March.27,2002 ピクサーの傑作短編アニメ

        『モンスターズ・インク』を見に行ったら、本編が始まる前に『for the birds』という短編が付いていた。もちろん『モンスターズ・インク』も面白かったのだが、私はこの『for the birds』の方に夢中になってしまった。「面白い、面白い!」と人に吹聴していたら、なんとこれ、ついに今年のアカデミー賞の短編アニメ映画賞を受賞してしまった。

        口惜しいことに、『モンスターズ・インク』を見に入ったのが、その日の最終上映だった。そうでなかったら、またこの短編を見るだけのために居残っていたのに! うーん、記憶にたよって、この短編を思い出して書いてみようか。このアニメはセリフなしの作品だ。セリフなしって好きなんですよ。言葉の壁を越えて世界中の人に笑ってもらえる。これは強いですよ。チャック・ジョーンズの『ロードランナー』や、わが日本の『カバトット』もこのたぐい。時代も国も言葉も越えて笑ってもらえる。

        どこかの田舎。畑の中に電線が通っている。そこへ、目ばかり大きなトリが何羽か飛んできて、その電線に止まる。彼らはある程度の距離をおいて止まるのをルールとしているらしい。あんまりくっついて止まった相手には文句を言う。もっともトリ語で語られるから、はっきりしたことはわからないのだが、見ている方には理解できるのだから巧みなアニメだ。そこへ、ヘンなトリが現れる。他のトリよりも大きいが、トサカのようなものが付いていて、ガラのように痩せている。ちょうどロードランナーに似ているトリだ。このトリが、先客のトリたちに挨拶をする。「ハロー」と言っている感じがわかる。他のトリたちは、どうもこの闖入者が気に入らないらしい。トサカを笑ったりしている。やがて、このトリが止まっているトリたちの真中に止まる。すると、この電線は大きなトリの重みで中央でグーッと、しなってしまう。両端に止まっていたトリたちは中央の大きなトリに向ってズズズズっとすべって、みんながくっついてしまう。きわめて迷惑そうなトリたち。すると・・・。

        この短いアニメの面白さは、どうも言葉では説明できないのだが、1時間32分ある『モンスターズ・インク』を凌駕しかねないほどのインパクトを持っている。私は個人的にはこの『for the birds』を『電線デビュー』と勝手に日本語訳を付けて呼んでいるのだが、いかがだろうか?


March.20,2002 太ったか? リリー・ソビエスキー

        [SHOCKING MOVIE PROJECT]なる3作連続上映企画が始まった。場所がお台場の[シネマメディアージュ]という、ちょっと交通の便がイマイチというところだから、これを見に行こうというのは、よっぽどの物好きと受け取られてしまいそうだが、こういうのこそ見に行きたくなるという性格だから、我ながらあきれ返ってくる。しかしだ、3作とも外国のサスペンス、ホラー映画なのだが、B級というわけではない。ただちょっと売りにくいということはあるのかもしれない。

        ナガサキくんご推薦の[シネマメディアージュ]もまだ行ったこと無いし、これはやっぱり行ってみよう。新橋から[ゆりかもめ]に乗ったのは夕方。案外空いていたのは、もうこれから行楽に行こうなんていう人は少ない時間帯だからだろう。午後5時30分の上映に間に合うようにと家を出たはずなのだが、ちょっと他の用で引っかかってしまって上映開始時間までギリギリといった状態。レインボー・ブリッジを渡る景色を楽しむゆとりはあまりない。[お台場海浜公園]で降りてダッシュ。フジテレビ前の[アクアシティお台場]に飛び込んだのが、ちょうど5時30分。いやあ、驚きました。チケット・カウンターは3階にあるんですね。ここでチケットを買って座席表から好みの場所を指定する。狭い劇場のようなので、きっとスクリーンが小さいのだろうと、前の方の席をもらう。チケット・カウンターは3階なのだが劇場は1階・・・なぜ? エスカレーターを駆け下りてみると、シネコンだから劇場が10以上もある。アタフタとしてしまったが、ようやく目当ての場所を見つけて入館。もう、予告編は始まっていた。

        自分の指定した席に座って驚いた。スクリーンが想像していたよりもずっと大きいのだ。のけぞるようにしてスクリーンを見るような位置になってしまった。さて3作連続上映の1本目。今宵の上映作品は『グラスハウス』というサスペンス映画だ。アメリカでもそこそこヒットした作品。主演がリリー・ソビエスキー。あの『アイズ・ワイド・シャット』の貸衣装屋の娘役だった美少女だ。いきなり下着姿で登場した彼女は、まるで小悪魔のようだったっけ。去年の暮に『ロード・キラー』っていう映画も公開されたが、あれもサスペンスものだった。そういう傾向で売っていこうとしているのかな? あのときの彼女もちょっとセクシーだったが、ちょっと気の強い役柄。今回の『グラスハウス』も、ちょっと遊び人風の高校生役。いつも肌の露出が多い服を着ている。今夜も今夜とて夜遊び。家に帰ってくるとパトカーが家の前に留まっている。夜遊びを心配した両親が捜索願いを出したのかと思って家に入ると、中にいた警察官から聞かされたのは、彼女の両親の交通事故死。

