October.31,2002 ターザンのような空中戦

        以前、未公開の香港映画をビデオで見ようとすると、パル方式のビデオデッキが必要だった。そのためだけにパルのビデオデッキを買う気はなかったのだが、やがて日本のデッキでも見られる方式にコピーしたビデオが、何やら怪しげな中国系レンタル・ビデオ屋で借りられるようになった。私も結構、日本にいる中国人向けの店でこの画質の悪いコピー・ビデオを借りて見ていた。やがて、レーザー・ディスク時代からビデオCDの時代になり、香港に旅行に行くという友人に頼んで大量に香港映画のビデオCDを買ってきてもらったものだった。と言っても、当時はまだパソコンを持っておらず、セガ・サターンというゲーム機で再生して見ていた。そして、ついにDVD時代に。

        輸入DVDショップを覗いたら、ミッシェル・ヨー主演の新作『天脈傳奇』(The Touch)が入っていた。ところがこれがビデオCD。DVD発売は、もう少し後になると店長さんの話。別にビデオCDでもかまわないやと思い、購入してしまった。DVDの場合、字幕は中国語と英語から選べるが、ビデオCDの場合は中国語と英語が併記されて画面に出る。英語の意味がわからないときは、中国語の漢字を眺めているとなんとなく意味がわかることがあり、これはこれで重宝。しかも、漢字表記の方が情報量が多いことがよくある。



        ビデオCDも見られるDVDデッキに入れて再生してみて、愕然としてしまった。このところ、すっかりビデオCDを見なくなってしまっていて、DVDでばかり香港映画をみていた。DVDを見なれてしまうと、やっぱりビデオCDの画質の悪さが歴然としてしまう。DVD時代になって、もうビデオCDには戻れなくなってきてしまったようだ。

        時代は現代、青島のサーカスにユィン(ミッシェル・ヨー)とトン(ブランドン・チャン)の姉弟が出ている。舞台には何本かの高い杭が地面から突き出しており、そのテッペンを飛び移りながら、ふたりの殺陣をみせるという趣向。天井から下がっているロープを使っての、ターザンのような空中飛行も見せ場のひとつ。

        さて、物語は仏教の秘宝をめぐって、それを手に入れようとする悪者の西洋人カール(リチャード・ロックスボウ)と、ユィン、トン姉弟の宝捜し。ユィンには幼馴染で今は泥棒というエリック(ベン・チャップリン)という仲間がいて、これらの一行が出しぬき合い、やがて敦煌まで赴き、ついには宝の隠し場所の洞窟に辿りつく。ここまでの演出が、ややかったるい。悪人カールの描き方がかなり類型的で安っぽく思えてしまうのと、盛り上がるような演出力が乏しい気がする。

        それでも洞窟に入ってからが俄然面白くなる。この洞窟、宝を守るためにいろいろな仕掛けがしてあるのだ。ちょうどエジプトのピラミッドがスフィクスの内部のようなのだ。突如、地面から杭のようなものがいくつも立ちあがってきて、その上に上っていれば安全なのだが、下は火の海。さあ、ここで姉弟のサーカスの技が生かされるというわけ。悪人カールとのロープを使っての空中戦が展開されることになるのだが、ここはさすがに面白い。単なるワイヤー・ワークの空中戦ではなく、ロープをつたってのターザンのような空中戦となる。まあ、やや誇張はあるが・・・。この空中戦のあとも、洞窟からの脱出劇が用意されていて、ここでもロープがキーワードになるのがいい。

        これはやっぱり、画質のいい映画館の大画面で見た方がいいだろう。もし日本で公開されたら映画館でもう一度見ることにしよう。中国語英語字幕も疲れたし。


October.14,2002 Twinsのふたりに年甲斐もなくキュン

        香港のポップス界というのには、実はあまり興味がない。しかし、香港の映画に出ている役者の多くは、歌手としても活躍している。このことも良質な娯楽映画が生まれてくることの一因なのかもしれない。どうも日本の映画界は深刻な映画にばかり向う傾向があるようで・・・。そんな愚痴はいいか。

        輸入DVDショップの棚を見ていたら、若い女の子ふたりが後ろ向きに座ってこちらを振り向いているジャッケットがあった。『這個夏天有異性』(Summer Breeze of Love)という映画だった。



        二十歳前後らしいこの子たちは、TWINSというユニットで歌手デビューして、香港では大人気らしい。ツインズといっても、おわかりのように双子ではないのだが。まあ、日本で言えばピンク・レディーみたいなものか・・・ひえー、例えが古いー! ええっとパフィーみたいなものか・・・これでも古いか。

