August.14,2004 スタイリッシュ黒社会映画
「むむむ、なんだこのジャケットは」と、見た瞬間に思ってしまった。なにやら日本のネオヤクザ映画のよう。暗闇の中でアンディ・ラウとジャッキー・チョンが握っているのはドスだとばかり見えてしまった。映画を観るとわかるのだが、これはドスではなく傘。ジッャキー・チョンがアンディ・ラウに傘を差し出しているところなのだ。
どうも『インファナル・アフェア』のヒットが香港の黒社会ものブームを引きずっているようで、この『江湖』(jiãng hú)も大ヒットしたという。なにしろ、アンディ・ラウが出ている上に、ショーン・ユー、エディソン・チャン、それにエリック・ツァン、果てはチャップマン・トウまでが『インファナル・アフェア』と被っている。
洪(アンディ・ラウ)は黒社会のボス。自分の子供が産まれた日に片腕的存在の左手(ジャッキー・チョン)から、家族3人でニュージーランドへ行っていろと勧められる。というのも、洪の命を狙っているチンピラが街中に溢れているからだ。このジャッキー・チョン演じる左手(レフティ)というのは、まさに日本語でいうなら右腕。なぜ左手かというと、左利きだかららしい。
一方、レストランの厨房で働いている翼仔(ショーン・ユー)は実はチンピラ。黒社会で一旗あげたいと思っている。そこへ黒社会のボスを殺せば出世できるというニュースがもたらされる。口うるさいチーフ・シェフに即「辞める」と宣言。ターゲットを殺すべく街に出る。ところが渡された武器は大きなナイフだけ。どうしても拳銃が欲しい。仲間のTurbo(エディソン・チャン)は翼仔のために、拳銃を手に入れる手助けをする。
監督は新人の黄精甫(Won Ching Po)。この人の撮り方が今までにないスタイリッシュな映像を生み出している。たとえば冒頭のレストランの厨房シーン。どうやらこの厨房は地下にあるらしくて、ショーン・ユーを捉えていたカメラがスーッと上昇すると天井を突き抜けて上の部屋が現れ、またスーッと下の厨房に戻っていく。上に上がりたいというショーン・ユーの気持ちを表しているかのよう。かと思うと、後半でアンディ・ラウとジャッキー・チョンがふたりだけでレストランで食事をするシーン。ふたりは長いテーブルの端と端に腰掛けているいるのだが、一方の側から相手を捉えたショットではカメラが常に前後に緩やかに揺れている。ふたりの議論が激高するとテーブルが左か右にググッと動く。あたかもテーブルにキャスターが付いているかのようだ。これもふたりの心を表しているのかもしれない。
クライマックスは、レストランを出た洪と左手が大勢のチンピラに襲われるシーン。夜、外はどしゃぶりの雨。左手が洪に傘を差し出す。ジャケットにもなっている場面だ。ここからはずっとスローモーションになる。洪たちが石段を降りているときに手に手にナイフを持ったチンピラたちが殺到してくる。これがスリリングかつ美しい。
実はこの映画、大きな仕掛けがしてある。私は1時間25分の上映時間のうち、1時間ほど経過したところで気がついた。まあ、見てのお楽しみなんですが。