September.12,2004 臨場感いっぱい、8分間長回しの市街戦



        ジョニー・トゥ監督の『大事件』(Breaking News)の冒頭は約8分間の長回しから始まる。この目の眩むようなシーンを観るだけでも価値がある。ジャケットのような、あるストリートがその舞台。以下のカットは全て切れ目なくカメラは回しっぱなしだ。

道の一方から長髪の男が歩いてくる。カメラは、その男を捕らえ左に姿を追う。

男はある建物に入り、階段を登る。カメラはそのまま上昇。2階の窓を覗き込む。

すると長髪の男がドアをノックしたらしく、中の人物が扉を開ける。室内に入る男。室内には数人の男達。その中にYuen(リッチー・レン)の姿もある。Yuenが男に「どういう具合だ?」というようなことを訊くと、男は「準備OKです」と答える。「よし、行くぞ。クルマを用意しろ」とのYuenの言葉で室内の男たちは動き出す。それぞれが銃器を持っている。

窓の外を覗き込むYuen。

カメラ、Yuenを捉えた角度からストリートの方へ右回転しながら下がっていく。空から新聞紙が落ちてきて、駐車中のクルマのボンネットに着陸。

クルマの前部座席には、2人の男が座っている。助手席の男が、サイドドアから手を出して新聞紙をクルマの中に引き入れる。カメラはクルマに近づきクルマの中を覗き込む。助手席の男はCheung刑事(ニック・チョン)。そして運転席のもう一人の刑事はHoi(ホイ・シウホン)だ(出ました、ジョニー・トゥ組には欠かせないダメな上司。でも今回はChuengの部下らしい)。Cheungは新聞を眺め、丸めて車外に放り出す。この間、クレーンで降りてきたカメラはクルマを回り込むようにクルマの後部へ移動する。

警察の無線が二人の刑事に届く。「1人がクルマを角に入れようとしている。3人が建物から降りてくる」 「よしスタンバイだ。今日は忙しくなりそうだぜ」

Yeuen、長髪の男、そしてもう1人が外に出てくる。

カメラは刑事の乗ったクルマの後ろのガラスからストリートを捉える。クルマがバックでこのストリートに入ってくる。

警察無線が入る。「警官が2人やってきます」 「くそっ!」

バックしてきたクルマに警察官が近寄る。「クルマから出なさい」

カメラはクルマの後部ガラスから伸び上がり、この模様も撮り続ける。

クルマを運転していた男が右の路肩にクルマを停め、ドアを開けて降り立ち、警察官のいる道路側にクルマの前を回ってやってくる。「どうかしましたか?」 「どうかしましたじゃない! なぜバックで入ってきた?」 「すみません、急いでいたもので」

カメラは右側の歩道にいる長髪の男の方にクレーンで寄っていく。

「ここは一方通行だぞ」 「すみません、標識を見落としました」 「なんでこんな大きな標識を見落とすんだ」

カメラは長髪の男を捕えたあとも、その先の店の中に回り込んでいく。

「すみません。もう二度としませんから」 「免許書を見せなさい」・・・・・・

カメラはYeunの姿を捉え、そのまま左回転して道路に戻ってくる。

警官とのやりとりが続いているのを捉える。「免許書を持ってないのか?」 「持ってますよ。私は優良ドライバーです。標識を見落としただけです。二度としませんから」・・・・・

カメラはぐるーっと回って、またCheung刑事らの乗っているクルマの前を捉える。

Chungが無線で指令を出す。「二匹の虫を取り除け」

カメラはまた右旋回を始める。

「身分証明書を見せなさい」 「勘弁してくださいよ」

このときにカメラは白髪の男を捉える。耳からイヤホンを外す仕種。この男も刑事だ。男は道に落ちていたバールのようなものを拾い上げ、画面右側に歩き出す。

「協力しろ。免許書を出せ」

白髪の男が前から歩いてきた太った男に話しかける。どちらからともなく喧嘩が始まる。刑事同士による贋の芝居らしい。カメラは右へ動いて二人を捕らえたあと、喧嘩をしている二人から、今度は左へ旋回して、二人組の警官の一人がこちらに向かってくる姿を捉える。

「おい、そこで何やってるんだ」

カメラはそのまま左旋回を続け、もう一人の警官と運転手の姿を捉える。

「すぐに立ち去りますから、違反キップは切らないでください」

交通違反者を相手にしていた警察官もさすがに、もう一方の喧嘩沙汰の方が気になりだす。

「よし、今回だけだぞ」

男はクルマの前を回って運転席へ向かう。ふと、警察官は座席を見つめて

「おい、あのバックは何だ?」

クルマのすぐ近くに立っていた長髪の男が振り向く。カメラは店の影にいるYuenの姿も捉えている。

「あのバックは何だと訊いているんだ」

警官が前に立っている不信な長髪男の視線を意識する。肩の無線に手を上げたところ、

3人が拳銃を取り出して警官を撃つ。倒れる警官。カメラは右に移動する。長髪の男がもうひとりの警察官にも発砲。

カメラはそのまま右へ回る。Cheungたちがクルマから出て、3人に向かって拳銃を発砲している。

カメラは下がりながら右回転を続け通りの反対側にいる、先ほど喧嘩芝居をしていた二人の刑事を捉える。この2人も拳銃を取り出して発砲をしている。太った刑事が撃たれて倒れる。それをカバーするように白髪の刑事が太った刑事を物陰に避難させる。