        突然孤児になってしまった彼女は、両親の知り合いに引き取られることになる。新しい生活をスタートさせたグラス夫妻の家は、まさに豪邸。全体がガラス張りで作られたこの家には、アスレチック・ジムはあるは、ホームシアター・ルームはあるは、庭には大きなプールまである。亭主はクルマのディーラーのような会社の社長だし、夫人は医者をしている。ところがじきに、この夫妻、とんだガラスの夫妻だということがわかってくる。夫はどうやら借金を抱えているようだし、妻は薬物中毒らしい。このへんで、事の裏側が読めてくるはずだ。

        夫人役はダイアン・レインだし、決してB級の作りではない。ただ売れる要素が少なすぎるのかなあ。同じリリー・ソビエスキーでも『ロード・キラー』はトラックが襲ってくるという派手な映像があったから売りやすかったのだろう。そこへいくと『グラスハウス』には、残念ながら売りになるものがない。それなりに楽しめる映画なのになあ。リリー・ソビエスキーの水着姿だって見られるし。ただこの子、ちょっとふっくらしすぎてきていないか? 顔も膨らんできたし、体も線はキレイだけれど、ちょっと肉が付き過ぎているような気がする。いらぬ心配? ・・・ごめんなさい。


March.14,2002 ようやくわかった『指輪物語』の世界

        J・R・R・トールキンの『指輪物語』が翻訳されたのはいつのころだったろうか? ばかに評判がよかったので私も第一巻を買って読み始めたものだった。ところがこの小説、凄く読みにくかったのだ。翻訳が悪いというよりは、元の文章の問題もありそうで、さらにはこの日本には馴染みではない剣と魔法の世界のイマジネーションに入って行かれない。数十ページでダウン。その後も何回か最初から読みなおそうとしたのだが、そのたびにまた数十ページでギブアップ。この話には前日談のような『ホビットの冒険』という本があるというので、それを読み始めたら、これまた途中でギブアップ。読みにくかったのだよ、これも。

        その『指輪物語』が映画化された。日本語のタイトルは原題そのままの『ロード・オブ・ザ・リング』。3時間近い映画だが、最近は長尺ものの映画もあまり苦にならなくなってきた。それというのも寄席通いの影響。寄席だとひとつのプログラムが4時間だ。昼夜入れ替えなしのところで居続けると、8〜9時間見られることになる。映画の3時間くらいどうってことない。まずは問題の指輪にまつわる説明がなされていく。映像付きで語られるとわかりやすい。ははあ、そういう話だったのかと、長年のモヤモヤが晴れていく。指輪を受け継いでしまう主人公のフロドの立場というのがあまりにも理不尽で、そりゃないだろうという気になる。黒い馬に乗った黒ずくめの衣装のブラック・ライダーたちに襲われる場面はハラハラさせられた。こんな奴らに狙われて続けたらこの先どうなるだろうと思っていたら、なぜかその後は出てこない。なんで?

        エルフの里で、指輪を処分するには敵地の[滅びの亀裂]に投げ入れるしかないと聞かされて、9人の仲間と旅に出るということになると、ようやく本来の物語が動き出す感じ。この時点で、映画は1時間45分経過している。一行が洞窟の中に入っていくところで、ハッとした。これぞ、パソコンゲームで散々やったロールプレイング・ゲームそのままではないか。二十年くらい前にアップルUを買って、夢中になってやった『ウィザードリー』や『ウルティマ』の世界だ。人間、エルフ、ドワーフ、ホビット、魔法使いといった種族があって、隊列を作ってダンジョンの中に入っていく。中には様々な敵が待ち受けている。そうかそうか、これぞロールプレイングだと、妙なことに興奮してしまった。

        なにせ長い話だから3時間を経過しても終わらない。いいところなのに思うところでおしまい。これからが波乱万丈、面白くなるのですが、お時間のようで、この続きは一年後に公開―――って、講談じゃないんだからね! 同時にやはり『ハリー・ポッター』も続編を作り続けるようだが、あちらはあくまでお子様向け。私はあちらの方はどうでもいいのだが、こちらの方は早く続きが見たい。うー、期待は高まるばかり。

