらえたものなのだろうか? それとも以前からあって、私が気が付かなかっただけなのだろうか? 先日、たまたまこの路地を通ることがあったので見てみました。
ありましたよ、確かに。人の高さよりちょっと上くらいにパイプが。しかし、スタッフは新宿ジョイシネマ3に断ってこれを使ったのだろうか? あのパイプに傘を引っ掻けてのアクションなんて危ないよなあ。もしパイプが壊れたら、どうするつもりだったんだろう。映画館なんだもの、撮影に協力して快くOKしたんじゃないかと思うんだけど・・・ちょっと気になる。
April.3,2001 うへー、B級!
今、熱い映画祭が池袋で開催されているのをご存知だろうか? そのタイトルを[爆闘!!!!!! BATTLE! 映画祭!!]という。!マークがズラーッと並んでいるのがその雰囲気を伝えているようだが、その上映作品のラインナップのタイトルを見て欲しい。
『マネー・ゲーム』BOILER ROOM
『オクトパス』OCTOPUS
『ゴッド・アーミーV』PROPHECY V
『エージェント・レッド』AGENT RED
『ロードレージ』ROAD RAGE
『バディ・ボーイ』BUDDY BOY
『シック・アズ・シーヴス』THICK AS THIEVES
『マリン・クラッシュ』SUBMERGED
『ブレイク・スルー』MILITIA
『ジルリップス』JILL RIPS
1本でも噂を聞いたとか、知っているなんて映画あります? どうやら、これらは輸入したはいいものの、即ビデオの運命になろうとしているものらしい。以前こんなにビデオが普及していなかったころは、スプラッシュといって、ロードショウ公開なしで、いきなり2番館の2本立てに登場していたようなB級作品。私、好きでしたね、スプラッシュ。ほとんどがクズみたいな作品で、そんな中に、とんでもない傑作が混じっていたりした。そんなのを捜すのが楽しみだった。
この映画際、池袋の[シネ・リーブル池袋]という新しくてきれいな映画館でレイトショーで一日一回だけの上映。しかも1本につき3日間しか上映しない。こりゃあもう行くっきゃないでしょう。
というわけで、行って来ました。初日『オクトパス』の上映に。『ぴあ』などの情報誌の扱いもほとんど小さいもので、こんなの見に来る奴いないだろうと思いきや、いやあ、世の中物好き多いんですなあ。人のことは言えないけれど・・・。何と満員。立見まで出ました。
『オクトパス』。監督はジョン・エアーズだって。知ってますか? なになに『エイリアン・ウォーズ』とか『タイムロック』を撮った人だって? 見てないなあ。思いっ切りB級なんじゃないの? これらの映画。
キューバ危機のころ、ソ連の原子力潜水艦がアメリカの領海に進入して、アメリカの潜水艦の魚雷攻撃に合い沈没する。その潜水艦にはキューバへ運ぶ細菌兵器が積まれていた。さて時は現代。ヨーロッパで大使館を爆破してまわるテロリストが捕まる。ジェイ・ハリントン(知ってます? 私は聞いたこともない)扮する主人公のCIAエージェントが、このテロリストを潜水艦で護送することになる。ねえねえ、ちょっと無理があるんじゃない、この展開。なんで潜水艦なの? まあいいか。そうでなきゃ、話が始まらないものね。
潜水艦の中には、生物学者の女性リサ(キャロリン・ロウリー)も乗っていた。これも何か無理あるなあ。しかも、すげえ色っぺえねえちゃん。これもお決まりなんだろうけどね。わざとじゃないかと思うほど、色っぽい服装。男ばっかりの潜水艦に美人のねえちゃんひとり。そんなことあるわけないじゃん。まあ、いいか。キャロリン・ロウリーって知ってます? なになに? 『キャンディ・マン』や『ボンデージ・ゲーム』に出てたって? うへー、『キャンディ・マン』ってホラーものでしょ。確か私見たと思うんだけど、お決まりのキャー、キャー騒いで殺されちゃうグラマーな女の子の役でしょ、どうせ。『ボンデージ・ゲーム』は見た。エロエロだよ、あれ。
まあ、いろいろありまして、細菌兵器が海中に流れ出して巨大化したタコがこの潜水艦を襲うという、もうミエミエの展開がありまして、テロリストは潜水艦の中で暴れるは、キャロリンねえちゃんは男の股間を刺激することをあれやこれや(ムフフ)やってくれまして、退屈はしない1時間39分。それにしても、主要人物以外の潜水艦乗組員は全員死亡というのもスゲーなあ。豪華客船を乗っ取って、テロリストの仲間が助けにくるというのも、ちょっと無理な展開のような気がするのだけど、まあしょーがないか。巨大タコが豪華客船を襲うシーンになると、いきなりチャチな模型になってしまうのもしょーがないけど、はっきり言って笑います。それと、タコがテロリスト仲間ばかり標的にして襲うというのもご都合とはいえ、笑っちゃう。
どうやって巨大タコを倒すかっていうと―――――。まあ、言わぬが花ってところかなあ。サメもののお決まりの倒し方のひとつだとだけ書いておきましょう。もう、手は出尽くしたんだろうなあ、こういうの。
帰りのエレベーターでの人々の会話。「面白かった?」 「うーん、つまらなかった」 そうでしょう、そうでしょう。私も同感。でも、こういうクダラナイの好き。また見に行こうっと。