April.4,2003 芸術的?アクション大作
この正月にアジア各国で公開された『英雄』(Hero)も、いつでも待たされる日本の興行方式だが、この夏には公開されるようだ。それもそのはず監督がチャン・イーモウだからだろう。
リー・リンチェイ(ジェット・リー)主演の武侠ものとくれば、胸が踊るところだが、なにせ監督が芸術派のチャン・イーモウ。ツイ・ハークあたりの演出を期待すると肩透かしを食らう。秦の始皇帝(チェン・ダオミン)に反感を持つ刺客が、その命を狙っているわけだが、それらの敵と戦うのが無名(リー・リンチェイ)というわけ。
一番いいのは最初の闘いとなる槍の達人長空(ドニー・イェン)と無名の対決。雨の降る寺の境内のようなところでの繰り広げられる。これがさすがにチン・シウトンを殺陣に起用しただけあって迫力のシーンになっている。ふたりともキレのいい動きをしているし、ところどころに使われるスローモーションもアクションの流れにあまり邪魔にならない程度の入れ方で好感が持てる。スローモーションといえば雨の使い方がいい。雨だれが跳ねる様子、蹴り上げられた水滴がスローモーションでアップされるのだが、そのきれいなこと! 結局この雨がこの闘いの雌雄を決することになるのだが、このシーンだけでも見て良かったと思わせる名場面になっている。
残剣(トニー・レオン)、飛雪(マギー・チャン)、如月(チャン・ツィイー)は、書道拳法とかいう、どうも理解できない拳法の使い手。しかもこの3人が三角関係にあるのだから、話がもたついてきてしまう。物凄く強そうには見えないのだ。しかも無名が倒さなくても秦の軍隊の強烈なことといったらない。残剣たちのいる屋敷を狙う弓矢部隊の数の多さといったらどうだ!! 荒野に展開した弓矢部隊が一斉に矢や槍を放つ。おそらく映画史上最大量の矢が飛ぶシーンだろう。矢は壁や屋根を突き抜け部屋の中にいた者たちに突き刺さる。どう考えても無名の出番は無いような気がするのだが? この残剣たちの屋敷では全員が赤い衣装を着ていて、もうまっかっかな映像。
きれいさといったら飛雪と如月の女同士の闘い。枯葉舞い散る屋外での決闘。イチョウの木だらけの森で、それこそまっ黄色。そこへ赤い衣装のふたりがワイヤー・ワークで空を飛ぶ。この赤と黄色のコントラストが目が醒めるほどきれい。マギー・チャンとチャン・ツィイーの演技勝負は迫力があるが、ここのアクションはやはりワイヤー・ワークに頼りすぎている。アクション女優ではないふたりだからしょーがないか。
困ったのは無名と残剣との対決シーン。湖の上での空中戦。一度も着地せずに水上を走り、空を飛び、剣を交える。きれいなシーンではあるのだが、重力をここまで無視してしまうとさすがに苦笑がもれてしまう。
アクション・シーンも多く見ていて飽きないのだが全体が無名の回想シーンで、それを秦の皇帝に話すという構成になっているので、話のテンポが寸断されてしまう印象がある。
それでもさすがにチャン・イーモウだけあって色の使い方が上手い。もうその色へのこだわりは変質的ともいえるほどで、シーンによって、黄土色を基調にすれば登場人物の衣装も背景も黄土色。青色を基調にすれば衣装も背景も青色。緑色を基調にすれば衣装も背景も緑色という徹底した色使いがなされている。
悪くはないんだけどね。これをツイ・ハークに撮らせたらどうなったろうかと、ついつい思ってしまう私なのだ。