        それにしても巨大な善と悪の闘いなんて、今までやり尽くされている感もあるなあ。そういえば去年、ツイ・ハークが撮った『蜀山傳』を一足早く輸入DVDで見たけれど、あれもそんな話。ただ、CGの使いすぎで人間が描ききれてないのが不満だった。あれじゃあ、出演者はただの素材。それをCGでブンブンと空を飛ばしているだけという感じになってしまった。一方で『ロード・オブ・ザ・リング』は戦闘シーンがやや不満。戦闘シーンがアップばっかりでゴチャゴチャとしているだけで、何がどうなっているのかわからない。香港映画みたいに引いて撮れなかったのだろうか。やはり長年のカンフー映画からきた、格闘シーンの技術は香港の方が一枚上手か。


March.12,2002 『ジュラシック・パーク』中毒

        去年の夏は緑内障騒ぎがあって映画どころではなく、『ジュラシック・パークV』を見逃してしまった。そんなこともあってビデオが出るのを楽しみにしていたのだ。実はダメモトで近所のレンタル・ビデオ屋に発売日の午後に行ってみたら、あったのだよ。小さな店なのだが、それでも『ジュラシック・パークV』は5本ほど入荷していて、1本だけまだ[レンタル中]の札が付いていない。迷わずに借り出して即その夜に見た。いやあ、興奮してしまった。恐竜の動きが前二作に比べ格段に良くなっている。かえすがえすも劇場で見られなかったことが口惜しい。映画館の大画面と音響で見た方がどんなに迫力があったことか!

        CAGE`S TAVERNにも書いたのだが、その翌日である。私はDVDを買おうかどうしようか迷っていた。今までの三作に加えて特典映像だけをたっぷり収録した『ジュラシック・パークの裏側』が付いている『ジュラシック・パーク・トリロジー』である。秋葉原の石丸ソフトセンターまで行ったら売りきれ。その瞬間にどうしてもこのセットが欲しくなってしまった。どうしよう、これではどこへ行っても売り切れだろうなあと思いながら、2軒先の店に入ったらドーンと積み上げてあったので何の迷いもなく買ってしまった。

        おかげでそれからというもの、毎晩のようにこればかり見ていた。字幕版も良かったが吹替え版もサム・ニールの声を、ウチのお得意さん小川真司さんが担当しているということで、思わず小川さんの顔を思い浮かべながら楽しんでしまったし、何と言っても副音声の解説がいい。特殊効果を担当の人たちがワイワイと解説を付けているのだが、「ここはアニマトロニクス、ここはCG、ここは着ぐるみ」と楽しそうに教えてくれる。それを聞いていると特殊技術がいかに進歩したのかがわかってきて、また字幕の本編に戻って見てしまう。もうほとんどこれの繰り返し。さらに『ジュラシック・パークの裏側』を見て、前二作も字幕と吹替えで見直して、山ほどある特典映像を食い入るように見てしまって・・・。

        毎晩こればっかり見ている姿を人に見られたら、オタク扱いされるか、「怪獣好きのガキじゃあるまいし」と言われてしまいそうなのだが・・・。もともとサメの出てくる映画が好きだということは以前に書いた。『ジョーズ』はビデオで何回も見たし、DVD化されたときも買ってしまった。レンタル・ビデオ屋でサメの出てくるジャケットのビデオを見つけると、「どうせつまらないんだろうな」と思いながらも、ついつい借りてしまう。CGを多用してサメをスピーディに動かした『ディープ・ブルー』なんて絶対に傑作だと思うのだが、誰も賛成してくれそうにない。こうなるとストーリーとか俳優の演技とかはどうでもよくなってくる。ようするにサメが動き回っていさえすればいいという幼児的な興味が残っているだけ。

        それがどうも最近は、私が幼児化して見てしまっているはサメだけに限らないようなのだと気が付いてきた。恐竜や怪獣でもいいのである。あのあらゆる映画ファンからこき下ろされたハリウッド版『ゴジラ』も、私も失敗作だと口では言いながらも、映画館のあとでビデオを借りて2回も食い入るように見てしまった。さらに言うと、別にサメや恐竜だけでなくとも、巨大な蛇だろうが、巨大なミミズだろうが、巨大なタコだろうが、何でもいいのである。ただただ、そんな巨大化したものが人間を襲うというだけで夢中で見てしまう。こんなことを先日ヤスブチくんに話していたら、「それはボクらが映画に興味を持った原点は『キングコング』や『ゴジラ』からだもの。そういう世代なんだよ」と言われてしまった。なるほどそうかも知れないなあ。

        ところが、どうもそれだけではないようなのだ。どうも人間以外のものが出てくるもの、ネズミだろうがネコだろうがイヌだろうが、要するに動物が主人公のものは大好きなのだ。こうなってくる泥沼になっていってしまいそうだが、普通の映画の中でもネコやイヌが画面の中に映ると、視線は人間から離れ、動物の動きばかり追いかけてしまう。そういうことってありません?


