May.17,2002 サム・ライミ12年ぶりの悩めるヒーローもの
サム・ライミ監督の『スパイダーマン』のラストシーン。ピーター・パーカー(実はスパイダーマン。演じるはトビー・マグワイア)が、愛する女性メリー・ジェーン(キルスティン・ダンスト)の元を離れて行く。大きな力を持ったものは、また大きな責任を負わなければならないのだ―――というようなモノローグから、「ボクは誰だって? ボクはスパイダーマン」というセリフを耳にした瞬間、私はゾクゾクッとした。そしてクレジット・タイトルが流れる中、座席から立ちあがれなくなってしまった。
こんな人は私以外に誰もいないだろうが、自分が見た全映画の中でもベスト10に入るのがサム・ライミの『ダークマン』なのである。いつかこの映画のことを熱く語りたいと思っているのだが、なかなか書けないでいる。12年前の『ダークマン』はこんなシーンで終わっていた。愛する女性を悪人から助け、去って行くダークマンことペイトン・ウエストレイク(演じるはリーアム・ニーソン)のセリフはこうだった。「私は誰でもあり、誰でもない。どこにもいて、どこにもいない。コール・ミー・ダークマン」
それまで『死霊のはらわた』 『死霊のはらわたU』といったスプラッター・ホラー。『XYZマーダーズ』といったブラック・コメディを撮っていたサム・ライミももちろん好きだった。それが1990年の『ダークマン』を見たときには、ひっくり返って驚いた。映像が斬新なのである。クライマックスのビルの谷間をダークマンを吊り下げて飛ぶヘリコプター。いったいどうやって撮ったんだろうと思った。今のようにCGだってそんなに発達していない時代である。そして私は密かにサム・ライミが『ダークマン2』を撮ることを望んでいた。それが、そのあとのサム・ライミときたら、西部劇『クイック・アンド・デッド』、大傑作といっていいサスペンス『シンプル・プラン』、野球映画『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』、スリラー『ギフト』といったように、極めて良質ではあるものの、ライミらしいヤンチャな遊びに満ちた映画は撮ってくれなかった。
そこへ降って沸いたような『スパイダーマン』の映画化である。この話をサム・ライミに持ち込んだプロデューサーは目がある。はたして、『スパイダーマン』はサム・ライミが久々に、思う存分、やりたい放題にして作り上げた傑作となった。映像のイタズラも復活した。スパイダーマンの目にものを映すというテクニックが何回か出てくる。一番効果的なのが、グリーン・ゴブリンが左手にメリー・ジェーン、右手に大勢の人が乗ったロープウェイのゴンドラを持ち、同時に離すぞと脅すシーン。メリー・ジェーンとゴンドラが片方ずつの目に映っている。
また、グリーン・ゴブリンが野外の実験場で自分を裏切った会社の幹部に爆弾を投げて爆発が起こるシーンに、ピーター・パーカーたちの高校の卒業式、ポーンと放り投げられた沢山の帽子が被るといったつなげ方。これは、『ダークマン』でも、序盤でペイトン博士が襲われて自室が爆破されるシーン。爆発の衝撃で博士が外に放り出される。それを見つめる恋人の背景がスーッと墓地になるというつなげ方を思い出させる。
スパイダーマンの動きも、どこかコミカルなのもライミらしくていい。CGをチャウ・シンチーの『少林サッカー』とまではいかなくても、遊びで使ってやろうという精神が感じられる。そして、このスパイダーマン、やはり忍者の影響が感じられたのは私だけだろうか。続編の製作も決まったようだ。今回はスパイダーマン誕生のストーリーが半分占めてしまったが、いよいよ面白くなるのは2作目からだと思う。12年待った甲斐があった。
May.10,2002 ジジ・リョン、快演! 怪演! カーワイイ!