カメラはそのまま右へ移動していく。身を伏せて怖がっている道路工事人。そして張り込んでいたらしい刑事が発砲している。

カメラは左に回転する。クルマの陰で発砲する長髪の男。店の陰で発砲するYuen。そして運転手も発砲している。

今度はカメラは右方向に移動し始める。Yuenは前方の刑事と左側のChuengたちに向かって二挺拳銃だ。そして、アジトの階段から自動小銃を持った第4の男が出てきたのを捉える。

男はいきなりChuengたちに向かって自動小銃を撃ちまくる。

カメラが素早く右に回りChuengたちの姿を捉える。Chuengも自動小銃を持っていて撃ち返している。Hoiは拳銃のまま。たまらず2人はクルマの後ろに隠れる。そのとき後方から2台のパトカーがサイレンを鳴らしながらストリートに入ってくる。

そのままカメラはパトカーに近づいていく。中から出てきた刑事たちが発砲する。パトカーにも銃弾が浴びせられ、クルマは穴だらけになっていく。

うち1人がChuengたちのクルマの方向に前進しはじめる。その姿をカメラは左に追い、クルマの後ろから発砲しているChuengとHoiの姿を捉えたかと思うとクレーンが上がりだす。

クレーンに乗ったカメラはアジトのある建物の2階部分に横付けされる。と、2階の窓から自動小銃で発砲している男の姿。男は正面の刑事と、左側からのChuengたち、および応援で駆けつけたパトカーの刑事たち交互に向かって発砲を続ける。そんな男のいる壁にも容赦なく着弾している。

クレーンに乗ったカメラは、この男に向かってどんどんと接近していく。男は窓から出て、地上に積んであった段ボールの山に飛び降りる。

それを追ってクレーンも地上に戻る。男は右方向に駆け出す。

と、通りの入口に警察のバンが停まるのをカメラが捉える。

2階から飛び降りた男が、このバンに向かって自動小銃を乱射する。割れるバンのガラス。バンの中の刑事も撃ち返す。

画面にYeungが飛び込んでくる。「クルマを奪え!」

クレーンが上昇を始め、後ろに下がっていく。

5人の犯人が、警察のバンに乗り込んでいく姿が上から捉えられる。中の一人、運転手だった男が足を撃たれる。

クレーンが後退しながらまた下がりだしChuengたちの後ろに下りてくる。正面でバンに乗り込んでいる男たちに発砲を続けている。

カメラがまたバンの方向に近づいていくと

バンの中かロケット砲が出され、ミサイルが発射される。


        ここからは、さすがにカット割りを余儀なくされるのだが、もうさながら、市街戦の戦場にいるがごとき映像だ。

        このあと、刑事たちは走って犯人の乗ったバンを追う。バンは事故渋滞に巻き込まれたらしく、置き去りにされている。銃を構えたまま血のあとを見ると、犯人たちが移動している姿が。またもや銃撃戦始まる。そこに、事故の検証をしていたらしい警察官が紛れ込んできてしまう。Yuenに銃を突きつけられた警官は思わず手を上に上げてしまう。その警官を容赦なく撃ち殺すYuen。そして、犯人たちは救急車を乗っ取って逃げてしまう。

        問題はこの様子をマスコミが撮っていたことだ。犯人の前で命乞いをする警察官。はたしてこんなことで市民を守れるのかとマスコミ各社とも騒ぎ出す。ここで出てくるのが副指揮官のRebecca(ケリー・チャン)。彼女はマスコミによって失墜した警察の名誉は、マスコミ操作によって失地を回復する必要があると主張する。

        やがて次のアジトが見つかる。あるアパートの一室にいるらしいとわかり、警察隊が出動する。ところが、このアパートの中にもう2人、ある犯罪をたくらんでいる男がいる。5人組(うち1人は市街戦で死亡して、今は4人になっている)の目的は強盗らしいのだが、2人組の目的は最後に明かされるのだが、ここでは不明のままにストーリーは進む。

        そして、犯人逮捕の様子をマスコミに撮らせようと画策するRebeccaなのだが・・・・・。

        このあと、このアパートを舞台にまた銃撃戦が開始される。やはりジョニー・トゥ組に欠かせないラム・シューが人質役でいい味を出しているのがうれしい。

        作品の出来としては『ザ・ミッション 非情の掟』や『PTU』あたりに比べると、やや物足りなさを感じるものの、男の子に生まれたからには、この市街戦シーンにはワクワクさせられるに違いない。       


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