        監督が青春ものを撮らせたら定評のあるジョー・マーだから、まあ損はないかなと思い買ってしまった。話はふたりが一夏に経験するラヴ・ストーリー。右の子がシャーリーン・チョイ。シャーリーンは父親のアマチュア・バスケット・ボール・チームの試合を見に行って、相手チームのメンバーであるデイヴ・ウォンを好きになってしまう。その日その場で初キッス。ところがデイヴは評判のプレイ・ボーイ。彼の回りは女の子でいっぱいだ。しかし、シャーリーンはデイヴのことが忘れられない。

        一方、左の子ジリアン・チョンは、どこがいいのかわからない、風采の上がらない40男に入れ揚げてしまう。おじさんである私としては、このジリアンの方が気になってくる。積極的にアタックをしてくるジリアンに、40男の方がタジタジだ。若い女の子の方からデートに誘われるうちに、おじさんファッションから、にわかカジュアルになるのも可笑しい。『男人四十』や『異度空間』のカレーナ・リンが暗いイメージの中年男キラーだとしたら、ジリアン・チョンは、いかにも等身大の二十歳前後の、明るい女の子。こんな女の子からアタックされたら私もタジタジになってしまうだろうなあ。

        さあ、はたして、ふたりの一夏の恋の行方は? ツインズのふたりの演技は、けっして上手いとは言えないが、見ていて、実にみずみずしく、爽やか。こういう娯楽映画って、なんで日本で出来ないのだろう。


October.4,2002 笑えるホラー・コメディ。最後には涙

        絶好調なジョニー・トーとワイ・カーファイ共同監督路線。『ニーディング・ユー』 『痩身男女』とアンディ・ラウ、サミー・チェンの二大看板ロマンチック・コメディのあと、『Fat Choi Spirit』でアンディ・ラウ対ラウ・チン・ワンの麻雀対決コメディと来て、今度はサミー・チェンとラウ・チン・ワンを使ったロマンチック・ホラー・コメディと来た。迷わず『我左眼見到鬼』(My Left Eye Sees Ghosts)の輸入DVDを買ってしまった。このところジョニー・トーにハズレなしだもん。



        メイ(サミー・チェン)は電撃結婚して7日目で未亡人になってしまう。結婚した相手はファッション業界の大金持ち。夫ダニエルの死後も夫の残したプール付きの豪邸に住み、毎日テレビを見たり酒を呑んだりのグータラ生活。メイは自分の父はダイヤ商人だとウソをついて結婚したのだが、実際は豚の密輸の罪で服役中。この父の役がジョニー・トー組の常連ラム・シューで、今回もコミカルな演技を見せている。弟と妹も、どう見てもマトモな生き方をしていないよう。当然、メイもマトモではない。困ったことに窃盗癖があり、自分のファミリーの店で万引きをする始末。

        夫の栽培していた植物は枯らしてしまうし、夫の飼っていた犬が老衰で死んだことによって、回りでは、彼女はダニエルを愛して結婚したのではなく、金が目当てだったんだろうと噂になる。ヤケになって酒を呑んでクルマを運転するうちに、壁に激突。重症を負ってしまう。その後遺症(?)として彼女の左目は幽霊が見えるようになり、幽霊と話もできるようになってしまう。

        こう書いていると、先月書いた『見鬼』(The Eye)を思い出すが、こちらはあくまでコメディ。はたしてジョニー・トーたちが『見鬼』を意識したのか、偶然にアイデアが似てしまったのかはわからないが、タイミングとしては面白い。

        メイを助けたのはケン(ラウ・チン・ワン)という男の幽霊。メイとは子供のころ同じ学校のクラスメイトだった。その後、ケンは溺れて死んでしまっていたのだが、幽霊となって彼女の前に現れたというわけ。ここまでがいわばこの映画のイントロ部分。このあとは、商売人のジョニー・トー&ワイ・カーファイ、きっちりとコメディとして退屈させない出来になっている。『痩身男女』でもコメディエンヌとしての才能を見せていたサミーだが、今回も実にいい。しかも、クライマックスでは、ケンが現世に現れた本当の目的がわかるあたりから、ほとんど感動的な話になっていく。不自由な英語字幕にもかかわらず私は、はからずも涙を落としてしまった。ジョニー・トーならハズレなし。この神話はまだ続きそうだ。


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