今年の旧正月に香港で公開された、アンディ・ラウ主演の映画。うーん、このタイトル、[新年財]の前の最初の4文字がパソコンで出てこないのだよ。基本的に未公開の香港映画は漢字表記したいのに、これでは無理。仕方なく英語題名の『Fat Choi Spirit』でいきますか。監督が、これまたジョニー・トーと、共同監督が『痩身男女』や『Needing You』でも一緒だったワイ・カーファイ。アンディ・ラウ主演でコメディ・タッチのものを撮るときは、ジョニー・トーは常にワイ・カーファイとやるというラインが出来てしまっているのか? 去年、東京国際映画祭で『痩身男女』のゲストで来たワイ・カーファイは、その役割分担について、準備までがワイ・カーファイ。現場ではジョニー・トーだったと言っていたから、今回もまたその線で撮ったに違いない。
正直言って、私はアンディ・ラウという役者が好きでなかった。典型的な二枚目であることはわかるのだが、役者としては面白みがない人としてしか認識していなかった。それが『痩身男女』 『Needing You』の彼は、もう別人。これぞジョニー・トー・マジックだろう。
今回は麻雀映画。麻雀のルールもウロ憶えの私だが、まあ、知らなくてもだいたいわかる。麻雀で負け、金が払えないでボコボコにされたアンディ・ラウ。それを助けたのがジジ・リョン。アンディを愛してしまったジジは傷だらけの彼を看病すると共に、彼のギャンブル運が良くなるようにと麻雀の神様にお願いする。すると、アンディは最強の運を持った雀士になってしまう。引いてくる牌は、いい牌ばかり。苦労せずに簡単に、国士無双だのチューレントンポウだのが出来あがってしまう。
ジジはアンディにぞっこんなのだが、アンディはうっとうしく思っている。どこへ行っても出没する、このジジのストーカーぶりが楽しい。もともとはスチュワーデスなのだが、スチュワーデスだと彼の側にいられないと、次々と職を変える。交通違反取締りの女性白バイ警官、マルサの女などになって、アンディの前に出没する。彼に気に入られようと豊胸手術までするが、アンディは無視。とてもカワイイ女なのになぜ?というところなのだか、この女性、いささか性格に問題がある。掃除や料理といった家庭的なことに関する才能がゼロなのだ。アンディに「何を食べたい?」と訊くと、「それじゃあ明日作るわ」と答えたかと思うと、街で学生を捕まえて、「明日の弁当、おかあさんに○○を作ってもらって来い」と恐喝。アンディの部屋に無断で侵入して掃除をするところは、『恋する惑星』のパロディのようなのだが、ゴミはみんなソファの下に押し込んじゃう、いいかげんさ。
ある日、アンディの弟ルイス・クーが、ラウ・チン・ワンらの麻雀イカサマ軍団の餌食になり、身包み剥がされてしまうという事件が起きる。そこへ乗り込むアンディ。彼らに闘いを挑む。雀卓を囲むアンディ以外の3人はみんなグル。しかもアンディのうしろにもスパイが立って見ているから、アンディの手は丸見え。絶対にアンディを上がらせないように、上がり牌を切らないようにしているから、アンディは苦戦をしいられる。そこで、アンディの考えたのは、4筒の牌を使ったトリックなのだが、これが、まさに「あっ!」というトリック。
「結婚して!」と迫るジジ。拒絶するアンディ。ついに切れたジジは、「呪ってやる。麻雀の運が無くなるように、神に祈ってやる!」と宣言するや、これが神に通じたのか、アンディは麻雀運が無くなってしまう。配牌されてきた手は、バラバラで、どうしようもない。仕方なくどれか1枚を切ると、切ったばかりの牌を引いてくる。ラウ・チン・ワンらとの再戦はボロ負け。再び「結婚して」と迫るジジに、「今はできない」と答えるアンディ。しばらく離れて性格を直してくるというジジ。そんなジジが最後に、アンディが麻雀をしている姿をもう一度見たいと言い出す。あいかわらずロクな配牌が来ないアンディ。そんな中、「運が無いときは無い時で、いろいろと考えることが出来るから麻雀は楽しいんだ」と語るアンディ。
クライマックスは麻雀大会だ。最後に残ったのは、またもやアンディと、ラウ・チン・ワンのイカサマ軍団。ここでもまた、4筒牌が鍵となる。前回、まんまと4筒でやられているという伏線が効いているので、ここの盛り上がりが楽しい。
輸入DVDなので日本語字幕が無いのが辛いかと思ったが、意外やスーッと理解できる楽しい映画だった。ジョニー・トーの快進撃は、まだまだ続くようだ。