March.1,2002 予備知識なしで見た方が映画は面白い

        フランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』は公開当時に見て、その難解さに、コッポラ自身何を撮りたいのかわかってなかったんじゃないかとすら思っていた。その前に公開されたマイケル・チミノの『ディア・ハンター』が私にとって大傑作に思えていたこともあって、コッポラには正直言って失望していた。だから2度とビデオでも見なかったし、今年になって1時間近くのシーンを加えた『地獄の黙示録・特別完全版』が公開されると知っても、食指が動かなかった。それがゲンキンなもので、前売券を買うと非売品のCD−ROMが付いてくる。しかも限定一万枚などと言われると、ついフラフラと前売りを買ってしまうのだから、自分が情けない。私が手にしたのは9170/10000だから、危ない危ない、もう少しで貰いそこなうところだったと、家に帰ってパソコンに入れてみれば、80年当時の予告編とポスター画が入っているだけ。ちょっと拍子抜けすると同時に、3時間32分という完全版を見に行くのが辛くなってきてしまった。

        ところがだ、せっかく前売りを買ったのだからと、意を決して出かけてみれば、これが実に面白いんですね。時間の長さなんてまるで気にならない。新しく追加されたシーンはなぜカットしちゃったのかわからないほど重要な意味を持っているし、これがないと話が見えてこない。20年たって、ようやくコッポラが『地獄の黙示録』で何を描きたかったのがわかった。なーんだ、こんなにわかりやすい映画だったのかあ! 以前からあったシーンも今見ると新鮮で、すっかり忘れていたところもある。

        『地獄の黙示録』を最初に見たときには、こんなに難解な映画だったら予習しておけばよかったかなあと思ったものだが、『地獄の黙示録・特別完全版』を見た翌週、『フランシス・フォード・コッポラ ジーパーズ・クリーパーズ』なる映画を見に行った。一見コッポラが監督したように思えるが、実は[フランシス・フォード・コッポラ]と[ジーパーズ・クリーパーズ]の間に[PRESENTS]とあって、これはコッポラが製作をしたもの。監督もあまり有名な人でなく、出演者もあまり知られていない人。いやあ、この映画に関する知識がまるでないままに見に行って、今回は結果的には正解だったものの、実に恐い映画だったのだよ。ホラーらしいということだけはわかっていたのだが、どんな話なのかまったく知らなかった。CAGE`TAVEREの『休暇取って遊んでました』のヤスブチくんではないけれど、映画や小説なんてものは何も知らないで見たり読んだりした方がいい。

        若い男女が田舎の道をクルマを走らせている。実にどうでもいいような会話が続く中で、このふたり、姉と弟で、大学でのシーズンが終わり帰省の途中だということがわかってくる。何時間も対向車すらない寂しい道だ。しばらくするとようやく前方を走るキャンピング・カーのようなものが見えてくる。猛スピードで追いぬいてみると、そのクルマは老夫婦の運転するものだとわかる。平和だったのはここまで。姉弟の運転するクルマを前方からカメラが狙っているのだが、バック・シートのガラスで先ほど追いぬいたクルマがわき道にそれていくのが確認できる。そうするとはるか後方から猛スピードで追従してくるトラックが見えてくる。いかにも凶悪そうなそのトラックはみるみる迫ってくる。そして、姉弟のクルマにぶつかってくる。ははあ、これはスピルバーグの『激突!』の線かなと思っていると、やがてうしろのクルマは去って行く。

        一息ついてからまた国道を走らす姉弟。そうすると突如教会のような建物が見えてくる。そしてさっきのトラックが止まっていて、男が荷台から何か荷物を取りだして、穴のようなところに投げ入れている。それはどう見ても毛布に包んだ人間。はっと我に返ってクルマのスピードをあげると、見られたと思ったのか、くだんのトラックが猛迫してくる。その場をなんとかしのいだ二人、弟があれは何だったのだろうと教会に戻ってみることを提案する。反対する姉を説得して教会に戻ってみると、地下に向ってトタン製の穴が通じている。下に降りてみようとする弟。しかし、さっきのトラックがいつ帰ってくるかわからない。ここのシーンの恐いこと、恐いこと。ここまでで30分くらいなのだが、正直言って私は恐くなって映画館を出たくなってしまったほど。話の展開が読めないというのが、こんなにスリリングなこととは。そういうわけで、ストーリーを書くのはここまでにしておく。

        見はじめて、あっさりと先の展開が読めてしまう作品もあるが、やっぱり予備知識なしで見たり読んだりする方が、どう転がるかわからない作品に出会うと、より面白いという教訓でした。


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