July.24,2005 陳腐な設定ですが・・・・・
『ワン・ナイト・イン・モンコック』(旺角黒夜)のイー・トンシン監督の新作『早熟』(2young)の輸入DVDを見つけたときに、買おうかどうしようか正直いって迷った。イー・トンシンなら[買い]だと思うのだが、パッケージに書かれているストーリーを読んでみるとどうも食指が動かない。どうやら貧乏人の男とお金持ちのお嬢様が恋に落ち、親の反対に合うといった内容らしい。こーんな、いままで演りつくされた陳腐なストーリーを今更観たくないという思いが湧いてくる。でも、ジャッキー・チェンの息子であるジェイシー・チャン(どうやらジェイシー・フォとも伝えられる)が出ているし、相手役のアイドル歌手、フィオナ・シッも観てみたい・・・・・って結局買うんじゃん。
フー(ジェイシー)は、有名女子高校に通うナム(フィオナ)の姿を観て好きになってしまう。登下校姿の彼女を見るのだが、遠くから眺めているだけ。そんなフーの様子に気がついたナムは自分からフーに近寄っていく。「学校でクリスマス・イブのダンス・パーティーがあるから、それにおいでよ」と言う。この高校のダンス・パーティーは恒例になっていて、有名男子校の生徒たちとの交流の場だ。フーはどさくさで、その中に紛れ込む。当然このことはバレて、フーはつまみ出されるのだが、外にはナムが待っている。「うちに来ない?」 こうしてフーはナムの家に招待されるのだが、両親は海外に出かけていて留守。どうもこの両親はいつも留守がちな家庭らしい。
ふたりは急速に親しくなっていく。このふたりの家族というのが絵に描いたよう対照的。フーの父親(エリック・ツァン)はミニバスの運転手(出ました。『忘不了』でもミニバス。イー・トンシン監督、労働者階級というとミニバス運転手がお好きらしい)、母親は共稼ぎでレストラン勤務。家は狭いアパート暮らし。でも家族仲良く暮している。一方のナムの父親(アンソニー・ウォン)は有名な弁護士。母親も弁護士だったが、今は亭主のアシスタントをしているらしい。大きな家に住んでいて、お金には困らない。娘には自由に使えるクレジット・カードを与え、毎日習い事をさせて英才教育をほどこしている。ただ両親とも忙しくて娘と接している時間はほとんどない・・・・・って、これだけアナクロな設定だと、思わず溜息が出てしまうではないか。父親がエリック・ツェンとアンソニー・ウォンとくると、『インファナル・アフェア』の対立関係そのままというのも、思わず笑いが込み上げてきてしまった。
ナムの両親が留守なのをいいことに、ふたりはキャンプに出かける。テントを張り、バーベキューをやり、いけないことにナムはお酒まで持ち込む。こうなると、もっといけないことに当然なっちゃうじゃないですか。しかも、良家のお嬢様だという女の子の方が積極的って・・・・・ああ、いけない娘! その結果、ナムは妊娠。堕胎手術をしようと相談がまとまり産婦人科に行くが、手術直前でナムは逃げ出してしまう。妊娠という事実を知ったナムの父親は烈火のごとく怒り出す。英才教育をほどこして、いい家のおぼっちゃんと結婚させようとしていたレールが壊れてしまった。ナムをアメリカに行かせて堕胎手術をして、アメリカの学校に行かせようと言い出す。
となると、ストーリーの運びもお定まり通り。ふたりは駆け落ちする。なぜか誰も住んでいない緑に囲まれた廃村を見つけて、そのなかの一軒の家に住み着く・・・・・って、おいおい、そんなところ、香港のどこにあるのよ!(笑)。しかもなぜか電気が来ているって、どういうこと(笑)? まあ、それはいいとして、ふたりはここで生活を始めるわけだ。フーは張り切って日雇い労働者として建築現場で働くことにする。ところが寝坊してしまって、あっさりと首。おいおい、いくら若いとはえ自覚が足りなさすぎだろ! 次に雇ってもらえたのがガスボンベを自転車で運ぶ仕事。これも他の自転車と競争して転倒。自転車を大破させてしまって首。仕事中に遊んでんじゃねえよ! 若いときはしょーがないのだけど、世の中というのは、そんなに甘くないのよ。これが現実。一家の生活を支えるという自覚が足りなさ過ぎるこの青年にイライラするのは、私がもう父親世代だからだろう。
そんなことを思っていると、イー・トンシンは最後にナムの父親役のアンソニー・ウォンに、この映画の結論を語らせることになるのだが、それを聞いていると、イー・トンシンが若者たちに優しい目を向けていることがわかる。そうだよなあ、私にも、あんな若いころがあったよなあ。一歩違えば私も同じような経験をしていたかもしれないという気がしてくる。イー・トンシンはこの陳腐とも思えるテーマを通して、親子とは、家庭とはを描きたかったに違いない。
ジェイシーは確かによく見ると父親のジャッキー・チェンによく似ている。清水宏・作で林家彦いちが演る『ジッャキー・チェンの息子』を思い出して、見ながらついクスクスと笑ってしまった。フィオナ・シッも、役者とは思えない演技。今の若者って達者ですね。