February.22,2002 久しぶりに行ったヨコハマ映画祭

        日本アカデミー大賞なんて、さっぱり信用できないし興味もないのだが、毎年ヨコハマ映画祭の結果だけは気にしている。ここは本当に映画が好きな人たちが選ぶ日本映画の賞だ。以前は毎年のように授賞式及び上映会を見に行っていたのだが、ここ数年はとんとご無沙汰。ようし久しぶりに見に行ってみるかと、前売り券を買って楽しみにしていた。

        当日は朝から雨。うーん、雨の中横浜まで行くのは億劫だなあと思ったのだが、意を決して家を出る。東海道線で一路横浜へ。横浜駅で崎陽軒の季節限定[おべんとう春]を買い、京浜東北線に乗り換える。関内に着いたのが午前9時30分。開場は10時30分だというのに会場の[関内ホール]はグルリと一周列ができている。傘をさしたまま最後尾につき、開場を待つ。雨のために開場時間を早めたのだろう、10時には列が動き出した。ところがこの列が一向に進まない。入場制限しているのか、スタッフが慣れていないのか、なかなか前に進まない。牛歩戦術の国会議員みたいな列の進行ぐあいにうんざりしていると、ようやく入口に到着。入場できたのは10時30分。なんと入場までに30分かかった。

        オープニング招待作品は『あの日、忘れた、想い出。』なる短編映画。両親を亡くした男が、長年住みなれた家を出て行こうとしている。そこへ、その家に取り付いている精霊が現れるといった話。長く待たされた疲れもあってか、猛烈に睡魔が襲ってきた。15分程度の短い映画だっが、ほとんど夢の中。精霊がなぜか白塗りのオカマというのが、ヘンテコ。なんでこんな精霊にしたのやら。上映終了後、スタッフ、キャストの舞台挨拶。

ヨコハマ映画祭、2001年のベスト10は次の通り。

第1位 『GO』
第2位 『ウォーター・ボーイズ』
第3位 『バトル・ロワイアル』
第4位 『千と千尋の神隠し』
第5位 『リリィ・シュシュのすべて』
第6位 『風花』
第7位 『EUREKA』
第8位 『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』
第9位 『連弾』
第10位 『ココニイルコト』
第10位 『非・バランス』
第10位 『ターン』

私の見たのは2位と3位と4位の3本だけ。評判の高い『クレヨンしんちゃん』を見逃したのが一番口惜しい。なにせ去年から寄席通いが多くなったことと、緑内障であんまり映画館には行きたくなかったことが原因。今年はもう少しマメに日本映画も見に行かなくては。

        次に、3作同位10位の1本『ココニイルコト』が上映された。大阪に左遷された広告会社のコピー・ライターの真中瞳。大阪支社へ出社してみると、仕事もコピー・ライターから営業に変えられている。自分はもっとクリエイティブな仕事をしたいと思っているのに、営業と聞かされてやる気なし。「大阪では営業がもっともクリエイティブなんだ」と言われても納得がいかない。真中瞳のふてくされた表情が見ていてイライラしてくる。そういう映画なんだと言われれば納得せざるを得ないのだが、初めての映画出演で演技力もイマイチ。どうもこのヒロインの気持ちに同情できない。会社に入って違う部署に入れられたのなら、その現場で力を出そうとしていくか、それが気に入らないなら辞めちゃえばいいのにとしか思えず、さらにイライラ。やがて、どうやら左遷の原因が妻子ある上司との浮気だったとわかってくる。この上司は評判の女たらし。そんなのに引っかかるのが悪いのにと思ってしまうと、どんどんともうこのヒロインがどうでもよくなってくる。大阪で知り合った同僚の男との関係がどうなるのかと思っていると、実はこの男、不治の病なんだと! 何なんだー、この話。ラスト、やっぱりコピー・ライターとして大阪支社に居残る決心をしたヒロイン、「もう少し、ここにいてもいいかな」なんてモノローグ吐いてるシーンにはうんざりして、勝手にしてくださいという気になってしまった。

        この映画祭の常連、坂本順治の挨拶。去年は上映作品がなかったが、今年は期待の『KT』が公開される。これはけっこうやばいテーマに挑戦したものであるが、製作中は盗聴されたり尾行されたりと、結構怖い思いをしたそうだ。CAGE`S TAVERNのベルリンさんによると、ベルリン映画祭でも上映されたようですね。関本郁夫監督も新作のPR。テープで岡本喜八監督もメッセージを寄せていた。

授賞式。受賞各賞は次の通り。

作品賞 『GO』
監督賞 行定勲(『GO』『贅沢な骨』)
新人監督賞 長澤雅彦(『ココニイルコト』)
         富樫森(『非・バランス』)
脚本賞 宮藤官九郎(『GO』)
撮影賞 栢野直樹(『陰陽師』)
主演男優賞 窪塚洋介(『GO』『溺れる魚』)
主演女優賞 天海祐希(『連弾』『狗神』)
助演男優賞 山崎努(『GO』『天国から来た男たち』『GO!』『女学生の友』)
助演女優賞 柴咲コウ(『GO』『バトル・ロワイアル』)
最優秀新人賞 真中瞳(『ココニイルコト』)
          派谷恵美(『非・バランス』)
          細山田昂隆人(『GO』『リリィ・シュシュのすべて』
審査員特別賞 故・相米慎二

        相米慎二以外の人が次々と舞台に上がって、表彰状、トロフィー、花束を受け取る。あの『バトル・ロワイアル』での演技が光っていた柴咲コウをナマで見れたのがうれしい。でもようやく確保できた私の席から舞台までは遠いなあ。



        休憩が入って、お弁当を食べる。これから2位『ウォーターボーイズ』と1位『GO』の連続上映が始まる。腹ごしらえもちゃんとしとかなくちゃ。

        矢口史靖監督の『ウォーターボーイズ』は、一度劇場で見ているから再確認で気楽に見た。それにしても以前から思っていたのだが、関内ホールのスクリーンは劇場の大きさの割に小さい上、ヌケが悪い。それといくらか改善された気もするのだが、音響が悪い。以前などセリフが聴き取れず困惑したものだった。映画館ではないのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが。

        監督、脚本、主演男優、助演男優、助演女優、そして作品賞と、総ナメにした『GO』は噂にたがわず力作だった。映画は主人公の窪塚洋介がバスケットボールをやっているシーンから始まる。彼は[在日]だという設定で、普通の日本人の高校に通っている。バスケットのトラブルからケンカになるのだが、モノローグは、「これはオレの恋愛に関する話だ」 このまま映画は恋愛とは関係ないようなシーンが続く。山崎努の父親とのボクシングを通じての戦い。友人が巻き込まれる事件。そんな中、日本における[在日]の問題が浮かび上がってくる。恋愛のことが出てくるのは30分ほどたってからだろうか? 柴咲コウの登場によって突如物語は恋愛映画になる。ラスト近くになって、これが冒頭のバスケットのシーンに繋がっていたのだと知らされる驚き。大人計画の宮藤官九郎の脚本が冴えている。この脚本家は注目しておかなくちゃ。現在テレビで放映中の『木更津キャッツアイ』も宮藤の手によるもので、テレビドラマとはあまり縁のない私も、これは毎週見ている。これも実にシャープで上手い脚本だ。この恋愛の話も最終的には[在日]がネックになっていくのだが、力強く、それでいて爽やかなこの映画、賞総ナメも無理からぬ気がした。


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